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32 見え隠れするもの (3)

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青木みふゆ。


帰国して間もなく、花屋の従業員の(むすめ)の話を知って、俺は、娘のことを調べなかったのかと黒岩に聞いた。

黒岩は、会長が調べさせなかったと言った。


『あの娘には余計な手を出すな。調査も不要だ。勝手な真似するんじゃねぇぞ』


会長はそう言ったのだと。


つまり会長はあの娘を以前から知っていた。


会長が調べるなと言っているのに、俺が影で調べたとなるとまずいことになる。


『影でこそこそ調べるくらいならなぜ真正面から俺に聞かねぇんだ』


そうくるに違いない。

会長の目を疑っているわけではない。

だが、万が一・・・。

“万が一”が捨てきれなかった。


殴られるくらいは仕方ないと、調べたが、特に変わったところはなかった。両親は一般人で父親は中学二年の時にガンで他界。母親は高校一年の時に倒れ、介護が必要となり彼女は高校を辞め母親の介護についた。そのせいで年の離れた妹が養女に出されている。


気の毒な境遇と言えば気の毒ではあるが・・・。


母親が亡くなってからは病院の看護助手につき、その後に堀内花壇に就職している。


会長との接触は堀内花壇に来てからだ。


今のところ危険性は感じないが、演じている可能性も残っている。


何が弱みになって、足元をすくわれるかわからないのが俺達の世界だ。


可能性がある限り、警戒は必要だし、場合によっては踏み潰さなくてはならない。


問題は会長だ。

あれほど可愛がっているとなると。


青木みふゆに個人的に近づいて引っかけるか・・、


と、近づこうとしたが、


青木みふゆは、俺に少しも引っかからなかった。



だが、今やっと、

見えなかったものがひとつ見えた。


人の生き死にが容易いこの世界も、政界・経済界も、霊能や占いごとの世界とは密接な関係がある。

偉くなればなるほど、富を得れば得るほど、何かにすがりたいと思う人間は多い。


だからと言って、うちの会長がそういった能力の持ち主にすがりたいのだとは考えにくい。


会長の実家は寺だ。その手の知り合いは昔から数多(あまた)にいるだろう。


彼女の能力を育てたいとか?

これはあり得るな。育成が趣味みたいな人だから。


勅使河原(てしがわら)から彼女と何を話していたかを聞いたが、結婚に興味はなく、好きな男はおらず、付き合ってる男もいない。できれば避けて生きていきたいという。


年頃の女が瞳を輝かせて欲しがる、服やバッグ、アクセサリーにも興味はなさそうだ。

クリスマスプレゼントに欲しい物が冷凍庫というくらいだ。

会長は勅使河原から聞く彼女の話に大笑いしたり、感心したりと楽しげだった。ただひとつ、高校の話になった時、笑いは止まり、神妙な面持ちになった。



勅使河原は、自分では気づいていないが、相手の本音を引き出すのがうまい。

本当なら今朝、俺も勅使河原を手伝うはずだったが、いない方が彼女の個人的な話と気持ちを引き出せるだろうと思って二人にした。


彼女から何か聞き出せと指示したわけではない。


仮に指示をしたとしても、勅使河原のことだ。緊張してすぐにバレてしまうだろうからな。


屋敷に戻った時、青木みふゆは帰ったあとだった。

収穫中の様子が知りたいと会長に言われ、勅使河原を呼んだ。

会長は床の間を背に胡座(あぐら)をかいて座っており、俺は会長のすぐそばに正座をして座っていた。


勅使河原は会長の真正面に、姿勢を正して正座をしていた。

勅使河原と青木みふゆはかなり打ち解けて話をしていた。二人にして正解だった。


「それでクリスマスプレゼントの欲しいものの話になって、」


「クリスマス?えらく季節が飛んだじゃねぇか」


「花屋の大きな観葉植物の話からクリスマスツリーの話になったんです」


勅使河原が説明をすると、会長は納得したように「ああ・・」とうなずいた。


「で、何が欲しいって?」


「冷凍庫が欲しいって言ってました」


「冷凍庫??なんでまた冷凍庫なんだ?」


勅使河原は彼女の持っている冷蔵庫が、全体に小さいことを説明し、

「安いときに買った食材を冷凍したいけど、冷凍庫が狭いから冷凍庫が欲しいって」

と言った。


「なるほどなぁ、嬢ちゃんは経済観念がしっかりしてるな。なあ、京司朗よ」


「そうですね。・・男の話はしなかったか?彼氏がいるとか」


俺が調べた時はいなかったが。


「めんどくさいから作らないって言ってました。極力避けて生きていきたいって」


「・・・・」

予想外の答えが返ってきたな。







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