34気が付いたら
「で? 伊織君と氷華さんは付き合う事になったのですの?」
「なんでだよ。いつあたし達がそんな流れになったんだよ!」
「伊織君は氷華さんの事、『俺の氷華』と言ってましたわ」
「結菜を黙らせてくれ。わかるだろ? 氷華?」
「なんであたしに振るんだよ。わかるけど、いや、わからんわ」
「伊織君、男らしくズバッと氷華さんの唇を奪っちゃえ!」
「結菜、おまえ、馬鹿だろ?」
「伊織、一番の馬鹿はあなたよ。いきなり何言ったんだ? 覚悟ないと、は、恥ずいわ」
氷華が顔を真っ赤にして怒る。
「伊織君。かなり大事な事ですわ。氷華さんはちゃんとした言葉を待っているのですわ。だからそれに答えてあげるのですわ」
「俺達はそんな・・・」
「そんな関係じゃないのですの?」
「あんな事言ったのに?」
氷華が涙目で俺を見つめる。
「ここに来てひよってはいけないのです! ほんとは?」
「本当は氷華の事が気になって気になって仕方がなかった!」
「よろしい。では二人で誓いのキスをするのです」
「誰か結菜を黙らせろ」
「任された!」
ゴンと氷華が結菜の頭をコツンと叩く。
「結菜はいいのか? その・・・あたしと・・・伊織が・・・」
そうか、氷華と結菜は硬い絆で結ばれている。
その二人の間を割いてしまった責任が俺にはある。
「結菜すまない。お前の氷華を奪ってしまった」
「なんでそうなる! あたし達そんな関係じゃねーわ!」
「・・・氷華」
「なんだよ」
「二股は良くないぞ」
「しねーから!」
何故か氷華はぜいぜいと吐息を荒げている。
「氷華。俺は多様性には理解があるつもりだ」
「啓もうすんな! むしろあたしを止めろ!」
「氷華さん。頑張るのですわ」
「がんばらねーよ!」
なんかよくわからん。
「伊織君。私は陰陽寮の一人なのですわ。陰陽師として、伊織君を監視する為に近づきました。高校一年からずっと見ておりましたわ」
「結菜が陰陽師ってのはわかるけど。陰陽寮って?」
「遥か千年以上前から日本を陰から支えて来た特務機関ですの」
結菜が自分の組織の正体を明かした?
「・・・私には許嫁がいるのですわ」
「なあ、それって、会った事あるのか?」
「ありませんの。初めて会う時は結婚する時ですわ。陰陽師は皆そうですの」
「・・・結菜」
「わかった。お前には許嫁がいて、だから氷華の事を、グスッ。お前ってヤツは」
「ちがーう! そのポジション! あたしのだわ!」
「え?」
「だから、あたしと結菜はそんなじゃない。あたしは伊織だけが大好きなんだよ!」
「氷華さん、もっと言って」
「死んでも言わねーわ。恥ずかしい事を二度も言わねーわ!」
俺は衝撃を受けた。氷華が俺だけを?
「俺達、ただの両想いになるんじゃないか?」
「なんでただのなんだよ?」
「伊織君。嫉妬ですの」
「お、おう」
「してねーーから!」
「痴話げんかはいい加減にして部屋に入って来てくれんか?」
突然、高校の応接室の前の扉の向こうから声が聞こえた。
そうだ。俺達は例の事件で呼び出しを受けていた。
「如月伊織、パーティーメンバーと入室します」
「うむ。頼む」
応接室には校長と駆けつけてくれた先生、そしてなんとクランマスター、アッシュ・ギルバートさんが待っていた。
ある程度の処分は覚悟していたが、想像以上に厳しいものか?
「本来、校長の私から君への処分を話さなければならん問題じゃが、探索者の問題に発展しての。全てはクランマスターに委ねざるを得ない状態じゃ。ギルバートさん、説明を」
「はい。問題は一高校生の暴力沙汰では・・・済まない・・・という点に尽きる」
暴力沙汰と聞いて、身が引き締まる。
俺は氷華が穢されると知り、我を忘れてしまった。
暴力は暴力だ。藤堂が何故あれ程弱かったのはわからないが、一方的なものになってしまった。それは糾弾されるのが筋。
「藤堂君、宮本君、七瀬君の三名は警察での事情聴取が引き続き行われる」
「・・・つむぎが」
俺はつむぎが警察沙汰のやっかいになっていると知り、気が落ち込んだ。
「伊織君。七瀬つむぎ君のご両親は君とお母様の恩人。違うか?」
「はい。その通りです。つむぎのご両親は俺達家族の恩人です。今住んでいるアパートも破格の値段で貸してもらっています。道場の師範もアルバイト代を頂いています」
「ならば、取引だ」
「取引?」
俺は訝しんだ。
確かに、つむぎはともかく、つむぎのご両親には恩義がある。
だが、何故取引が必要?
何と何をトレードする?
「今回伊織君が起こした暴行事件は・・・世間に知られる訳にはいかない」
「どういう事ですか? 俺も確かにやり過ぎたと反省しています。処分は覚悟していました」
「藤堂君は講道館柔術黒帯三段。その藤堂君が一方的に叩きのめされる。その上、体育館倉庫の扉を木っ端みじんに粉砕。君自身も驚いているんじゃないか?」
「・・・た、確かに」
確かに俺も腑に落ちない点があった。
人格はともかく、藤堂の格闘技の能力は俺と五分の筈。
なのに、何故一方的なことになったのか?
ましてや、扉を爆散させるとか、人間技じゃない。
「覚醒者はダンジョン外でも能力を発揮できる」
「な!」
「なんですって!」
氷華が驚きの声を上げる。
俺も同様。
「藤堂君に対して一方的になったのは、君が探索者として能力を地上で開花させたから、私と同様に」
「それは秘密にする必要があるんですか?」
「当然だ。もし、覚醒者がダンジョン外で大量に闊歩したら、警察も軍隊も対応できない。日本、いや世界中が無法地帯となる。わかるな?」
「そ、それがギルバートさんが母さんの論文への協力を拒否した理由なんですか?」
「その通りだ。政府からの圧力に屈した。いや、従うよりなかった。彼らの意見に同意せざるを得ない」
俺は母さんの論文が握りつぶされた理由を知り、愕然とした。
「取引の内容は今回の事件のうち、暴力沙汰を取り消す代わりに姫野君への性暴力未遂をなかったものとして欲しい」
「しかし、被害者は氷華です。俺の一存で決める訳に・・・は」
「では、決断を姫野君にしてもらおう。どうかな? 君が同意してくれないと、伊織君が恩人にあだなす事態となってしまうが、それでも被害届を出すかな?」
「なんか、ひでー取引に利用されてんぞ」
「氷華さん。伊織君の事情も考慮するべきですの。それに七瀬さんも宮本さんも若い。更生するチャンスを与えるのも一理ありますの」
「お前も十分若いだろ? 年寄りみたいに言うーな!」
「校長のワシからも頼む。二人共成績は優秀で、普段の素行に問題はなかった。加害者の未来を考えるのは、被害者の君には理不尽かもしれん。じゃが、ワシにとっては同じ可愛い生徒である事には違いはないんじゃ。ワシら教師の教育側の落ち度でもあるし、頼む。二人に更生の機会を与えてくれ」
そう言うと、校長先生は頭を下げた。
「わかった。伊織が駅前のカフェでパフェを奢ってくれるなら考えてもいいわ」
「すげー安くて助かる!」
「安い女で悪かったな! 女として、ひでー言われようだ」
しまった。俺、氷華の前だと思った事を全部言っちゃうんだよな。
氷華と一緒にいると、ほんと気が楽。
「交渉成立だな。今回処分を受けるのは藤堂君のみ。殺人は庇いようがない。他の事はなかったもの。代わりに覚醒者はダンジョン外での能力の使用を控える」
「わかりました」
「はい・・・伊織とデート・・・できる」
「わかりましたの」
こうして、俺は無罪放免となった。
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