18クランマスター(アッシュ・ギルバート)
「それにしても私が礼装【炎の柱】の所有者なんて・・・素敵ですの」
「あたしの礼装【天使の羽根】も可愛くない?」
「可愛いのです。氷華さんにぴったりなのですわ!」
氷華と結菜が仲良さげに話しているが、俺はイラっと来る。
せっかくの礼装【炎の柱】もスキル【魔力集中】がないと生きない。
氷華の礼装【天使の羽根】も眼鏡外してたら、きっと良く似合うとは思う。
おしゃれとしてはな。
だけど探索者としては全く大して意味ないだろ!
再び、このボケ共! と心の中で突っ込む。
とは言うものの、口に出せる筈もなく俺は学校の応接室を前に、気を引き締めた。
なんと、クランマスター アッシュ・ギルバートさんがわざわざ学校にまで足を運んでくれた。
昨日のイレギュラー、黄泉川 零一郎の件は警察沙汰にもなった事で、クランマスターの耳にも入っている筈。
大金星とは言え、わざわざマスターにご足労頂けるとは恐れ入る。
それ程の大事件ではあるが、今回の騒ぎでは死傷者が一人も出ていないので、真偽の方が疑られる。
俺と氷華はそれぞれ礼装【不死の咎人】と【咎人の束縛】を所持しているので証明は簡単。
ステータスボードを見れば一目瞭然。
マスター位の人物になら、明かしても構わない。
むしろ俺は自身が覚醒者である事を認知してもらいたいから好都合。
全ては母さんの論文の正しさを証明する為。
「失礼します」
俺がそう言って応接室に入ると氷華や結菜が続く。
だが、俺達を前に開口一番にマスターの口から出た言葉は意外過ぎた。
「君が伊織君だね? 君には大変申し訳ないと思っている。私が君のお母さん、羽生真白先生を裏切ったばかりに・・・本当に申し訳ない」
「え? 何の話ですの?」
「委員長は黙っていて。これは伊織の問題。伊織に任せて」
結菜には俺の母さんの事を言っていない。
パーティメンバーだからいずれ時を見て話そうと思っていたが、突然母さんに関係する話が出てしまった。
俺はクランマスターのアッシュ・ギルバートさんが十年前の母さんの論文への情報提供者、覚醒者だと悟った。
「申し訳ないとは思っている。しかし、私にも事情があった。悪意はなかった事だけは信じて欲しい。大人の事情ってヤツが私の周りをがんじがらめにした」
「その事情は教えて頂けるのですか?」
俺は担当直入に聞いた。あの論文の最大の問題は研究機関のガバナンス欠如にあった。
母さんは一研究員に過ぎない。それがあんな大事になったにも拘わらず、機関の責任者はだんまりを決め込み、母さん一人に責任があるように振舞った。
時期尚早の論文の発表は研究機関の都合で、母さんは十分な資料がそろっておらず、論文の発表には躊躇していた。
それが研究機関の都合、おそらく政府からの補助金目当てで母さんへの論文発表を急がせた。
そして、突然の協力者からの情報公開の拒絶があり、論文はインチキと弾劾された。
マスコミが騒ぐ中、機関はむしろ被害者であるかの様に振舞った。
許せない。自分の都合で母さんに論文を無理やり発表させて、問題が生じたら母さん一人のせいにする。
組織なんてそんなモノかもしれないが、腹立たしく思えてならない。
そして、母さんの論文がインチキと弾劾された原因を作った人物が目の前にいる。
俺はどうしても覚醒者である彼が協力を拒んだのかを知りたかった。
「申し訳ないが、今は言えない。おそらく君達自身が自然に理由に行きつくと思う」
「申し訳ないと思っているなら、理由位教えてくれよ!」
俺は涙ながらに怒鳴った。思わぬ処で、仇敵とも言える、母さんの論文を貶めた張本人がいる。なのに理由も教えてくれないなんて、あんまりじゃないか!
「落ち着いてくれ。今は言えないと言った筈。時が来れば必ず教える。それは約束する」
「伊織。今はマスターの言う通りに」
「そうですわ。何があったのかは存じませんが、今の伊織君は感情的になってますの」
「ああ・・・わかった。確かに俺は冷静さを欠いていたようだ」
そうだった。目の前にいるのはクランマスター。
俺達の高校を始め、関東の多くの高校や大学、そして企業としてのクランのトップ。
クランとは探索者をまとめる組織。
企業体でもあり、高校、大学を卒業して、社会人として探索者を営む場合、全ての探索者がどこかのクランに所属する必要がある。
政府が決めた、探索者のための互助組織であると同時に探索者を管理する為の組織。
個人で探索者を営む事は違法。理由は単純に税金を管理できないから。
確かに一般的な職業の自営業と違い、探索者はダンジョンからドロップした高額アイテムを脱税して売りさばく事も可能。
故に政府はクランという互助組織に注目し、探索者の管理を任せた。
今や探索者ビジネスはGDPの半分を占める程になる。
国が脱税を警戒するのは当然だろう。
そんな国が認める組織のトップと俺達高校生が同じ位置にいる筈がない。
彼は圧倒的な強者であり、社会的に高い地位にいる人物。
そんな彼に無礼な口を聞いていい筈がない。
結菜の言う通り。俺は冷静さに欠いていた。
「この件は時が満ちれば必ず真相を話す。今は報告を先に頼む」
「わかりました。イレギュラー黄泉川 零一郎と天使メタトロン討伐完了を報告します」
俺は冷静さを取り戻し、イレギュラー討伐の仔細を話した。
マスターは天使メタトロン討伐の件に強く感心を持っていた様だ。
当然と言えば当然の事だろう。そして、例のダンジョンのマスターコアを破壊しないと、世界中のダンジョンからモンスターがあふれ出るという話をした途端、マスターの顔色が変わった。
「何だと! ダンジョンからモンスターがあふれ出て来ると言うのか? そんなバカげた事があり得るのか? し、しかし・・・わかった」
マスターはしばらく熟考すると、俺達に語り始めた。
「君達に頼みたい事がある。君達三人には全国高校探索者大会の関東大会の予選に出てもらいたい。ちょうど一組、どのパーティにするか悩んでいた処だ」
「わかりました。察するにさっきの話と・・・関係があるという理解でいいですか?」
「ああ、そう思ってくれて構わない。仔細は言えないが、私に考えがある。君のお母さんの件も話す事が出来るかもしれない」
俺はマスターの言葉に拳を握りしめた。
そして最後に一つだけ質問を加えた。
「マスター。これだけは教えてください。マスターのランクは?」
「ちょッ!! 伊織! そんなぶしつけな!」
「そうですの。伊織君! いくらなんでもそんな質問は!」
氷華と結菜に非難されるが、マスターは一瞬逡巡すると答えてくれた。
「私のランクは・・・Bだ」
俺の目には今、炎が揺らめいているだろう。
母さんの為なら、全国大会位、簡単に制覇して見せてやろうじゃないか。
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