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転生するものたちの依り代の話

作者: 春川 歩

転生者の話はよくあるけど、転生するものたちの依り代の話はあるかどうかわからなかったから、試しに書いてみました。

多分、こんな恐怖が日々の中に隠れているのではないだろうか、と思ったので、頭空っぽにしながら読んでください。

一話完結のつもりです、多分、何回もいろんな人が思った設定ではあると思います、何番煎じかわかりませんが、それでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

俺の世界には、転生者と呼ばれるものたちがいる。

その者たちは、世界に様々な恩恵を与えてくれる金の卵だ。

そして、その転生者のよりどころとなる人も当然いる。

その者たちは、拠り所と言われる。

拠り所の者たちは、生まれた時から決まっており、どこかに紋章がある、その紋章によってどんな人が転生するのかが決まる。

言ってしまえば、拠り所は乗り移られるのだ。

そんな拠り所は、転生者が乗り移る転生前はかなり不遇の運命をたどる、人から馬鹿にされ、のけ者にされ、かわいそうなものとして扱われる。

当然だ、拠り所は転生者が体に乗り移ったと同時に全ての意識がなくなるのだ。

転生者は転生した瞬間にもてはやされる、当然だ、国に恩恵を与えるものになるのだから。

俺は、拠り所だ、いつか全ての意識がなくなり、体を完全に転生者に乗っ取られる側だ。

俺にも友達はいる、正しく言うと、友達だと思われるものがいる。

なぜ思われるものなのかというと、そのものは既に転生者に体を乗っ取られているからだ。

ここは、拠り所となるものが集められたとある建物、その中では拠り所となるものたちが暮らしている。

その中で、俺たちはいつか来る転生者を待ち続けているのだ。

何者にも見向きもされない、適正な処遇も受けられない、この世界で俺たちは死にゆくものなのだ。

そんな俺たちは、当然施設から逃げる者もいる、そう言った者たちを、この世界は許さない、けど、自分にも生きる価値があるんだって、みんなが叫んでいる。

意思があるうちに、記憶があるうちに、消える前に、なにか残したい。

そんな、俺たちの日々を、転生者に乗っ取られる前に、爪痕を残したいと頑張るものたちの、大切な日々の名残である、一冊の本にまとめられた。

これは、俺たちの大切なものたちが、どんどんと転生者に乗っ取られるが、その前にやりたかった事を、行き急ぎながらやるだけの、夢の記録。

全ての転生者に、俺たちのような存在がいたことを知らせるための本である。


@@@


一日目


この日は朝から気持ちがよく、すっきりと起きられた。

拠り所のものたちは、一つの檻の中で目を覚ます、適切な寝床で寝られるのは転生者に与えられた特権で、記憶が全てなくなってしまう拠り所は粗末な住居が与えられるのだ。

檻から出た俺たちは、いつもの食堂でご飯を食べ、何をするでもなくこの中で生活をする。

もうすぐで俺の友達が拠り所から転生者になるだろうと言われ、俺たちとは違う場所に連れていかれた。

そのものは、根暗で世界を恨むようなペシミストだった、転生者がどのような性格なのか知らないが、次に会った時には違う人になっているのだろう。

転生者は、転生するときに役割を与えられる、その役割にあった住居も与えられ、自分がどのようなものだったのかを知るのだ。

それはほとんど捏造で、転生者が気持ちよく過ごせるように世界は作られている。

どんなに拠り所が不遇な目に合っていたとしても、それは全て嘘で固められたことなのだ。

俺たちは違うところに行ってしまった友人とは二度と会うことは基本的にない、それどころか、転生者にとって、この世界は理想の世界、死んだ後に見る夢のような世界なのだそうだ。

夜になり、俺たちは行動を開始する、言えば、俺たちはぐれているのだ。

檻の中から出られる夜のわずかな時間、俺たちは町へ繰り出す、そこでも異様な目を向けられる俺たちは、まさしく世界からのけ者にされてしまったものたちだ。

その中で、俺たちのリーダー格が高らかに今日やることを告げる、それは、人々に迷惑なことをしようということ。

それに、俺たちは賛同する、どんなに相手に迷惑なことをしたとしても、どうせ俺たちは消える運命なのだ、転生者に全てを丸投げにするつもりだ。

こういったことをしているせいで、俺たち拠り所は基本的に人から嫌われている、拠り所になるものたちは異常者だと祭り上げられる。

しかし、こうでもしないと俺たちは消えてしまうのだ、全てがなかったことになってしまう。

そんな感じに今日も悪い事をする、そして、人々から嫌われてから建物に戻るのだ。


@@@


二日目


今日も良い日だ、なにも問題はない、友達はもう意識がなくなってしまっただろうか。

そんな心配をしても仕方ないのに、俺は今日も親しかった友達の事を考える。

あいつは、気が弱かった、自分が消えてしまう恐怖に怯えていた、そのせいで眠れない夜を過ごした日もあった。

そんなあいつを励ましていたのが俺だ、どんなに自分が消えたとしても、それでも残るものは残るのだと説いた。

それでも、あいつは自分が消えるのが怖かったのだ、いつも泣いていた。

そんなあいつが連れていかれたのだ、一人で、係の者の手で、動物のように。

それが、すごく心配だった、あいつは転生するものが恨めしかったはずだ、ひとりで転生者に乗っ取られる恐怖と戦うのだ、とても不憫だった。

転生したものは、よく性格が変わると言われている、そして、正義感が強いとも、昔の人格の否定をして回るらしい。

本当に、かわいそうだ、あいつの人権は、この世界からはなくなったのだった。

俺たちは、連れていかれるものがいたその日に、花を持ってくる、そのものの意識が二度と戻らないのを知っているから。

今日は夜に花を取りに行く、花屋を襲撃しようか、少し遠くに行って野花を取ってこようか。

そんな話をしていたら、転生した知らせを受けた、係の者たちは嬉しそうな顔をする、そりゃそうだ、問題を起こすものがいなくなり、世界に有益なものが生まれたのだから。

俺たちは花屋を襲撃することにした、それで、きっとあいつは報われるから。


@@@


七日目


今日は曇りだが、関係ない日だ。

今日も食堂で食事をしていつもの生活を送る、その中にはこの世界の事を教えてくれるものがいる。

そいつは自らを教授というが、結局はこいつも俺たちの事を見下しているのだ、陰でさっさと乗り移られてしまえと言っていたことを知っている。

俺たちは、今日も町へ繰り出し、俺たちの爪痕を残す、自分に意識があるのだと証明するために。

そんな中、ひとりが突然倒れた、そして、紋章が浮かび上がる、それを察知して急いで場所を移る。

皆で逃げるようにその場を離れたが、町の人は気が付いたようで、すぐに建物の人が来た、そして、そのものが建物の人に担ぎ上げられ連れ去られるのを、取り戻そうとするが、すぐに抑え込まれてしまう、そのまま、そのものは連れていかれてしまった。

紋様が浮かぶのが転生者が降りて来る合図なのだ、そして、意識がなくなるのも、その合図だ。

こうなったら、意識が完全になくなるまで夢うつつの状態になる、それを看取ることが出来たらいいのに、常に監視されている俺らに最後まで看取らせてくれない。

そのまま、そいつとは会えなくなった、看取ることが出来たら、どれほどそいつにとってうれしい事なのか、安心して意識がなくなるのか、あいつらには一生わからないだろう。


@@@


十日目


転生者になる心得なるものを今日は教えられた、記憶がなくなる前は清く正しく健康に成長することが望ましいとのことだった。

他人に迷惑をかけず、常に品行方正に振る舞うことこそ拠り所には必要な事なのだと言われる。

それが全て奴らの思惑だってことはみんな気が付いている、そうして街への問題行動を抑えようというのだ。

拠り所の皆は、ここに連れてこられた瞬間に運命は決まっているのだ、反抗しなければ自分を保てないともいう。

そして、今日も町へ繰り出し問題行動を起こす、それに町の人は怯えるが、知ったことか、誰が何と言おうと、俺たちには時間が残されていないのだ。

拠り所は生まれた時から既に寿命が決まっている、大体15になるまでにほとんどの者が乗っ取られるのだ、20まで拠り所になるものは本当に珍しい、その代わり、厄介者扱いされ、下手したら殺されてしまうのだ、大罪人として。

俺たちは、色々な種類の人間がいる、陽気なもの、陰気なもの、日々を暮らすのが辛いが、それでも生きて痛い者。

それら全てが悪いわけではないのに、みんな一まとめに拠り所は悪いものだというレッテルが既に貼られている。

それは、今までの者たちが作り上げてきたレッテルで、今更元に戻すことはできない、それを知っているから、俺たちは馬鹿みたいに町に被害をもたらす、ごくたまに英雄的行動をとったとしても、それは全て転生者の手柄となるから、それも気にくわない。

全て、のちの転生者の手柄となるから、俺たちは馬鹿みたいに転生者の不利益になるようなことを進んでやるのだ。

俺たちの人生を踏みにじる転生者が、嫌な思いをするように。


@@@


十五日目


今日は雨が降っているから、外へは行かずに檻の中で過ごす、檻の中は常に寒い、鉄格子がはめられているが、そこに換気の機能がありすぎて、常に外の空気が入ってくる。

俺たちは罪人のように軟禁されているようなものだが、外には出られるから待遇は良い方なのだろう。

そんな中、教授が来て、なんか色々なことを話していった、なんでも、今月中にここにいるものたち全てが転生者になる可能性があるとのこと。

どういうことかを俺たちは叫んだ、そしたら、その教授は嬉しそうに言った。

どうやら、もうすぐでこの国は戦争や干ばつといった天災がはじまるとのこと、色々な問題が一斉に吹き出すときに、転生者は大量に来るらしい。

その転生者の一団と、俺たちが結びつくように魔法でなんかやるらしかった。

それに俺らは抗議をしたが、受け入れられるわけがなくて、その教授は去っていった。

俺たちは狂ったように泣いたりわめいたり、これから始まる地獄に恐怖した。

俺たちが生きられるのはあと一週間、それ以下かもしれない、それを俺たちは泣きながら受け入れるしかないのだ。


@@@


十七日目


俺たちの建物から、半分以上が消えた、もうすぐで転生者が大量に来る合図が多数見られたためだ。

みんな、苦しんだり、泣いたりしている、もう、生きることが出来ないのかと、狂ったように暴れたが、全てが今では意識を無くした亡骸だった。

そして、みんながどこかに連れていかれた、二度と会うことはないだろう。

残った俺たちは、ここから脱走することを計画し、即座に実行した、俺たちを縛る運命にあらがうように、俺たちは町から逃げ出したのだった。


@@@


十九日目


みんなどこへ行ったのだろう、無事にあの町から逃げられたのだろうか。

そう思いながら道を歩いていたら、懐かしい顔があった、根暗なあいつが歩いていたのだ。

懐かしさからつい、声をかけてしまったが、相手は俺の事を見た後にどぎまぎとした表情でこちらを見た。

そこには、俺の友達の面影はなかった。

俺はその場で崩れ落ちた、あのペシミストの友人は、今や明るい性格となり、人生を謳歌している、今までのことなどなかったように楽しんでいる。

そいつに俺らの恐怖や悲しみ、様々な思いをぶつけたが、それらを全て否定されたから、相手のことをぼこぼこにしてやった。

そいつは、今の人生を楽しむつもりらしい、今まで恐怖しながら乗っ取られる恐怖と戦っていた俺たちのことなど、知る由もないらしい。

相手には、俺たちのことを伝えたが、全て嘘だと言われるのだろう、それが無性に悲しくて、腹が立った。

俺たちは生きているのに、お前らのせいで全てがなかったことにされる、その悲しみや恐怖を、こいつらは知る由もないのだ。

どうせ消え去る運命ならばと、そいつの事を殺そうとした瞬間に意識が途切れた、そして、次の日で俺は消えるのだと悟った。


@@@


二十五日目


どうやら俺は今まで日記を書いていたらしい、名前はアーノルド、それ以外に名前はないらしい。

俺は目覚めた後に貴族のような待遇を受けている、そんな俺の本当の名前は清原さとし、この世界には色々な魔法があるらしかった。

そんな魔法の世界でいかにスローライフを送ろうかと思っていた時に、そいつは現れた。

アーノルドの友人だというそいつは、一冊の日記帳を持ってきてくれた、汚い字だったが、今の俺には自動翻訳があるからすぐに読めた。

そいつは自らのことを拠り所だと書かれていたが、そのような不幸な人物はいないと周りに言われたため、俺はそれを信用することにした。

だって、俺には第二の素晴らしい人生が待っているのに、そんな残酷な世界がここにあるとは思えなかった。

みんないいやつだし、俺には様々な優遇措置をしてくれる、おまけに俺は神託持ちで、この世界の事を全て知っているはずなのだ、そんな俺がそのことを知らない筈がなかった。

この日記は、きっと捏造だろうから、そのまま本棚に入れておく。

いつか、話のネタになるだろうから、それまで取っておこうという算段だ。

ただ、書いてあることの描写がすごくあり得そうだった。

だから、捨てることもやぶさかではない。

俺の周りには様々な美少女がいる、その子たちは俺のことを可愛らしい顔で迎えてくれる。

そんな子たちと一緒に過ごせるようになるなんて、キモオタだった俺からすると夢みたいな世界だ。

だから、この話は全て嘘だろうなと思う、俺のほかにも転生者はいるらしいけど、その全てが名家のものらしいからだ。

happyな人生、これからの俺は送るぞ!


ちょっとした裏設定。

転生者に乗り移られた拠り所の人たちは、二度と自分の意識が浮上することはなく、それどころか全ての意識が完全になくなるため、転生者に魂丸ごと乗っ取られます。

神様が拠り所と呼ばれる者たちを作っているため、転生者のために作ったものだから、転生者に都合が良いように世界は回っています。

だから、拠り所の者たちはどんなことをしても転生者に存在を受け入れられることは基本、ありません。

最後の性格が変わったのは、拠り所の意思がなくなり、転生者の人格となったから、完全に性格が変わっています。

拠り所は、不遇の人生をおくっていたとしても、そこで、どんなに正義に準ずることをしたとしても、良い面全てが転生者の力とされ、悪いことは全て拠り所がやったこととして評価されるので、みんなが悪いことをすることになります。

20歳になるまでに転生者が降りてこなかったものは、基本全てが処刑されます、大罪人として裁かれる彼らは、どのような事を胸に思いながら死んでいくのかは、読んでいる人にゆだねます。

最後に、主人公に乗り移った転生者は、自分のやることを遂行せずにスローライフで楽しい生活を送ろうとしています、そして、自分の気が赴くままに生活をし、その中で適当に世界を救おうとしています。

それ全てが、拠り所のものたちへの冒涜だとも知らずに、転生者は一生を終えることとなるでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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