25全国高校探索者大会予選4氷華の場合
氷華視点
「私って、力ずくで解決する事にゾクゾクしちゃうのよね」
一人で語る。最近、パーティを結成して話す事が多くなって、つい独白してしまう氷華。
「伊織に聞かれたら、ヤバい娘って思われるから気をつけよう」
つい、昂る気持ちをそのまま出した事を反省する。
「私の受け持ちはクラン【無限の闇】ね。確か主力パーティも始め、剣技に秀でた者が多いクランね」
クランには育成方針に特徴があるケースが多い、例えば氷華達のクラン、【灼熱の蒼焔】は魔法攻撃の技術に力を注いでいる。
一方、氷華の対戦相手、【無限の闇】は剣技を極めんとする傾向がある。
「あたしのスタイルって、剣技と魔法が一体だからね」
そう一人語りを締めくくると、一気に加速して、ビルの最上階まで跳躍する。
レベル320のステータスのなせる技。
ビルからビルへと飛び移り、気配を察知する。
「いるわね。たくさん」
気配はそこら中にあった。ビルの中に潜み、一人ずつ迎え撃つ作戦だろう。
「あたしの固有スキルって、集団相手に威力を発揮するのよね」
氷華の固有スキル【百花繚乱】は同時に百の剣を操る事ができる。
同時に百人の相手も可能。伊織に言わせれば、同時に一人に向けたら最強の個人技にもなる。そんなチートスキル。
「【百花繚乱】」
ビルの屋上で固有スキルを展開。たちまち周囲に花が咲き乱れる。
そこから現れる無数の剣。
「さあ、行きなさい!」
氷華の声と共に剣達がビル群に突き刺さる。たちまち崩壊するビル達。
おそらくビルが倒壊した時点で死亡判定になった者も多くいただろう。
運良く、あるいはハイランカーの者は辛うじてビルの倒壊から逃げ延びる。
そこへ、氷華の剣が襲いかかる。剣だけが人が操っているかの様に動く。
氷華の剣は精霊が動かしている。氷華は一向に注意を払わず、剣達が勝手に戦いを進める。
「伊織に感謝しないとね。最近、道場で剣を教えてもらったから、かなり強敵になっている筈ね」
氷華は最近、伊織が師範をしている道場で剣を学んでいた。
彼女自身が驚く程、剣技の技術は向上した。
伊織曰く、『剣の精霊に愛されているなら、剣が苦手って事は無い筈だ』。
言葉通りだった。氷華が剣を苦手としていたのは、細い体躯による不利を感じての事と、優れた指導者に恵まれなかった点に尽きる。
伊織は教える事が上手かった。肉体的な弱さを技術で克服するコツを教えてくれた。
上達する喜びを知った途端、剣にのめり込んで、更に技術が向上した。
「私の剣達って、あたしの能力をまんまコピーしているっぽいのよね」
剣を操るのは精霊だが、技術やステータスは氷華の能力をそのまま反映している。
つまり、氷華が別に百人いるようなもの。
対戦者は五十人程、対して氷華の剣は百。
その上、氷華のレベル320のステータスから放たれる剣技に対抗できる者など、伊織位だろう。
「あら、あれが対戦者の大将かしら?」
次々と消えて行く対戦者の気配を感じながら、自身の分身の剣と互角の勝負をする者達がいる。
「あたしもまだまだ未熟ね。圧倒的なステータス差なのに互角なんてね」
一人内省する。問題を解決するには自身が出向くよりないだろう。
ビルから飛び立ち、大将がいる地点に向かい、視認するや否や、魔法をぶっ放す。
「アイスバレット!」
あいさつ代わりの魔法攻撃。
「君がこの剣達の支配者か? 凄い技だね。固有スキルか? それとも礼装のエクストラスキル?」
信じられない事にパーティの支援職、魔法職、回復職以外、氷華の魔法を避けた。
アイスバレットの速度はおおよそ亜音速。レベル99の敏捷度の高い前衛なら避けられると言えばそうだが・・・。
氷華は奇襲攻撃で仕掛けた。にも拘わらず避けた。
信じられない気配察知能力、あるいは反射神経か?
「他人に自分の能力べらべら喋る程バカじゃないわ」
「しっかりしているね」
「ああ、負けても、次回の参考に情報が欲しかったよな」
「おいおい、戦う前から負けを認めんなよ」
「違いない」
意外と朗らかに話しあう三人。対戦者としては強敵だが、人物としては優れた者達なのだろう。
「ん!?」
思わず嬌声の様な声を出してしまい、赤面する氷華。
「や・・・はり」
「むり・・・か」
「せめ・・・て」
朗らかに話していた三人は突然姿を消して、氷華に迫った。
油断した処に、おそらく瞬間的に身体能力を高めるレアなスキルを同時に使った。
探索者とはいえ、普通の人間にもモンスターも対応できる筈がない。
伊織並の速度で迫られた。正直、剣は修行中で、氷華には三人の動きを全く気付けなかった。
しかし、氷華には切り札があった。
天使を倒した時に手に入れたドロップスキル【ベクトル変換】。
察知のスキルで自身に殺気が向いた事を知った瞬間、スキルを発動した。
三人は自身の剣のダメージを自身で受ける形になり、敗北した。
「あたしの任務は完了ね。伊織にデート位誘わせないとね」
まあ、朴念仁が果たして氷華の気持ちを察してくれるかどうかははなはだ怪しいが。
「それにしても、対人戦でゾクゾクするとか言っちゃったけど、あれは訂正しておこ」
氷華は大会前に自身が発した言葉に間違いがあった事に気が付いた。
氷華は戦闘狂とも言える資質を持つ。
戦いは彼女にとって、ゾクゾクする程昂るものを与えてくれる。
だが、対人戦では全くゾクゾクしなかった。
大会開始前に感じていた高揚感は全くない。
氷華が感じたのは、人として犯してはならない罪への嫌悪感。
仮想空間とは言え、人を殺める行為に嫌悪をするは人として当然だろう。
戦闘狂の彼女も常識人の枠から外れた人間ではなかった。
「あとは結菜だけね」
ビルの屋上に飛び移って、制服のスカートを靡かせ、結菜のいる方向を見る。
伊織が失敗するなど露ほども思っていない氷華だった。
読んで頂きまして、ありがとうございます。
・面白かった!
・続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマーク登録と、評価(【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に)して応援していただけると嬉しいです。
評価は、作者の最大のモチベーションです。
なにとぞ応援よろしくお願いします!