2眼鏡の女の子
十五年前、この世界に突然ダンジョンが現れた。
局所的な地震を伴い発生するダンジョンは何故か人的被害を全く出さずに出現する。
理由は今だ解明されていない。
その後、尊い命と引き換えに多くのことが判明した。
・・・ダンジョンにはモンスターが生息する。
・・・ダンジョンに入った十六歳以下の者には精霊が宿り、特殊能力が使える。
・・・特殊能力はダンジョンの中でしか使えない。
・・・ダンジョンのモンスターには現用兵器があまり効果がない。
・・・モンスターを倒すと手に入る魔核や素材はエネルギーを始め、特殊素材として有効である。
特に代替エネルギーとしての魔核は完全なカーボンフリーの新エネルギーとして注目された。
それだけではなく、兵器への転用も行われ、軍事バランスも一変した。
今や世界の覇権は日本が担っている。
世界で最も多くのダンジョンを有するのが日本だったから。
それに海外では軍人による探索が中心だったが、日本では民間人の・・・十六歳になった子供をダンジョンに潜らせ、特殊能力でダンジョン探索にあたらせた。
この原因は軍事力の弱さ、というより地政地理学的バランスにおける軍事力の低下が原因だった。
日本の自衛軍にはダンジョン探索に割く兵力がなかった。
また、ファンタジー世界に関する理解が深かった点も大きいだろう。
俺も初めてダンジョンに潜って、精霊の声が聞こえた時には驚いた。
ゲームが如く、ステータスボードが現れ、パラメータを振り・・・
完全にゲームと同じだ。
「死ね! ゴブリン!」
俺は叫ぶとゴブリンを屠っていた。
「パーティで世界最強を目指す予定だったけど、ソロに路線変更しないとな」
パーティでの俺の役割は支援職。
一番地味な役割だが、Fランク判定の俺は甘んじてその役割とスキル習得をせざるを得なかった。
藤堂達は全員Aランク判定の探索者。
ランクとは宿った精霊の発するエーテルという素粒子の量で判定する。
エーテルとは謎の素粒子で、ダンジョン内に多く存在する。
ダンジョンでスキルが使えるのは全てこのエーテルの恩恵だと言われている。
だが、俺はこのランク判定は間違っていると思う。
母さんの論文、ランク判定における相対性理論によると、ダンジョンに最初に入った時、パラメータを平均化するとA~Cのランクになる、極フリするとDからFのランクになる。
そしてこの論文が炎上した所以はFランクに宿った精霊こそが最も強力な精霊だとする点。
俺に宿った精霊はシヴァ。時と炎、そして破壊を司るヒンズー教の主神が弱い筈がない。
精霊のレベルが上がればその能力は逆転し、Fランクが最強になる。
「だけど、レベル99になってようやく宿った固有スキルが欠陥品だからな」
俺は弱音を吐きながらもゴブリン達を屠り続けた。
幸いパーティでレベル99まで上がることが出来た。
今は地元、八王子のD級第二ダンジョンに単身挑んでいた。
個人戦闘用のスキルを手に入れる為だ。
ダンジョンはA級からF級まで区別されているが、あまり役に立つ情報ではない。
何故なら、A級であっても五百層もの大型ダンジョンの場合、脅威的なモンスターがいるとは限らない。
一方、例えF級であったとしても、階層が五層しかなければ脅威度の高いモンスターが最初の階層から出現するかもしれない。
ダンジョンの判定はエーテルの放射量で決まり、ダンジョン自体がエーテルを大量に帯びているからサイズの判定にしかならない。
安心できるのは既に踏破済のダンジョンだけ。
この八王子D級第二ダンジョンは既に踏破され、最終階層までの情報がネットの攻略Wikiに乗っているから安心できる。
「とは言え、ソロはキツイよな、やっぱり」
何度目かの弱音を吐いた頃、突然激しい衝撃が走った。
「何だ?」
俺は驚いたが、冷静になり、状況を分析した。
「物理的な衝撃じゃない。俺の中の精霊が強いエーテルを感じている?」
それが意味するところは?
「イレギュラーが発生したのか?」
イレギュラーとはダンジョン内に突如、正しく異例の脅威度のモンスターが発生する事。
「このフロアの階層主の部屋からだぞ」
俺は恐る恐る開きっぱなしの第五回層の主の扉の陰から盗み見した。
「(!!!!?) 」
声にならない声が出た。
それはS級と脅威度が評価されているネクロマンサーと対峙している一人の女の子の姿だった。
今のは姫野か?
姫野は同じ高校のクラスメイトで目立たないおさげに眼鏡の女の子だ。
確か俺と同じで低ランクをバカにされているが、ガリ勉と称される彼女は毎日ソロでダンジョンを探索してポイントを稼ぎ、探索者の単位はトップクラスの成績。
「どうする?」
俺は自身に自問自答していた。
ダンジョンで助け合うのは当然。
だが、相手がイレギュラーとなると話は別。
単身で戦っていい相手じゃない。
ましてやまだソロのスキルを整えていない今の俺じゃ。
そうは言っても知っている人間が窮地にあるのを前に、そんな簡単に黙って立ち去るなんてできない。
「どうする、俺?」
そんな時、母さんの言葉が頭に過った。
『いい、伊織。人間は時には合理的な判断じゃなくて、自分が納得する行動をするのよ。そうじゃないと、後悔する時があるの』
覚悟決めた俺がもう一度、第五層のボス部屋を覗くと、姫野が白い紐のようなもので身体を拘束されて身動きできない状態になっていた。
万事休す。
気が付くと、俺は姫野とイレギュラーに向かって加速していた。
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