35つむぎの嫉妬と執着
俺と氷華は駅前のファションモールのカフェでパフェを二人で食べていた。
一つのパフェを二人でだ。
これはあれだよな。間接キッスというヤツにカウントされるよな?
「甘いものはカロリーゼロだから助かる」
「そんな訳ないと思うけどな」
「もうちょっとオブラート包めよ」
「え? そういうものか?」
「そういうとこだよ、伊織の悪いとこ」
「そうかな?」
オブラートに包んだら、氷華に何も言えなくならない?
甘いもの、カロリーゼロとか、甘いモノへの誤解、すげえな。
栄養学を根本から否定しにかかるとか俺には理解不能の境地。
「そういえば、今日、このビルで探査者協会のイベントあるんだって」
「ああ、俺達のクランからもギルバートさんや藤沢達が出席してんだろ」
「そうみたい。先日の高校探索者大会が無効試合になったからね」
先日の全国高校探査者大会予選は無効試合になった。
俺達の記録はシステムのバグと公表され、再試合への出場が拒否された。
理由はシステムへの適応障害とか、もっともらしい説明がなされたが、事実無根。
故に俺達のクランのエースは今でも藤沢達となっている。
ギルバートさんは作戦は成功したので、気にするなと言っていた。察しはつく。
ギルバートさんの狙いは十年ぶりに覚醒者が三名も現れた事実の公表。
それもFランクを自ら公言している覚醒者。慌てて火消に入ったのだと思う。
代わりにギルバートさんから思わぬ朗報を頂いた。
近日中に、都内の有力な研究機関から母さんへ招聘がなされる。
母さんの体調の都合にも対応してくれる筈だと。
そう、国が動いた。
俺がもたらしたダンジョンコアの情報は国家、いや、人類の存亡にかかわる。
覚醒者を導き、覚醒者を管理するシステム構築が急務となる。
ここ十年、母さんの論文破棄が原因で、世界中の研究が止まっていた。
おそらく研究者達は真相を察していたのだろう。
氷華のご両親も探索者研究から魔道具研究へと仕事を変えた。
つむぎのお父さんも母さんと同じ研究者だったが、おばさんの実家の次元流古武道の道場を継いだ。
つむぎのお父さんとお母さんは母さんと同期の研究者。
「じゃ、パフェの次はデザートだわ」
「パフェって、デザートじゃないの?」
「伊織。偏見はよくない。多様性を認めると言ったのは嘘?」
「嘘じゃないけど、それ、多用性の問題?」
「やっぱりパフェの後のハンバーグ定食は必須よね」
「ハンバーグってデザートなの? て、いうか、そんなに食べて平気なの?」
「ん? スタイル維持なら大丈夫よ。定食にサラダついてるでしょ。だからノーカンになるの」
「・・・そうかな」
絶対に違うと思う。サラダへの盲信もすげーな。
それに、その食生活でスタイル維持してるとか、他の女子に聞かれたら、嫉妬と言うか、どひんしゅくかう気しかしない。
それとなくフォローしてあげよう。この無自覚とんでも恵まれ美人め。
俺と氷華が二人でデート? している時、今、会いたくない人物が通りかかった。
・・・つむぎ。
ご両親と一緒に休日のランチだろう。
三人で店内に入って来て、こちらと目が合う。
つむぎとも、つむぎのご両親とも会いたくなかった。
俺は母さんにもつむぎのご両親にも、つむぎと別れた事を報告していない。
「伊織君! ここで何をやってるんだ?」
当然だが、つむぎのお父さんに見つかってしまった。
そして三人で近づいて来る。
ご両親は困惑している。
俺の隣でハンバーグと格闘している美少女の氷華をチラチラと見ながら。
「伊織君。その娘さんはどちらの方? ご親戚?」
つむぎのお母さんがそう問いかけて来る。
やはり、つむぎもご両親に報告していないな。
不審な目で俺を見ている。
「・・・別れたのよ」
「え?」
「待て、そんな話は聞いていないぞ。伊織君、これは一体どういう事だ?」
つむぎのご両親は俺を問いただしてくる。
まるで、娘の彼氏の浮気現場を見つけてしまったが如く。
「伊織はつむぎさんに振られたんです。そうよね。つむぎさん?」
「あなたにつむぎって呼んでもいいって、許可出した覚えはないけど?」
「あら、ごめんなさい。じゃ、言い換える。七瀬さんは伊織を振ったのよね。その上、伊織が泣いて悲しんでいる姿を動画で撮影してクラスのグループラインにアップしたよね」
「つむぎ! 本当なのか?」
たちまち色めき立つご両親。
「そ、そうよ。確かに伊織を振ったわよ。でも、反省したわよ。なのに、振られてすぐに、綺麗な人をさっさと見つけて、すっかりご機嫌ね。少し位、私に心を残してくれないの? 私、反省した、後悔した。なのに、これっぽっちも私に微塵の未練も持ってくれないの?」
ご両親はますます困惑する。
当然だろう。子供の頃からずっと一緒だった。
俺が勉強を教えたり、つむぎが俺にご飯を作ってくれたり。
「少し位、すがりついてよ。私たちの十五年ってなんだったの? それなのに別れた後、他の女の子とイチャイチャって、なんなのよ!」
「何を言ってるんだ・・・つむぎ」
「本当に幼馴染だったら、もう一度付き合おうと努力するべきなのよ! 私はしたわよ!」
「うっさいわね。あんたの自業自得でしょ?」
「クッ」
俺より先に氷華が切れた。
「大声で妄言喚き散らすの止めてほしーわ。デザート台無しだわ!」
それ、デザートじゃないと思う。
「な、何よ。人の彼氏を横取りした癖に・・・ちょっと綺麗だからって、ずるいわよ」
「ずるい? それ、関係ないでしょ? あなたは伊織が綺麗な自分に釣り合わないって、判断したから伊織を振ったんでしょ? あなたも子供の頃は無垢な心の持ち主だったって伊織が言ってた。成長の過程で、容姿に恵まれている事で人より上だと勘違いした。努力もしたんでしょ? 子供の頃より社交的になって、クラスの中心になって行った」
「そ、そうよ。それのどこがいけないの!」
「いけない事じゃないわ。社交的になる努力をする事は立派よ。だけど、あなたの努力は下の人に追い越されないようにするためのもの。下の人がいると安心するためのもの」
「・・・」
つむぎが無言になる。図星だろう。俺もそう思う。
「あなたはそこで止まって、努力しているだけならよかったのよ。あなたは下の人がいると安心するだけじゃなく、下の人を蔑む様になった。伊織の事も下だと蔑む様になった。クラスの隅っこにいる伊織とあなた。探索者としてAランクのあなたとFクラスの伊織。そして、あなたは友人にも恵まれなかった。所詮同じ穴のムジナで、あなたに注意する人物なんて、いなかった」
「そうよ。確かにそうよ。それが何なのよ!」
「あなたは振った直後から伊織があたしと一緒にいるのが気に入らなかった。何故かって? 理由はあなたの判断基準は自分でも間違っていると本能が判断していたからよ」
俺はつむぎにはっきり言わなければならないと思った。
「つむぎ。俺は今、氷華を好きになった。つむぎが氷華にしようとした事、俺はあの時に氷華への気持ちに気が付いた」
「ッ!!」
「七瀬さん。伊織の隣を開けてしまったのがいけないのよ。本当に大事なモノは無くした時にわかるもの・・・ってことね」
「・・・」
沈黙が訪れる。
しばらくするとつむぎはふらふらとカフェを去って行った。
ご両親もつむぎを追って行った。
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