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番外編 大きな栗の木の下で 3

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京司朗は美之を抱っこしたまま足早に朗のもとに向かった。美之は京司朗にしがみついたまま、泣きやまない。



栗の木のそばにはすでにはしご車が到着しており、高城、矢口ら数人が朗の救出活動をしていた。


「朗ぼっちゃん!ゆっくりと木から離れて!」

矢口が朗に手をのばしているが、


「やだー!おとーさんじゃなきゃやだーーっ!!」

朗、拒否。木から離れるどころかよけいにしがみついてしまった。


朗は父・京司朗に助けてほしいらしい。


高城が駆けつけてくる京司朗を見つけた。

「代表!朗坊ちゃんがお父さんじゃないといやだと言って、木にしがみついたまま動こうとしません!」


「わかった。俺が行く。美之、降りて」

京司朗が美之を降ろそうとすると、美之は

「やだー!みゆちゃんもおとーさんがいい!」

美之も拒否。京司朗の首に全力でしがみついた。


子供の全力は容赦がない。けっこう苦しい。


「み、・・美之、朗を助ける間だけは降りなさい」

「やーだあぁぁぁっっ」

美之はいっそうしがみついた。



「みゆちゃん、降りて」



どこからともなく声がして、美之はパッと顔をあげた。


いつの間にか司がいる。美之は顔色をなくした。ついさっきの、怒ると恐い司が脳裏に蘇る。


司がもう一度「みゆちゃん・・!」と念をおすように美之を呼ぶと、美之は観念したかのようにべそをかいて涙と鼻水を流しながら京司朗から降りた。


父の言うことより兄の言うことをきく娘に、京司朗はいささか複雑な気持ちだ。


矢口と交代してはしご車のバスケット(救助人などが乗る場所)に乗った京司朗が、木の上の朗にゆっくりと木から離れるように言った。父の大きな手に守られはしご車に乗り移ると、

「うわあぁぁぁぁぁんっっ!おとーさーーん!こわかったよおぉぉぉっっ」

と、朗は父・京司朗に抱きついた。


京司朗は朗の頭を撫でながら、

「朗、木登りは自分で降りられる高さまでだと、お母さんに注意されて、お前は“わかった”と約束したんじゃなかったのか?」

と、諭した。

朗は、「ご、ごめんなさい・・、ごめんなさい~~~っ!」と泣きながら謝った。


はしご車から朗を抱いた父・京司朗が降りてきた。

大きな栗の木の下に降りた二人のもとに、美之はさっそく駆け出して━━━━転んだ。

高城が「美之お嬢さんっ!」と助け起こそうとしたが、

「うわあぁぁぁぁぁん!おとうさん!おとうさんじゃなきゃやだあぁぁぁっ!」

と、地面に突っ伏したまま大声でまた泣きだした。

すると朗が父・京司朗にさらにしがみつき、

「おりないーー!おりないーーー!おとうさんの抱っこがいいーーー!!」と、美之に対抗した。


父・京司朗を取り合うバトルが始まった。


「モテモテっスね、代表」

矢口が含み笑いで言った。


悪い気はしないが━━━京司朗は少し照れながらバツが悪そうに咳払いをし、朗を抱いたまま美之のそばでしゃがんだ。


降ろされると思ったのか、朗が「おりないーーー!!」と抵抗の雄叫びをあげ、

「抱っこー!!みゆちゃんも抱っこーー!おとうさん抱っこーーー!」と美之も地面に突っ伏したまま叫んだ。

「美之、抱っこするから起きなさい」

京司朗が朗を抱いたまま美之を片手で起こすと、美之は「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!おとーさーーんっっ!」と泣きながら京司朗にしがみついた。


京司朗の、左右の襟元が朗と美之の涙と鼻水でびしょ濡れだ。

いささか気持ち悪いが、こうして子供に純粋に求められるのは、父親としては悪くない気分だ。


「いいなぁ。かわいいよなぁ。こういうの見ると俺も子供ほしくなっちゃうなぁ」

矢口がつぶやいた。

「お前は先に産んでくれる女を探せよ」

高城が呆れた口調で言った。


京司朗は片膝をついたまま、「さあ、屋敷に戻るぞ」と、朗と美之の背中をポンポンと優しくなで、ふたりを抱きあげようとした。



「つかさー、あきらー、みゆきーっ」


遠くから声がした。



「あ、お母さんだ」

司が人影に手を振った。


「お母さん!?」

朗と美之が京司朗から瞬時に離れて猛スピードで母親・みふゆのもとへ向かって駆けだした。


「うわあぁぁぁぁぁん!おかーさーーーん!!」


我先にと母・みふゆのもとへ走る朗と美之。


京司朗は「・・・」と無言で、走り去る朗と美之の背を見ている。


「あー、えーと、じゃあ俺達ははしご車片づけてきます・・」

かける言葉がない高城、矢口らは、ササッと車に乗り込んだ。


大きな栗の木の下に、司と京司朗が残された。


司が京司朗のそばに近寄り、京司朗の肩をポンポンと慰めるようにそっとたたいて通り過ぎていった。


男親ってのはそんなものさ━━━━と言われた気がした。



京司朗は、結局どんな時も女親にはかなわないのだと、改めて知った。



大きな栗の木がざわざわとささやく、ある日の午後の出来事だった。










 

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