98 狙われた支店 (1)
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ドーン、バリバリバリッ!!
と雷が鳴り響く。
「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!!」
と、りんちゃんが雄叫びをあげる。
雷が鳴り出して、外も店内も物凄い状況になってしまった。
雷と雄叫びのコンボ。
雨もますます強まっている。
ここまでの大雨になるとは予想していなかった。
「みーちゃん先輩ぃ~~~っっ」
涙目のりんちゃんは顔を強ばらせしがみついてくる。
「りんちゃん、大丈夫だよ。ここには絶対落ちないから」
一人暮らしが長いせいか、雷は意外と平気だ。
怖くないと言えば嘘になるが、怖くないのだ。
「りんちゃん、お家に一応連絡を・・」
ピカッ!
ドオーンンッ!!
「いやあああぁぁぁっ!地球が終わるぅぅぅっ!」
レジのなかにしゃがみこんでりんちゃんは叫ぶ。
「終わらないから大丈夫。ピカ-チュウだと思えば雷もかわいいもんだよ」
「雷操るピカ-チュウなんか悪魔の使いですぅぅぅぅぅ!!」
りんちゃんにはピカ-チュウのかわいさが効かない。
効かないどころか悪魔の使いにされてしまった。残念である。
かわいそうなピカ-チュウ。
・・・ピカ-チュウなら小悪魔でもいいかもしれない。違うかわいさがきっとある。ラブリーだ。
「みーちゃん先輩は雷怖くないんですか?!」
「怖くない!!」
「嘘です!雷怖くない人間なんかいないです!そんな人間存在しちゃいけないんです!!!」
「・・・」
りんちゃんは怖さのあまり、わたしまで雷恐怖症に引きずり込もうとしている。
「みーちゃん先輩!雷怖いですよね?ね?ね?ね!?!」
「りんちゃん、落ち着いてテレビを見よう。何かで気を紛らわせ」
ピカッ!ドオォォォーーン!
「ピャアアアァァァーーーッ!!」
「・・・」
もはや『きゃー』でも『ぎゃー』でもない。
独自の叫びを生み出したな、りんちゃん。
店内設置の小型テレビでは、地元の気象情報番組が市内の河川沿いの地域で高齢者避難指示が出たことを知らせている。
中心街に影響のある河川は工事中だった堤防が完成しているので、十年前のように溢れたりしないと思うが不安になる。
わたしもりんちゃんもこんなに凄い大雨の経験はない。おまけに雷まで鳴るなんて。
十年ほど前の水害時は、わたしは家族で海外を転々としていたし、りんちゃんはまだ小学生で東京に住んでいた。
十年前は正しい情報の把握ができず、商品を二、三階に移動できなかった。地盤が低いせいと満潮も重なり、水の流れは早く、水位も高かった。一階で営業していた店舗は全て水没した。
人的被害がなかったのは奇跡と言われた。
その後商店街では、行政からの情報を正確に伝える為に、防災行政無線を商店街放送設備に接続し、各店舗のスピーカーに流れるようにしている。
Wi-Fiの設置も行われ、ネット接続もスムーズにできる。
各店舗、独自に情報収集できるようにテレビ・ラジオやパソコン、タブレットなど置いている。
スクランブル交差点の大型スクリーンでも、大雨の情報と避難場所についての情報が常時流され、大雨と雷に足止めされている人々が見ている。
駅前商店街では店を開店させず、土嚢の準備をしている店がちらほら出始めた。
我が堀内花壇でも、社長から土嚢の場所を教えてもらい準備した。
『今すぐ店を閉めていい。移動出来そうなら避難場所に行け。移動が危険そうなら金も商品もどうでもいいから三階に行け。定期的に掃除してるのは知ってるだろう?うす暗いが住居として使用可能だ。食品と水は確保してあるし生活必需品も寝具類も揃えてある』と社長から早々に電話がきた。
確かに暗いのだ。
清掃業者が入ったあと、確認で立ち会うが、両隣は地権者が変わり、二階建ての店舗兼住宅だったのが、五階と七階のビルに建て替えられた為、窓の外はビルの壁しか見えない。
灯りをつければ良いのだが、閉塞感がある。
三階に二人きりになってしまうのも心細い。
わたし達は店で過ごすことにした。
避難場所は五階建ての駅前市民プラザという建物だが、雷がひどくていまは移動するほうが危ない。雷がおさまったら移動しようかと話し合った。
テレビでは早めに避難をしてきた住人のインタビューが放送されていたが、雷と雨音で聞こえづらい。
「みーちゃん先輩ぃ・・」
りんちゃんは叫びすぎて疲れきっているようだ。わたしを呼ぶ声に張りがない。
雷が光り、ドオーンッと鳴り響いてりんちゃんはわたしに飛びついて震えている。
「みーちゃん先輩ぃ・・。雨も雷もさっきよりひどくなってきてませんか・・・?」
この世の終わりのような声だよ、りんちゃん。
「大丈夫だよ。ここには絶対落ちないって。雨は強いけど、川にはもう堤防が完成してるし、十年前も被害は一階だけで二階より上は大丈夫だったって聞いてる。いざとなったら社長の言う通り上に逃げよう。お家に連絡はした?」
確かに雷も雨も酷くなってきてるとわたしも感じていた。
「はい、さっき・・。お兄ちゃんが来てくれると言ったんですが、危ないからやめさせました。お兄ちゃん運転下手くそだから・・」
りんちゃんは鼻をグスグスさせている。
お兄ちゃんの心配をして来るのをやめさせたりんちゃん。ほんとは来てほしいだろうに。
せめてわたしがもっとしっかりして、りんちゃんを守らなければ。
「大丈夫大丈夫。コーヒーいれよう。お客さんはさすがにもう来ないと思うから」
「みーちゃん先輩は会長さんに電話は・・」
「うん。状況が悪化するとは限らないから、もう少し様子を見てから電話する。管理してる山とか土地のことで忙しくしてたら悪いし・・」
まだ洪水が起きるとは限らないし、下手に電話して心配させたら悪い。
話してる間も雷は鳴り続け、雨音は強くなる。
商店街通りは誰も歩いていない。
車が通るだけだ。
あれ?ガラス窓の前を人が走ってった。
こんな日に外を走るなんて物好きな人だ。
走って行ったかと思った人が店のドアを開けて入ってきた。




