3 接触
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組長先生は腕を組んでわたしをジロリと睨み付けた。・・・気がした。
違う!わたしは何もしていない!
「メシもろくに食う暇ねえんだって?」
メシ?
「おい持ってこさせろ」
組長先生は後ろにいる氷雪系ヒットマンに声をかけると、ヒットマンは外にいるガラの悪い連中に向かってあごで何かを指図した。
「社長から電話もらってよ。ちょっと気合い入れて来てくんねぇかってよ」
社長め、なんて真似をしてくれるんだ。
いくら知り合いといえ、警察と敵対している集団の長たる組長先生はこの店の一番のお得意様だぞ。
そのお得意様を客除け客払いに使うとは、販売店の経営者の風上にも置けない。
頭の中で社長に文句をつけているうちに、ガラ悪一号がでかい紙袋を持って店内に入ってきて、わたし達スタッフにペコリと頭を下げた。わたし達も彼に向かって会釈した。
ガラは悪いが礼儀は正しい。
ガラ悪一号はヒットマンに紙袋を渡し、組長先生とわたし達に再び頭を下げ店から出ていった。
ガラは悪いが礼儀は正しいからきっと本来はいい人なんだろう。
ヒットマンは受け取った紙袋をレジ前のカウンターに置き、何かを取り出した。お弁当である。
「皆さんでどうぞ」
無言を貫くかと思われたヒットマンが声をだしてしゃべった。
意外と人当たり良さそう。
「ありがとうございます!」
わたしはさっそく元気よくお礼を言葉にした。
お腹がすいていた。
それに、高級料亭『澤山』のお弁当だった。
すごく嬉しい!
一般庶民にはあまりご縁のないお弁当に、わたしのテンションは高かった。早く食べたい。
「お茶入れますね」
わたしは大変機嫌がよくなって、ヒットマンを含めた人数分のカップを用意した。
「社長は二階かい?」
組長先生がわたしに問う。
「あ、はい。たぶん二階です」
と、わたしは答えた。
「そんじゃあ社長にも持ってってやれや。そこのねーちゃん」
「は、はい」
事務先輩は、当花屋社長のお気に入りである。
彼女は組長先生に命じられ、お弁当を二つ持っていった。社長の分と自分の分。持っていけばしばらくは戻ってくるまい。
それよりヒットマンがさっきからわたしを見ている。視線を感じる。お茶ではなくコーヒーか紅茶の方がいいのか?それならそうと言ってほしい。口下手で言いだせないとか?
わたしはできればヒットマンと目を合わせたくなかったが、「あの、煎茶なんですけど、コーヒーか紅茶の方がいいですか?」と訊いた。
ヒットマンがわずかに微笑んだ。
あ、芍薬の花だ・・。
わたしはヒットマンの笑顔をみて、芍薬の花びらがほころんだ瞬間を感じとった。