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22全国高校探索者大会予選1

「母さん。行って来るよ」


「無理しちゃダメよ。伊織は無理するとこがあるから」


「今日は唯の模擬戦だぜ。無理したって、危なくないよ」


寝込みがちな母さんは世の中の事にすこぶる疎い。


探索者大会が、シュミレーターの中で行われる競技だという事を知らない。


探索者大会とは、いわばeスポーツだ。ダンジョンから産出される魔核とエーテル粒子を使ったスパコン、様々な素材を使ったセンサーで計測する事で、俺達探索者の動きを電脳空間で、完全に再現し、探索者の力を使って戦う。


今ではオリンピック競技の一つにもなっている格闘技の一種。


欠点と言えば、通常の格闘技と異なり、明らかに人死となるとわかってしまう点。


探索者同士がダンジョン内で戦えば、当然凄惨な戦場となる。


ビジュアル的にアウトとならない様に、重症判定の際にはモザイクがかかり、死亡判定になるとゲームの様に光る結晶となり消える。


もちろん、血は表現されない。そんなシーンを見たら、非難の声がより大きくなる。


その様な措置がなされていても、一部の人からは残酷な競技であり、スポーツとは見なせないとする意見も多い。


「危なくないの? ほんとに?」


「危なくないよ。コンピュータの電脳空間で疑似的な戦いをするだけだよ。俺達はコクーンの中で電脳空間の自分のアバターを動かすだけだよ」


「世の中・・・進歩したのね」


「そうだよ。俺なんかもう高校生になったんだぜ」


「そうね。いつまでも子供扱いは良くないわね。そっか・・・伊織はもう高校生か」


母さんは感慨深い思いに浸っている様だ。


うぬぼれなんかじゃなくて、母さんの一番は俺だ。


俺が幸せになる事が一番の楽しみなんだろう。


でも、俺は自分の幸せだけじゃ物足りない。


欲張りだとわかっていても、母さんの無念を晴らしたい。


その為の全国大会なんだから。


「そう言えば、最近つむぎちゃんの顔を見ないわね」


「その話は今度するよ、じゃ、俺、行かないと!」


俺は未だつむぎに振られた事を母さんに言っていない。


つむぎは良く俺達の家の手伝いに来てくれたから、母さんのお気に入り。


俺がつむぎに振られたって知ったら、きっとガッカリする。


俺だって十分落胆したけど、母さんにはとても言えなかった。


俺の幸せだけでも危ないか。


俺はいそいそと家を出た。


せっかく母さんの体調がいい日にそんな話はしたくなかった。


でも、久しぶりに母さんと話せて良かった。


うなされたり、涙ぐんでいる母さんを見るのは辛い。


☆☆☆


電車を乗り継いで国立競技場横の原宿F級第十ダンジョンに到着すると、先に氷華と結菜が入口で待っていた。


「もう、遅いじゃないの! あんた、女の子を待たせるなんて最低よね!」


「姫野さん。一時間も前から待っている方にも問題があるのですわ」


「委員長はうっさい! あたしが一時間前なら、男は二時間前に来て当然でしょ!」


「姫野さんは束縛感強いのですわ」


「何ですってぇ!」


氷華と結菜が喧嘩を始めそうになるので、慌てて止める。


「氷華。ごめんって、今度から早く来るから、頼む、許してくれ」


「そこまで言うならわかったわ。私に一秒でも早く会いたいという事ね」


「伊織君はそんな事言ってませんの。姫野さんの頭には、きっと夢魔が住んでいるに違いないのですわ」


氷華と結菜が訳の分からない事を言っているが、その辺は無視して、さっさと受付済ませないとな。


「早く行こう。受付に遅れたら、大会への出場が出来なくなるからな」


「あんたバカぁ! 誰のせいでギリギリになってんの?」


「それには同意しかできませんの」


「はい、すいません。俺が悪ろうございやした」


俺が素直に謝ると氷華はいつも通りのペースに戻ったみたいで、つまり機嫌が治ったポイ。


そして、受付に辿り着くと、突然声をかけられた。


「クズの伊織じゃねぇーか」


「本当に大会に出場すんの、お前?」


「ボランティアとかの誘導係じゃねえの?」


「違いないわ。伊織君ならそれがお似合いね」


声をかけて来たのは藤堂達、つまり、前のパーティ、剣の一閃のメンバー達。


だが、彼女の姿が見えない。


「つむぎはどうしたんだ?」


「あ、あいつはゎ!」


「あの子、土壇場でパーティを抜けたのよ。信じらんない」


「伊織! お前が変な事を告げ口したんじゃねーのか?」


「俺は何も言っていない。それに俺とつむぎはもう彼氏彼女の関係じゃない。挨拶以外にかわす言葉なんてなかったさ」


事実そうだ。つむぎはちゃんと授業に出てはくれたが、それでも俺達の間に何も変化はない。


今更よりを戻すという感じでもないし、かといって突き放すという感じでもない。


だが、俺達の関係にひびが入ったのは事実。


もう三か月は俺達の家に来てくれていない。


母さんが心配するのも無理もない。


「まあ、本当に出場するなら覚悟するんだな」


「なんでそんなにもったいぶった事を言うんだ?」


つむぎの事を誤魔化すかの様に藤堂が気になる事を言って来た。


「知らないんだな。お前ら」


「何の事だ?」


藤堂はやれやれと言わんばかりの仕草で呆れた感じで話して来た。


「俺達のクラン【灼熱の蒼焔】メンバーは全員で共闘する。他の三つのクランのメンバーも同じだろう。そのどの勢力にも入っていないお前達に勝機は無いって事だ」


「ふうん」


藤堂が故意に俺達を話しあいから避けたんだろうな。


同じクランのメンバーなら、俺だって面識がある。


ましてや同じ学校から出場するなら、話しあいに誘うのが普通だろう。


まあ、俺達が本当に出場するとは思わなかったとか言われるのが関の山か。


問題はない。


勝てばいいだけの話。


礼装が無くても、今の俺達のステータスやスキル構成なら楽勝。


俺達の目標は勝つことじゃない。


どう劇的に勝利するかだ。


誘ってくれなくて助かった。


共闘なんてしたら、かえって足枷になるからな。


「なんだよ、お前! 少し位動揺しろよ、Fランク風情がァ!」


「メンバーに愛想つかされて逃げられる様なパーティリーダーに言われてもな」


「なッ!」


「てめえ! 伊織の癖に!」


俺は少し気になる事があった。


「そう言えば宮本さん。八王子の第三ダンジョンで何があったんだ?」


「ひッ!?」


宮本さんは俺が冤罪をかけられている殺人事件の何かを知っている。


「あ、あれ・・・は「宮本。わかっているよな?」


「は、はい」


藤堂が割って入って宮本さんの口を塞いだかの様に思えた。


宮本さんは自分の胸を抱きしめて恐怖と戦っているかの様な仕草。


「覚えていろよ、伊織。大会で、お前を八つ裂きにしてやるからな」


藤堂は捨て台詞を吐くと、立ち去って行った。

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