4 懐刀
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目付きがあまりにも鋭くて、顔の造作まで気にしなかったが、このヒットマン、顔面偏差値かなり高い。彫りの深さも整った顔立ちも日本人離れしている。
そして、こぼれた笑みは芍薬の花。
丸くて硬い蕾から、幾重にも花びらが開き、咲き誇る花は豪華だ。
百花の王・牡丹と似ているが、芍薬は背がスラリと高い。
花のなかに立たせたら絵になるだろうなぁ。
そんなことを思っていると、ヒットマンは、
「やっぱり自分の分もありましたか。自分は車に戻るのでお気遣いなく」
と、爽やかに遠慮の意向を示した。
「おう、おめーよ、もう一度『澤山』にいってくれや」
お得意様用の丸いティーテーブルのイスにドッカと座った組長先生は、ヒットマンに指示を出す。ヒットマンは「わかりました」と静かに返答し、店から出るときに少しかがんで出ていった。背が高すぎて入り口で頭がぶつかりそうだったのだ。うちの社長より背が高いかも。でもさすがに二メートルはないな。いくら高くても。
お使い、お疲れ様です。
わたしは彼の後ろ姿にお辞儀をして見送った。
「あれがうちの若頭の仙道よ」
仙道?仙道彰?もしや陵南高校出身では?
そんなわけないか。
「若・・頭・・・?、ですか・・」
若頭って何?どういう立ち位置?
「はは、『若頭』わからねぇか。まあ、うちの副社長兼俺の第一秘書みてぇなもんだな。いわゆる懐刀だ」
懐刀・・。
「つまり、次にえらくて役に立つ人なんですね」
ふふ。やっぱり芍薬の花。
「なんだ?思いだし笑いか?」
「芍薬の花みたいだと思って」
「若頭か?」
「はい。背が高くて、豪華な花を咲かせるのに薬にもなる、すごく役にたつ」
「はは、なるほどねぇ。確かに奴の体は芍薬同様、女にゃいい薬になるわな。最もとりすぎりゃあ毒にもなるが。しっかし俺は牡丹で奴は芍薬か。うまいこと言うねぇ」
組長先生はお茶を飲みながらまんざらでもない顔で笑った。
ん?、わたし組長先生を牡丹に例えた話しはしてないはず。
なぜ知ってる?
あ、社長か?!社長だな?!
ちくしょう。バラしてたんだな!
言わないでって言ったのに
「まあ、これからは奴も顔を出すから、よろしくたのむわな!」
「は・・、はい~~」
わたしと七十先輩は笑顔でこたえたが、多少ひきつった笑顔だったと思う。
わたしは支店の人間なので会うかどうかわからないが、本店スタッフはガンバレ!と心でエールを送った。
「食ったら店じまいしちまえよ」
組長先生がテキトーなことを言い出した。
「いえ。それはできません。我々はただの従業員なので権限がありません」
「社長がいいっちゃあいいんだろ?」
「それはそうですが」
「どーれ、聞いてくるわ」
組長先生がイスから立ち上がる。
「!?え?あ、・・・!」
わたしと、隣でお弁当食べている七十先輩は顔を見合わせる。
「なんだ?なんかまずいのか?」
「えーと・・、・・・い、いえ・・・」
わたし達が言いにくそうにしていると、「なーに。わざと邪魔しに行くんだよ」と、組長先生は豪快に笑って二階にのぼって行った。