17覚醒条件の謎
「ね、ねえ。わ、私覚醒したの? て、言うか精霊の声でわかったんだけど、伊織君と氷華さんって、レベル100を超えてたのですの? ちょっと信じられないのですわ!」
「俺達だって信じられなかったさ。どうして覚醒できたのか解らなかった。だけど二回目の覚醒で推論は立てる事はできた」
そう、謎があった。この十年間、レベル99の壁を破った者はいない。
母さんの論文の原本にはレベル100を超えた探索者の貴重なデータが記載されていたのだが、それは削除せざるを得なかった。
その探索者は論文発表の土壇場で自身に関する情報開示への同意を取りやめた。
探査者個人情報保護法が発法し、それまで探索者の個人情報が簡単に入手できていたのが、それ以来、困難に。
研究者は血縁など信頼のおける人物など協力者を探す事を余儀なくされた。
その為、探索者の研究は鈍化した。
他の国も日本に遅れて数年後には同様。
あのレベル100超えの探索者のデータがあれば論文の信用性もあがった筈。
母さんの論文がインチキと断じられた最大の理由は貴重な論拠であるデータが欠損していたから。
レベル99の壁を破った者を覚醒者と呼ぶ。
彼が何故情報開示を拒んだのかは分からない。
同じ覚醒者が増える事は自身の存在価値を下げる事と考えたのか・・・正直、真相は闇。
だが今回の事で俺は一つの仮説を思いつくに至った。
それは・・・。
「俺の推論だけど、レベル99から覚醒する条件は未踏破のダンジョンのラスボスかイレギュラーを初討伐する事だと思うんだ」
「確かに、そう考えるのが妥当かもね。伊織の癖に頭いいのね」
いちいち突っかかる氷華だけど、こいつの性格だから仕方ない。
見た目は地味眼鏡の癖にとんでもなく気が強い。
一人で未踏破ダンジョンを攻略してエリクサーを手に入れようと思う位だから、当然気が強いのはわかる。
だけど、どうでもいい事でいちいち突っかかる所があって、やりにくい。
だからはっきり言ってやった。
「氷華。俺だって人間だぜ。そんな言われようだと・・・傷つく」
「ご、ごめん。ち、違うの! こ、これ照れ隠しだから! ほんとは伊織が頭いい処に・・・惚れなお、じゃなくて、感心していただけなの!」
氷華ってツンデレか?
でも、心にもない事を言っていた事には安心した。
「でも、それじゃつじつまが合わないのですわ。この十年間に攻略されたダンジョンは十を超えますわ。それでも、覚醒できた者はおりませんわ」
「確かにそうだ。俺もそこには疑問を感じる。だけど、もう一つの仮説がなり立つ。それには俺達のランクが関係する」
「ランクですの? ランクと覚醒に何の関係がございますの?」
「あ! そっか! あたしも伊織もランクF! という事は委員長のランクを聞けば!」
氷華も気が付いたみたいだな。
この十年間、ダンジョンを攻略したパーティは全員ランクA。
B以下は足手まといとされ、未踏破ダンジョンに挑むパーティからは除外されていた。
理由は所有固有スキルの数。
AクラスとBクラスとでは固有スキル所有量が段違い。
それ位固有スキルが重要という事。
命がけの未踏破ダンジョン攻略に固有スキル所持量が少ないランクB以下の者を連れて行く事はまずない。
と、いう事は・・・つまり委員長、結菜のランクを聞けば、この仮説の信ぴょう性が増す。
「なあ、結菜。悪いと承知で聞くけど、結菜のランクって何? マナー違反な事は重々承知なんだけど」
「ちなみにあたしはランクFよ。隠していたらお互い様にならないから言っておくわ」
氷華が自分のランクを伝えたのは結菜に言いやすくする為だろう。
ランクは探索者にとっては貴重な情報。
ランクが低いと虐めやパーティを組むにあたって障害になる。
パラメータを均等に振っても約半分がランクB以下になる。
だから自らのランクを言う人間はランクA位。
ランクAでも隠す場合がある。
何故ならダンジョン内は事実上の無法地帯。
自身の固有スキルなどの能力は隠しておきたい。
ましてやランクなどが判明すると事件の引き金になりかねない。
仲間にランクB以下がいるパーティに良くある話。
自分で低ランクを公言するヤツなんて俺位。
もちろん、パーティの仲間にはだいたい察しがついてしまう。
覚える固有スキルの数で、だいたいわかる。
実際、ランクが原因で追放されるケースはいとまない。
俺の追放はある意味、長く持った方。
もっとも、俺はパーティ貢献に全てを差し出していた訳で、それを皆にもわかってもらえていると思っていた。
だが、蓋を開けて見ると、俺の勘違いのようだった。
それどころか、幼馴染のつむぎにすら理解されていなかった。
いや、それ以前に彼氏として失格の烙印を押されてしまった。
同時に十年以上かかわった幼馴染の関係も壊れた。
人間不信にもなったし、女性不信にもなった。
氷華はいいヤツだし、眼鏡外すとすっごい美人だけど、何も期待していない。
恋愛はもうこりごりだと思っている。
つむぎに振られた事は大きな心の傷になっている。
それを忘れる為に探索者として大成する事に全てをかけている。
母さんの為・・・いや、俺は母さんの無念を自分の情けなさとをすり替えているのかもしれない。
「私のランクはCなのですわ」
委員長、結菜は意を決して自身のランクを教えてくれた。
ランクが思いのほか低い事に驚く。
そしてこれは俺の仮説を裏付ける大きな情報だった。
そう、俺の仮説、それはランクAの探索者は覚醒、つまりレベル100以上にはなれない、という事・・・だ。
読んで頂きまして、ありがとうございます。
・面白かった!
・続きが読みたい! と思っていただけたら、
ブックマーク登録と、評価(【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に)して応援していただけると嬉しいです。
評価は、作者の最大のモチベーションです。
なにとぞ応援よろしくお願いします!