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39 華やかな迷路へ (1)

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先に行って選んでいてくれと、わたし一人が案内された。

再び縁側を歩き、お庭に目を向ける。ほうきを持って掃除している男性が二人、わたしに気づいて会釈をしてくれた。わたしも会釈を返す。


どこの世界も、掃除って基本なんだな。


「こちらです」


ベリー君が立ち止まり、わたしを振り向いた。開けられた障子戸をのぞくと、

「・・・わあ・・、すごい・・」

わたしは、思わず声が出た。


素晴らしくて倒れそう・・・。


案内された和室には、一枚一枚掛けられた、華やかな柄の着物がきれいに並べられている。帯や草履、小物もそれぞれの着物に合わせて用意されている。

まるで展示会のようだ。


「それじゃあ、ゆっくり選んでください。会長達もじきに来ると思うので。おれは作業があるから戻りますね」


ベリー君がニコニコして言った。


「ありがとう、ベリー君」


ベリー君は軽く会釈して作業に戻って行った。


わたしはひとり、広い和室に残された。


物音ひとつしない和室に、咲き誇る華の数々は、着物という空間に閉じ込められつつも、匂いたつ。


命の輝きが、伝統衣装のなかの『華』という形で現されている。


わたしは部屋の中央に正座し、一枚一枚着物を眺めた。そして、一枚の着物が目に止まった。


白地に淡く、時に強い色彩で描かれている百花の王・牡丹、牡丹の影になるかのように花相(かしょう)・芍薬、可憐に散らばる菊、野草、清流のごとく上から流れる雅な藤の花が描かれている。


なんて神秘的で絢爛なのだろう。


空気に揺れとけるような幻想的な藤の花。


うっとりとみつめていたが、気づいたことがあった。


これって振り袖じゃないの?

今日はお茶会の着物を選ぶはずなのに。


「お嬢様でいらっしゃいますか?」


着物に目を奪われていたわたしが振り向くと、障子戸の側に初老の和服姿の男性が座っていた。


「呉服屋の藤原と申します。お初にお目にかかります」


「あ、いえ、わたし」

お嬢様ではなくて───

と、言おうとしたところに、

「おう!藤原の!久しぶりだな!」

威勢のいい組長先生の声がした。

藤原さんという男性は、組長先生に向きなおすと深く頭をさげ、「お久しぶりでございます、会長。この度も当店を御用命いただきありがとうございます。息子一人ではいささか役不足かと思い、わたくしもでしゃばりにきたしだいでございます」と言った。

「おいおい、そんなかしこまった挨拶されるとうちの嬢ちゃんが緊張しちまうぜ。嬢ちゃん、うちがよく利用させてもらってる呉服屋だ」


すでに緊張して固まっていたわたしは

「きょ、今日はよろしくお願いします」

と、言うのが精一杯だった。











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