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番外編 受け継ぐ者

.







記憶は忘却と蘇りを繰り返し、黒翠は『司』として扱われることで、徐々に『司』の人格を形成していった。



三つ子達が四歳を半分過ぎた頃。


司は祖父・惣領貴之と、松田家当主の松田俊也との囲碁対局を見物していた。

昼寝で寝つけず、庭で錦鯉を眺めていたのを貴之にみつかり、招かれたのだ。


司は囲碁も将棋も好きだ。ただ見ているのが好きだった。



審判役のように真ん中で見ている司の右手側に松田俊也が、左手側には惣領貴之がいる。


相変わらず負けてばかりの貴之は「今日こそは!」と意気込んだ。

開始後しばらくは優位に立っていたが、対局が始まり三十分たつ頃には貴之は劣勢に追いやられた。


待ったをかけて頭をひねらせた貴之が、意を決して碁石を置こうとした。見ている司が、

━━━━あ・・!

と体をわずかに前のめりにした。

━━━━そこじゃない

司は声に出さなかったが、貴之は司の反応に気づいた。


「どうした、司?お前も打ってみるか?」

貴之が司を見ると、司は首を振った。

「なーに、遠慮すんな。ほれ、こっちに来い」

貴之のいつもの手が始まった。負けが見えるとあの手この手で逃げる理由を作り出すのだ。

松田俊也は苦笑いだ。

貴之はここぞとばかりに座布団から退き、司に座るように促した。司は躊躇ったが、貴之から再び強く促され、座布団に正座した。

「ぼく・・いいですか・・?」

と、緊張気味に松田俊也に問いかけた。

松田はニコリと笑って、

「よろしくお願いします」

と、涼やかに答えた。

司も改めて「よろしくおねがいします」とお辞儀をした。




十五分後。





「やったーーー!!勝ったぞーーー!!」




貴之の歓喜の大声が屋敷内に響いた。


藤の間で昼寝をしていたみふゆが飛び起きた。

一緒に寝ていた美之がびっくりして泣きだした。

朗もつられて泣きだした。


何事かと使用人頭の本橋信子や常駐組の数人が貴之の居住スペースに駆けつけた。



「本橋!祝宴だ!宴会だ宴会!!」


貴之が司を抱きあげて、


「司!お前は天才だ!!」


と、叫んだ。


司は松田俊也に勝ったのだ。





急遽、宴会となり屋敷の厨房は慌ただしくなった。


惣領家の庭先は時間がたつにつれ人が集まり賑やかになった。

桜は散ってしまったが、バラや藤、ライラック、ツツジがきれいに咲いている。三年前には牡丹とシャクヤクの花も増やし、惣領家の庭はいっそう華やかになった。


貴之は司の手を引いて、集まった人々に司の勝利を自慢して歩いている。


朗は来客が連れてきた子供達と、神獣戦隊ジャックマンごっこに夢中になり、美之は魚の串焼きに夢中だ。


みふゆは魚に次々と手を出す美之に注意しながら、朗の行動にも注意を払っている。


京司朗は柏槙会(びゃくしんかい)会長の牧が到着したと、玄関に迎えに行った。



「そりゃ惣領会長も大喜びだろう」

「ええ。背中に羽でもついてるのかと思うほど飛び跳ねてましたよ」

京司朗が少し呆れた口調で言うと牧は豪快に笑った。



「おーい、牧!来てくれたか!」

貴之が司の手を引いて牧に声をかけた。

「ただ酒が飲めるとなりゃどこにでも顔出しますぜ」

「ははははは、おめーもとんでもねぇ酒好きだからなあ」

「司ぼっちゃんが松田会長に勝たれたそうで」

「おう!俺の仇を孫がとってくれたぜ!」

「じじさま、だからぼくのちからでかったんじゃなくて」

「何言ってんだ、司!勝ちは勝ちだ!」

「ぼっちゃんの力じゃなかったら誰の力だったんで?」

牧がしゃがんで司の背に合わせた。

「じじさまがみちすじ(道筋)をつけてくれてたからです」

「ほう?」

「じじさまはとちゅうまでかってたけど、まちがえたところがあって、それで、まいごになって・・」

「迷子・・。迷子か・・、言い得て妙だな。司ぼっちゃんは文才もある」

「当然だ!俺の孫だからな!」

貴之が得意になっている。

「まあ、とにかく好きなだけ食って呑んでいってくれ」

貴之はそう言うと司の手を引いて他の来客のもとに司を連れて行った。

司は一度だけちらりと父・京司朗を振り返った。京司朗は司に、貴之と一緒に行くようにと頷いた。


「司ぼっちゃんは間違えた瞬間が見えてたわけか。京司朗さん、次の後継者は決まったようだな」

「宴会が始まる前に親父からも言われました」

京司朗は貴之に手をひかれる司の小さな姿を見ながら牧に答えた。 

「お、松田がいるな。ちょっとからかってくるわ」

牧が松田俊也のもとに行った。


京司朗は宴会が始まる前の貴之との話し合いを思い出していた。


『京司朗、俺はお前の次の後継者に司を指名する。俺は自分が生きているうちに司を惣領家の後継者として育てたい。いいか?』

『俺は構いませんが、もしも司が将来別の道を選びたいとなったら、俺は父親として司が選んだ道を後押しするつもりです』

『ああ、それでいい。最終的に道を選ぶのは司だ』


惣領貴之は育てるのが好きな男だ。


かつて、両親を失った神崎京司朗という血の繋がらない少年を、自らの後継者として慈しみ育てたように。


今度はやっと、自分の血をひいた、司という孫を後継者として育てることができる。

叶わないと思っていた夢が叶うのだ。


━━━━━これで惣領貴之(オヤジ)の心残りも払拭されるだろう


京司朗は宴会に集まった顔ぶれを一見した。


やはりこの宴会は、司を後継者としてお披露目するために開いたのだ。主要会派は全て出席しており、貴之は司を連れて挨拶に回っている。

急な宴会には必ず意味があると彼等も熟知している。


公に発表はせずとも、これで司は惣領家の後継者として認知されることになった。


京司朗は(かね)てから後継者の座は黒岩海斗に譲るつもりだった。海斗は惣領貴之の実姉(じっし)の孫で、惣領家の血をひく正統な立場にいる。


いま抱えている幾つかの仕事がまとまったらと考えていた。まとまったらといっても、十年はかかる。だが十年もあれば海斗も惣領家の人間としての役割と責任を背負うにふさわしい男になっているだろう。

そんな目論見(もくろみ)を持っていたが━━━━━ 


退(しりぞ)けそうにないか・・」


京司朗の目論見は崩れた。


惣領貴之から直接『京司朗の次の後継者』と言われてしまっては。


惣領家後継者の座は、京司朗から司へ渡される道がこの日、決められた。


司が後継者として成長するまで、京司朗がその座を退くことはもう許されないのだ。













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