24全国高校探索者大会予選3伊織の場合
「いくぜぇ!」
「てッ? あれ?」
勢いよく飛び出して来た奴らを置き去りにしてトップスピードにギアをあげる。
間抜けな声をあげる前衛の奴らを尻目にグイグイと本陣に迫る。
すると、焦ったのか、中堅以降のパーティが羽を狭めるかの様に俺を包囲し始めた。
間違った行動ではない。こちらは一人、人数比を考えれば当然。
ただし、俺が覚醒者でなければな。
「フレアバレット!」
俺は八王子のダンジョンで身につけた炎の最下位の攻撃魔法を唱えた。
マルチキャストのスキルと膨大な知力、敏捷力、そして呆れるほどのMPから穿たれた魔法、数百が彼らの頭上を襲う。
戦術を間違えたんだよ。潜んで顔を出さなければこちらも殲滅に時間を要したのだが、わざわざ顔を出してくれたおかげで簡単に一閃できる。
包囲殲滅を狙ったこの作戦は逆効果。
一騎当千の相手にはオーソドックスに魚鱗の陣の様に頂点に強力なパーティを置き、三角形のピラミッド型の陣形、楔を打ち込む様な陣形が優れているだろう。
攻守共にバランスがいいからな。
あるいは、一直線に兵を並べる長蛇の陣も良かったのかもな。
こちらは各個撃破となるが、俺のHPやMPを削った上で、最後に最強のパーティが迎え撃てばあるいは勝機があったかもしれない。
だが、俺が覚醒者だと知っている者はいない。
故に翼陣は間違った選択ではない。そこが俺の狙い。
一機に戦力を漸減できる。
その上で、敵の大将とも言えるクラン、【閃光のエリアル】最強のパーティである【赤壁の八陣】と対峙する。
各個撃破を繰り返し、遂に敵本陣に辿りついた。
時間にして僅か三分。おそらく陣形の再考もできぬまま俺と接敵してしまったな。
「まさか伊織か?」
俺に声をかけてきたのは、優勝候補のパーティ、【赤壁の八陣】のリーダー青胴恭二。
こいつとは剣道の大会で戦った事がある。
剣道では負けた。俺の古武道は総合格闘技。
実戦を前提にした戦いでは剣だけでなく、柔術なども重要。
俺達の流派では、蹴ったり殴ったりして斬りつけるのは当前。
スポーツと化した剣道とは違い、実戦を想定した武術。
ちなみに弓道なんかもやっている。
意外と皆知らないが、日本の武人、すなわち侍の主力兵装は弓だ。
練度の高い侍が乱戦で剣を振るうような無駄な戦いはしない。
弓矢でアウトレンジから一方的に攻撃する。
海外でも知られている事実だが、練度の高い弓兵が最も戦果を期待できる。
しかし、練度の高い弓兵を育てるにはコストが高い。
それで海外では大量の兵士をひたすら前進させる戦列歩兵という戦術が一般的。
銃も剣も、意外と殺傷能力が低い、故に練度が低ければ、数に勝る軍が勝つ。
後の要因は、少数の練度の高い騎兵や弓兵、銃士などの存在、もしくは軍師による陣形などにより結果が変わる。
「探索者大会では雪辱を果たさせてもらうぞ、恭二」
「一体何があった? お前はFランクの筈。まさか異常な探索者の正体がお前だったとは・・・」
「理由は説明できない。と、言うか、そんな事を暴露するヤツはいないから安心して死んでくれ」
「こっちもクランの期待を背負っている身。おいそれと負ける訳にはいかない。それにだいたいの予想はつく、いくぞ!」
恭二の号令の元、支援職はバフを盛り、魔法職はデバフを入れて来る。
バフはともかく、デバフは全く入らない。
当たり前。俺の魔法防御力から言って、デバフが入る可能性はゼロ。
「もらった!」
「何ッ!」
俺は慌てて剣で先鋒の剣士の一撃を防いだ。
あり得ない速度。俺の礼装【智慧の眼 】がなければ殺られていた。
しかし、この能力は通常のスキルのモノじゃない。
確か、こいつの固有スキルはタンク役の重戦士に特化したモノの筈。
・・・という事は。
【智慧の眼 】の能力を使わなくても簡単に答えがわかるぜ。
「お前ら、礼装をとったな?」
「お前もだろ? 伊織?」
にやりと笑う恭二と目の前の剣士。
二、三、前衛と切り結ぶと、俺は察知した。
目の前の前衛と切り結ぶ中、突然剣を後ろに向けた。
「ガフッ! な、何バカな!」
後ろに突然剣士職の一人が現れた。転移の礼装持ちだろう。
【智慧の眼 】のおかげでエーテルの流れに異変があること、真後ろのエーテル密度が上昇した事を知った。そこから導かれる答え・・・は。
転移のスキル以外に考えられない。
ある意味、【智慧の眼 】は最強の礼装かもしれない。
事実上の未来予知が可能。
ここまで来る途中、気配遮断のスキルを使ったアッサシン型の探索者もいたが、俺の礼装の前には丸見え。
「お前・・・やはり礼装の持ち主。ならば!」
事態を察した恭二が更なる号令をかける。だが、その前に俺は既に行動に移していた。
「【斬撃】!」
筋力、耐久力、敏捷力100倍のスキルを発動し、目の前の素早い前衛と、支援職、魔法職、回復職の四人を一瞬で瞬殺する。
四人共画像が乱れ、チリの様に消えて行った。
「相変わらずお前の第六感は侮れないな」
「誉められた気がしないね」
恭二は俺が【斬撃】を発動する直前に逃げた。
良い判断だ。おそらく直観だろう。
昨年、こいつに剣道に負けた時もそうだ。
こいつは直観的に俺の弱点が小手だと気が付いた。
実戦を想定した俺達の古武道は致命傷の面や胴に比べて小手に対する認識が甘い。
戦場では一対一にはならない。
故に生き残る事を最大の課題にしている俺達は致命傷にはならない小手への対処の訓練が他に比べて弱い一面があった。
俺も気がつかなかった。意表をつく小手をとられ、それで判定負けとなった。
一度やられたら、警戒する。
そこからは指導が入らない程度に逃げられた。
敵ながら大した奴だよ。
パーティ名もこいつの発案だろう。個の技量より、戦術や戦略を重視する。
諸葛亮孔明を尊敬するって、探索者の雑誌にもインタビュー記事が書いてあったもんな。
最後の一人。問題はこいつの礼装がどんな能力を有しているかだ。
「今度はこっちから行かせてもらうぜ!」
「何?」
恭二がそいうと、俺は思わず驚きの声を上げた。
何故なら、恭二の姿が消えたから。
転移か? それにしては気配が全くない。
俺の【智慧の眼 】が未来位置、現在の位置を予想できないとは?
「そらぁ!」
「ぐっ!」
突然恭二が目の前に現れ、斬撃を加えていく。
礼装のおかげで致命傷は避けられたが、手に一撃もらった。
これじゃ、剣は振るえない。
「相変わらず小手が甘いんだよ」
「反論できんな」
声は聞こえるが、位置がわからない。
気配遮断系の礼装か?
俺は治癒の魔法で傷を癒すと、更なる追撃に備えた。
「そらよッ!」
「ッ!?」
今度は右腕を斬られた。
「剣道じゃないんだぜ。小手だけ気にしてどうする?」
「違いないな。お前の言う通りだ」
恭二。お前の知略には敬意を評しよう。
だが、わかったぜ、お前の能力が。
知略家のお前は一気に攻めずに一撃離脱を繰り返していた。
俺の能力を警戒してだろう。
いい判断だ。だが、それが命取りになったな。
さっきの一撃で畳みかけていればあるいはな。
俺の礼装の能力がわからないが故だろう。
「恭二。お前の能力・・・影に隠れているな」
返答はなかった。おそらく無言は肯定と同義だろう。
【魔力集中】!
魔力と知力を100倍に上げて、固有スキルを発動する。
「【次元波動爆縮!】
以前とは比べようが無い速度とエネルギー量の俺の固有スキルで周囲を薙ぐ。
全周囲360度にアブソリュートゼロを投射する。
ビルの影、俺の影、あらゆるモノの影にもれなく放射する。
何も起きない。そして、恭二の攻撃も来ない。
殺ったか?
例え影の中に潜んでいても、俺のアブソリュートゼロからは逃れられない。
影ごと時間停止させられる。それは死と同義になる筈。
『特殊な状態により、勝者判定をご連絡をします。勝者、如月伊織君、敗者青胴恭二君。恭二君は死亡判定となり、既に繭の中で目を覚ましています』
こうして、俺の戦いは終わった。視線を結菜の方に向けると空間が崩壊していた。
氷華の方はと言うと、無数の剣が上空から降り注いでいた。
だが、俺は後ろに誰かの気配がある事に気が付いていた。
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