番外編 お遊戯会 1
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「みーゆちゃんはーー♪おーとーふー♪みーゆちゃんはー♪おーとーふー♪♪みーゆちゃんはー♪まっしろなー♪おーとーふー♪♪♪」
日曜の昼下がり、惣領家では今日も美之が歌っている。
しかし美之の得意な『マチュケン サンマ』ではない。
美之はお遊戯の練習をしているのだ。
小中高に様々なイベントがあるように、幼稚園にも同じようにイベントがある。
最たるものが『お遊戯会』
そう、三つ子の通っている幼稚園でお遊戯会が開かれるのである。
「みーゆちゃんはーー♪おーとーふー♪みーゆちゃんはー♪おーとーふー♪♪みーゆちゃんはー♪まっしろなー♪おーとーふー♪♪♪」
美之は祖父・貴之の私室の前の縁側で、自前の白いブラウス、白いタイツ、全身真っ白な格好をして、さらに真っ白なマントを羽織って歌って踊っていた。
白いマントは使わなくなったシーツを母・みふゆが切ってくれた。
「おじいちゃまー!みてるー!?」
美之が踊りながら貴之を確認した。
貴之は将棋盤を見ながら、
「おー、見てるぞー」と、ウソをこいた。
貴之にとって美之は唯一の女の子の孫でとってもかわいいが、何せ三十分も歌って踊っているのだ。
さすがの貴之も飽きた。
美之は延々と歌い踊り続けている。
美之にしてみれば得意の歌と踊りで失敗することは許されない。美之は真剣だ。
「みーゆちゃんはーー♪おーとーふー♪みーゆちゃんはー♪おーとーふー♪♪みーゆちゃんはー♪まっしろなー♪おーとーふー♪♪♪」
三つ子達のちゅーりっぷ組(四歳~五歳)では、日本の昔話を元にした物語を、演技と歌と踊りを取り混ぜて発表することにしたのだ。
美之は早々に豆腐役に決まった。
全身真っ白の豆腐役である。
美之は自ら豆腐役に名のりをあげた。
まっ先に手を挙げて立候補した。
その意気込みたるや幼稚園教諭もたじろぐほどだった。
豆腐役の何がそんなにも美之の心をつかんだのか━━━━それは衣装が真っ白という点だった。
黒板には役名が書かれており、役名の下には衣装の写真(フォトショップ作成イメージ衣装)が貼られていた。
真っ白な装いの上に、真っ白なマントを羽織っている子供の写真だ。白いマントが白い打ち掛けやドレスに似ている。
美之は瞳を奪われた。
シンプルな美しさがある。
頭の中で独自理論が展開されてゆく。
豆腐→真っ白→白無垢(花嫁衣装)→お嫁さん→ステキ!キレイ!カワイイ!
美之の世界は『カワイイ』が支配している。
そもそも、ちゅーりっぷ組の女子園児の大半が梅干しの妖精役を争っていたため、美之の豆腐役はすんなり決まった。
梅干しの妖精役は丸くふくらんだカボチャパンツを梅干しに見立てた赤い衣装だ。フリルもついているが、こちらは美之のカワイイ基準に引っかからなかった。
朗は栗の木の役である。
こちらもすんなり決まった。
問題は司であった。
司があみだくじでおじいさん役になった時、女子園児の目の色が変わった。次から次へとおばあさん役への立候補があとをたたないという事態に陥った。
しかし、今回おばあさんは登場しない。女子園児達はいっせいにおばあさん役をつくるようにと担当教諭の江口里奈(二十八歳)に詰めよった。
春季労使交渉、春闘さながらであった。
江口に詰めよる女子園児達。
ちゅーりっぷ組女子園児の戦いが始まった。
『おばあさん役をつくるべき』と騒がしくなった教室に司はため息をついた。
ため息をついて、
「おじいさんは独身」
と、言い、
「おばあさんは死んじゃったから」
と、付け加えた。
司の助け船に、江口里奈が「そ、そうなのよ!おじいさんは独り身だからおばあさん役は無いのよ」と、女子園児達を宥めようとした。
「じゃあ再婚すればいいじゃない!」
女子園児、負けない。
「そうよ!司くん、あたしと再婚しましょうよ!」
「あたしよ!」
「ちがうわ!あたしよ!」
「あたしはお料理じょうずよ!」
「あたしはお菓子づくりがとくいよ!ママといつもつくってるんだから!」
女子園児達のアピールタイム突入。
今度は司に詰めよった。
「なによ!あたしはパパにおそばづくりを習ってるんだから!司くんはおそばが好きよね!?」
「ちがうわ!司くんが好きなのはパンよ!あたしはちゃんと先生にパンづくりをならってるの。あたしと再婚してくれたら毎日おいしいパンを焼いてあげる!」
「あんたひっこんでなさいよ!」
「なによ!」
もはや修羅場を通り越してあちらこちらの女子に飛び火し戦争勃発寸前となった。
教師は暴走園児を止められず涙目である。
「おじいさんはおばあさんひと筋だから再婚しない。独身のまま」
司の一言がこの危うい状態をおさめるかと思われたが、女子園児達は、
「・・・ステキ!!」
と、恋する乙女の顔で司を褒め讃えた。
「司くんはひとりの女性を愛しぬくのね!」
司の人気はうなぎ上りとなってしまい、女子園児達による恋愛論に発展して収拾がつかなくなってしまった。
そこへ騒ぎを耳にした園長がちゅーりっぷ組を訪れて、事態はなんとかおさめられた。
結局、おばあさん役が新たにつくられることはなく、園児それぞれがぶつくさ言いながらもそれなりの役につき、お遊戯の役作りのための打ち合わせが始まった。
そしてこの美之の豆腐役が、ふだんおとなしい司を怒らせる事態に発展するとは誰も想像できなかったのである。




