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49 過去との対峙 (7) 再会への道筋

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仙道京司朗は、会長・惣領貴之の言葉、表情、仕草を注意深く見ていた。


藤原匠真の話を、聞き逃すまいとしているのが京司朗にも伝わっていた。


「みふゆには会わなかったのか?」


「会いました。私が玄関から出た時にちょうど帰ってきて・・青木さんに叱られました」

当時の事がまるで目の前で起きてるかのように、匠真は笑みをこぼした。



『お母さん!ただいま!紗重(さえ)ちゃんは?起きてる!?』



「長い髪を三つ編みにしてゆらして、よっぽど急いで帰ってきたのでしょう。息を切らして・・」



『みふゆ!お客様ですよ!ご挨拶をなさい!』

『あ・・・。こ、こんにちは・・・』

『こんにちは』

『・・審査員の先生?』

『覚えててくれた?今日はお父さんのお焼香をさせてもらいました』

『あ、え・・?と・・はい、ありがとうございました』

みふゆはペコリとお辞儀をした。白いブラウスに赤いリボン、ブレザーの中学の制服姿だ。

匠真はみふゆの背にあわせて少しかがんだ。

『みふゆさん、君の藤幻郷を・・、いつか・・・僕が描いてもいいだろうか?』

『・・、うん!いいよ!』

『ありがとう』

『じゃあ、描いたら見せてね!』



「一瞬、キョトンとした顔をして、彼女はすぐに笑顔で返事をくれました。描いたら見せてね、と言って。そして子供の泣き声がして、彼女は家の中に駆け込んでいきました」



『あ!紗重(さえ)ちゃん泣いてる!紗重ちゃん!ただいま!おねえちゃんが帰ってきたよ!いま抱っこしてあげるから!』

『みふゆ!手を洗ってうがいしなさい!』

『はーい!あ、先生!またね!』

『ああ、またね』

『すみません、騒々しくて。歳が離れているせいか妹ベッタリで』

『いえ、元気な顔を見ることができてよかったです』




「そうして私は青木家をあとにしました。・・・初めての振袖『藤幻郷に寄せて』を失い、二枚目の振袖『まほろば藤』を仕上げた時、今度こそあの二人に届けようと思いました。『藤幻郷に寄せて』は幸い写真が残っていました。描いたら見せてねと言った約束を果たすためにも、私は再度青木さん親子を捜しました。しかし青木さん達の行方はやはり掴めませんでした。当時、父は心臓の手術を受けて入院してたので、兄に相談しました。兄は官僚時代の友人知人を通じて方々(ほうぼう)捜してくれました。まさかと思い身元のわからない不審な死亡者も調べてもらいましたが、どこにも見つけることはできませんでした。もう・・日本にはいないのではないかと・・私は思いました」



藤原匠真の話が終わったあと、惣領貴之は目を閉じたまましばらく無言だった。


貴之は、出会った頃の水無瀬礼夏の言葉を思い出していた。


『私を見つけることは誰にもできないわ』




無言の時間が長く感じたが、京司朗は声をかけなかった。声をかけられる雰囲気ではなかった。


貴之は、ふぅと小さく息を吐いて体の力を抜くと、藤原匠真に話しかけた。


「それで・・『まほろば藤』を譲りてえという訳か」


「譲るというより、あの振袖の正統な持ち主はみふゆさんしかいません。非売品にしていたのも、誰かに売る気が全くなかったからです」


「匠真さん、あんた、明日もう一度来てくれねえか?みふゆと会ってやってくれ」


惣領貴之はそう言うと、父親の死後の青木母子(あおきおやこ)の経緯を伝えた。

貴之が知ってるのは母親・礼夏が倒れてからのことだが、聞いた藤原匠真は、「何としてでも捜すべきだったんだ」と悔しげに言った。



藤原匠真が帰ったあと、惣領貴之は仏間へと入った。

仏間は二十畳はあるだろう広く、大きな仏壇には位牌が並べられている。

小さな位牌が一つだけ、隣の位牌に寄り添う形で置かれていた。


貴之は位牌を見つめていた。


共に人生を歩むはずだった女がいた。

腹の中には子供がいた。子供は男とも女ともわからない時期だった。


そして、死んだ。


大型ダンプとの追突事故に巻き込まれたのだ。


事故かと思われたこの悲劇が、貴之の抗争相手の仕組んだものとわかった時、貴之は激怒した。


人生であれほど怒りに燃えたことはなかった。


抗争相手を叩き潰したあと、貴之の心には何も残らなかった。もう、どうでもよかった。待っていたのは刑務所暮らしだったが、それすらどうでもいいことだった。


刑期を終え、出所して寺で過ごすことになった。


そして、貴之は出会った。


水無瀬礼夏。


月光に咲く花。


礼夏は水無瀬一族崩壊の企てを成す為、より強い能力(ちから)を求めて寺に修行にきていた。




貴之の瞳から涙が落ちた。



すまねぇ。

お前達の前で他の女を想う俺を許してくれ。

だが、俺の泣く場所はここしか()え。

ここしか()えんだよ。



涙が溢れては流れ落ちる。


匠真が話してくれた、まだ中学生のみふゆが脳裏に浮かぶ。

どれだけ愛していただろう妹を抱き上げて、笑っている幸せなみふゆの姿だった。







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