69 願い
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翌日の朝、嵐(台風)は去った。
雲の切れ間、青い空が所々に垣間見える。
「・・・・」
これで自宅に帰れる。
お世話になったお礼に敷地内のお庭や田畑の後片付けを手伝わせてもらおう。
果実の落下がひどいということで、わたしは果実拾いに参加した。
桃がたくさん落ちていた。
一個一個拾っていると大変だ。農家の人はこういう苦労を嵐の度にしているのか。
切ないな。せっかく育てたのに・・。
桃に限らず、大事に食べよう。
誰かが懸命に育てた食材。
お魚も海の幸も、命がけて獲ってきてくれる人達がいる。
お昼、デザートに桃が出た。
甘くて美味しかった。
若頭や黒岩さん達は食べ終わるとすぐにまた後片付けに行った。
黒岩家の三人兄弟も一緒に行った。
わたしも手伝いたかったが、これ以上長居はできない。
「組長先生、わたし自宅が心配なので帰ります」
「んー?・・そうか、うーん、だいぶ荒れたからなぁ・・・」
「はい。窓とか心配なので」
「じゃあ送っていくからよ、少し待ってな」
「いえ、あの、自転車で」
「自転車も載せられる車用意するから大丈夫だ」
組長先生はお屋敷の若い男性に車の準備を申し付けた。
「帰る前にちょいと話したいことがある。俺の部屋まで一緒に来てくれ」
「はい」
組長先生のお部屋。
囲碁が出しっぱなし。
松田さんに勝つ算段はみつかったのかな?
組長先生が胡座をかいて座り、わたしは正座してかしこまった。
ちょうどいい。ちゃんとお礼がしたかったし。
「みふゆ」
「はい」
「・・・俺の娘にならねえか?」
「・・・」
「聞こえたか?」
「えーと・・」
「俺の娘になってくれって言ったんだ」
「・・・わたしが?」
「うすうす、気づいていたんじゃねえか?」
「・・・・・」
わたしは黙ってしまった。なんて答えていいかわからなかった。
そうだ、わたしはうすうす気づいていながら組長先生から離れようとしていたのだから。
「返事は今すぐじゃなくてもいい」
「・・・」
「だが、これだけは覚えていてくれ。例えお前が俺の申し出を断ったとしても、俺はお前を自分の娘だと思っている。これからもそう扱うぜ」
部屋の障子の外から声がかかった。
黒岩さんの声だ。
車の準備ができたと言った。
「黒岩、楓も一緒に連れて行け」
組長先生の声に黒岩さんは「わかりました」と答えた。
わたしはうつむいて無言のままだった。何をどう言葉にすればいいかわからなかった。
組長先生はわたしのすぐ側まで近づいて、わたしを胸に抱き寄せた。
そして、
「お前は俺の娘だ。忘れるな」
その言葉は、わたしの心にも言い聞かせるように、静かに強い口調だった。
うつむいていたわたしは、組長先生の胸で、涙がぼろぼろこぼれるのを止められなかった。
わたしの鋼鉄の決意が、沼に深く深く沈んでしまった瞬間だった。




