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番外編 夫の疑問、妻の確信 2

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夫の様子がおかしい。


朝、夫を仕事に送り出したあと掃除機をかけ、玄関の花瓶に生けてあるフリージアの手入れをして、それから母屋に行った。 

父が帰ってくる時間だ。父は惣領家当主の務めである『(みそぎ)』で権現寺に三日間入っており、今日帰ってくるのだ。

 

『禊』は滝に打たれ、ひたすらお経をあげるのだとか。


帰ってきた父は顔色も良く、疲れてはいないようで安心した。

父は軽く朝食をとり、わたしは同じテーブルでお茶を飲みながら父との他愛ないおしゃべりを楽しんだ。

「さあ、三日ぶりに囲碁につきあってもらうか」

と、父が笑顔を見せたので、わたしは「はい」と答えた。


わたしは囲碁を打ちながら、今朝様子がおかしかった夫のことを尋ねてみた。


「京司朗が好きなプロ野球チーム?」

「はい。ありますか?」

「どうした?」

「今朝、好きなプロ野球チームを訊かれたので広島カープと答えたんですけど、なんだかしょんぼり(´・ω・`)してたような気がして・・。好きなプロ野球チームが自分と違っていたのでがっかりしたんでしょうか・・・」

「あいつは野球はあんまり興味無ぇぞ。会話を続けられる程度の知識はあるがな」

「そうですか・・」

「気のせいだ、気のせい。気にすんな。次はここに置いてくれ」

「はい」

わたしは父に言われた通りの場所に白い碁石を置いた。


父は気にするなと言ったが、気になる。夫は何かを言いたかったのだ。


阪神の優勝を気にしていたから、阪神タイガースのファンなのでは・・・。


だとしたら・・、


━━━━━━隠れファン!!


お父さんが大の広島カープファンだから遠慮してひっそりと応援していたのだけど、一人は寂しくて、妻であるわたしを引っぱり込もうとしたのでは・・?

ひとりでも多くの阪神タイガースファンを作りたくて勇気を出してプロ野球の話題を口にしたのかも。

本当は黒と黄色の縞々模様のファンキーなかっこうでメガホン持って大声で応援したいんだ。隠してるって疲れるもんね。


なのにわたしはそんな夫の気持ちを理解できずに広島カープファンだと宣言してしまった。


どうしよう。

夫婦間に亀裂が入ったかもしれない。


阪神タイガースと広島カープのせいで。


悩みが増えた。


ダイエットもしなきゃいけないのに・・。



惣領家の午後三時はお茶の時間。

今日のお茶はわたしと楓お姉さんの二人だけ。ママは松田のおじ様と夫婦水入らずで北海道に出かけている。父も昼食後、会合があると出かけた。


「まあ、ダイエットなさるんですか?」

使用人頭の本橋さんが驚いた表情でわたしを見て、テーブルにコーヒーと紅茶を置いた。

テーブルの中央には夫が今朝焼いてくれたスコーンがバスケットに盛られている。


「はい。・・太ってしまって」

わたしは言いながらスコーンをじっとみた。

━━━━こいつのせい・・


「でも体型はそんなに変わってないようにみえるけど?」

楓お姉さんがコーヒーを一口飲み、スコーンにクロテッドクリームをのせた。


「なんだかお腹が張って太ってきたような感じなんです」


わたしはひとつため息をついて、おそらく『犯人』の一派と思われるスコーンを一個手にした。


結婚して以来、仕事でどんなに遅くに帰ってきても、朝には美味しいパンやケーキやスコーンをつくっておいてくれる夫にはとても感謝している。


感謝は本当だ。


だが、わたしを太らせた犯人の一派には夫も含まれるのだ!


犯人一派━━

美味しいパン、美味しいケーキ、美味しいスコーン

そして、夫・・!!


リーダー:主犯格は『夫』


心に留めておくが、わたしを太らせた主犯格は夫である。

決して口にはしないが、わたしを太らせた主犯格は夫である。


でも作るのをやめてくれとは言えない。だって美味しいんだもん。


だからわたしはダイエットをすると決めたのだ。


食べるけどさりげなく量を減らして、もっと運動をするのだ。とにかく今の早い段階で何とかしなければ。


今日からは紅茶のお砂糖を減らす。

スコーンはクロテッドクリームをのせない。

などなど、まずは小さな一歩からだ。


わたしはスコーンを一口パクリと食べた。

やっぱり美味しい・・!

クロテッドクリームをのせたら二倍三倍美味しいはず・・!

 (ダイエットは明日からでいいんじゃない?)

うぅ・・誘惑の声が聞こえる・・・!

 (今日を最後に思いきり食べて明日からにすればいいんだよ)

 (今日を最後に・・?そうか・・、うーん・・・そうしようかな・・。明日から・・) 

 (そうそう!最後だからクロテッドクリームはたっぷりのっけよ♥)

誘惑の声に導かれ、わたしはクロテッドクリームに手を伸ばした。


「みふゆちゃん!」


阻止された。


楓お姉さんがクロテッドクリームに伸ばしたわたしの手をガシッとつかんだのだ。


神からの警告か。

ダイエットは今日から始めよとのご指示か。 


「誰か!車をまわして!病院よ!」


え?何?なんで病院?


「明理ー!明理ー!来てちょうだい!」


本橋さんまで叫んでる。

何何??どうしたの?わたしのダイエットは病院レベルってこと?


あれよあれよという間に、わけもわからずわたしは車に乗せられた。


スコーン一個しか食べてない。


わたしは哀しくなった。

三個食べたかった。

心残りにお腹がグーッと小さく鳴った。


最近やたらとお腹がすくんだよね。





最終話 3 に続く

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