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53 松田家のお茶会 (2)

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若頭もお茶を点てるって・・・。


若頭は何でもできる人なのか・・・。


仕事はできる。

料理はできる。

茶は点てる。

運転手もする。


スーパー若頭か。


「楓はどうしたんですか?電話じゃ随分張り切っていたのに」

「おう、あいつにはちょいと用を頼んだ。遅れて来る」

「そうですか。まあ、勝手知ったる家だから放っておいてもいいでしょう。お前達、楓が来たら夏の茶屋に通しておくれ」


胡蝶さんは体格の良い後ろの男達二人に申しつけた。


わたし達は胡蝶さんの案内で先に茶屋(茶室)に向かった。


「少し歩きますが大丈夫かしら?」


「はい。大丈夫です」

掴まってますから。組長先生に。


ついさっき、「ほれ、掴まれ」と、組長先生が腕を出してくれたのだ。

わたしは躊躇なく掴まった。転ぶなら組長先生の上に転ぼう。

後ろには若頭もいてくれる。安心安全である。


小学生以来の着物と草履は、さすがに短時間で慣れるものではない。


歩くペースがゆっくりで、気遣ってくれているのがありがたい。

おかげで、お庭をゆっくり見ることができた。


松田家は、門から洋館の正面入り口までは、いわゆるイングリッシュガーデン(英国式・風景式庭園)が広がっていた。


草花の高低が計算されながら、自然であることを忘れていない、色、種類、木々。溢れるバラの花。やがて野性味の強い、野原のようなインフォーマルガーデンに流れるように変化し、庭はいつのまにか日本庭園へと移り変わってゆくのだ。


「お気に召しましたか?」

庭に気を取られているわたしに、胡蝶さんが話しかけてきた。

「はい、・・素晴らしいです」

感嘆のため息が出ます。

「見たことのないお花もありました」

「店に入荷しないような花もあったんだろう?」

組長先生が言う。

「はい。店にもいろんな花が入荷しますが、メインはやはり売れる花中心になりますから」

「そういえば社長は堀内だったわね」

「はい」あ、なんか社長の話しはヤバイかな。

「女に逃げられて意気消沈していると聞いたわ。まあ、元気を出しなさいとお見舞いを伝えてちょうだい」

「は・・、はい・・」

ぷぷぷ・・。

お見舞い?駄目だ。口元に笑いがにじみ出る。

社長はすっかり女に捨てられた男扱いだ。今頃くしゃみでもしてるんじゃなかろうか(笑)


話してる間に、茶屋の見える石模様の(みち)に入る。

石模様じゃない。

丸みを帯びた小さな石が組み合わせている。

「石の模様かと思ったら・・、石の組み合わせなんですね」わたしが言うと、組長先生は、

「"(あられ)こぼし"と言うんだ」と教えてくれた。

「あられこぼし・・」

あれ?でもこの路って見たことある。この風景も。

わたしは左右を見回した。

そうだ、見覚えのある・・・この風景。

「どうした?」

「ここ、以前にも来たことがあるような・・・」

そんなわけないんだが、デジャヴュ?

「もしや桂離宮をお訪ねになったことがあるのでは?」

「桂・・離宮・・?」

「ここは京都の桂離宮を模倣している部分が多いから」

胡蝶さんが言った。

「京都にも行ったのか?」と、組長先生。

「・・・行った・・。のかもしれません・・ここが桂離宮の模倣なら・・」

「京都は他にどこに行ったか覚えてるか?」

「・・・そうですね・・そういえば行ったような気もするけど・・・痛っ!」

ズキッと頭痛がした。

「どうした?大丈夫か?」

「大丈夫です。急に頭痛がして」

わたしはごまかすように笑った。

組長先生がやけに真剣な眼差しをしている。心配をかけてしまったかな、だだの頭痛なのに。素晴らしいお庭も緊張には勝てなかったみたいだ。

「緊張すると頭痛がするんです。大丈夫です」

「そんな緊張することねぇんだぞ。身内の会だからな。例えお前が茶碗ひっくり返しても笑い話になって終わりだ。ははは」

「ひっくり返したりしませんっ」

「ははははは」

組長先生は笑う。

でもさすがにひっくり返すはないぞ。ないはずだ。ないと思う・・・。


わたし達は些細な会話を楽しみながら歩いた。


木々の葉が風に擦りあって音を奏でる。


さわさわと、小さな音からざわざわと大きな音へ。


「あっ」と、わたしは立ち止まった。


強い風が吹いた。

わたしは両手で髪をかばった。

せっかくきれいに整えてもらったのに。


「動かないで」


後ろから若頭の声が響いた。


「木の葉が髪飾りに絡まっています。今とりますから」


わたしはうつむいたまま、

「・・・ありがとうございます」と、言った。

葉っぱをとってもらっただけなのに、顔が赤くなってる気がする。いや、気のせい気のせい。

横の組長先生が「ほれ、ちゃんと掴まれ」と、からかい気味に笑って、顔を見れなかった。


穏やかな、気持ちのいい時間だった。


茶屋の前に誰か立っている。

松田さんだ。着物姿だ。


渋い!


組長先生とは別の渋さだ。カッコいい!


スーツでなくてもダンディーな人はダンディーだと証明された瞬間だった。


松田さんはわたしをみて、

「やあ、いらっしゃい。寺でも思ったが、着物がよくお似合いになる」

と、笑顔で迎えてくれた。


「それでは、本日は小堀遠州を祖とする、遠州流にてもてなしをさせていただきます」


胡蝶さんが松田さんの隣に立ち、言った。


大名茶道・遠州流。

流祖は小堀遠州。

大名茶人・小堀遠州は、建築・作庭、書画、和歌、など、芸術全般に多彩な才能を発揮した。

千利休の『わび・さび』、古田織部の創作的な茶の湯などを継承し、時代にふさわしい茶の湯、美しさ・明るさ・豊かさを加えた『綺麗さび』を創りあげ、真髄とした。

遠州流は日本を代表する大名茶道である。







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