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番外編 いつもあなたの幸せを。

.







承認式が終わりひと段落ついたが、みふゆには思い悩んでいることがあった。


妹・紗重(さえ)のことだ。


惣領貴之が実の父とわかったいま、紗重とは血の繋がりがないと判明した。


それでもみふゆにとって紗重はやはり大事な妹だ。

 

紗重の行方が知りたい━━━━


実の祖母のもとにいったのだから幸せに暮らしているはずだ。


当時、紗重には二度会わないと約束をさせられ、書類にサインをした。

弁護士からも法的に有効な書類だと言われた。



みふゆは母・礼夏の死後、一度だけ紗重の行方を捜した。が、紗重の行方はわからなかった。弁護士はすでに亡くなっており、事務所も閉鎖されていた。

自らの勤め先となった精神病院から看護師だった紗重の実の母親の情報を探ろうとしたが、こちらも手がかりになるものは得られなかった。



だが、いまなら・・。

父・貴之ならば紗重の行方を捜せるのでは。


会いたいなどと言うつもりはない。


ただ紗重が本当に幸せに暮らしているのか確かめたい。


確証が欲しい。それだけだ。


いつ紗重の話を切りだすか、みふゆは迷っていた。


京司朗に相談してみようかとも考えたが、京司朗は権現寺に修行に入る日が間近に迫り忙しい。どうも海外での仕事の調整がスムーズにいってないようだ。悩み事の相談など気がひける。



そんな慌ただしいなか、いよいよ京司朗が権現寺に修行に入る前日のこと。


貴之の私室に呼ばれたみふゆは「お父さん、みふゆです」と、ひざをつき、障子越しに声をかけた。


「おう、入れ」

障子の向こうから貴之の声がした。


みふゆが障子を開けると、なかには京司朗と黒岩正吾がいた。


なんだろう?と思いつつ、みふゆは貴之の私室に入った。  

珍しく、貴之の私室にテレビモニターが置いてある。


「みふゆ、お前にみせたいものがある。京司朗が修行で権現寺に入る前に見せたいと思ってな」

そう言うと、黒岩正吾がテレビモニターを起動させた。


え?まさか、承認式を撮影してたんだろうか?

確かにみふゆは承認式の全ての行程は見ていない。どのような形で行われたのか観せてくれるのだろうか?


「お前の妹の紗重の行方はわかっている」


貴之から発せられた言葉は予想外のものだった。

捜してくれていたのか━━━━━


「紗重ちゃんの・・?」 


「そうだ」


「さ、紗重ちゃん、紗重ちゃんは今どこに・・!!」


「アメリカだ」


「アメリカ・・・、どうして・・、どうしてアメリカなんかに・・!」


「青木紗重は祖母の田中留美子に引き取られ、その女性の息子夫婦の子供になっていた。夫婦は仕事の関係でアメリカ在住だったため、青木紗重もすぐにアメリカに渡ったそうだ」

「し、幸せですか!?紗重ちゃん、幸せなんですか!?」

「ああ、幸せだ。両親に愛されて幸せに暮らしている」

「・・よかった・・よかった・・・!」

いつだって気がかりだった妹・紗重の幸せ。

みふゆの両眼からは安堵の涙が溢れた。京司朗がみふゆの肩を抱きしめた。

「ありがとうございます、ありがとうございます、お父さん・・!!」

何も言わずとも気遣って捜してくれていたのだ。


「お前の妹の安否はお前の入院中にわかった。できるなら会わせてやりたいと考えてやりとりをしていたが、お前の妹は今の両親を本当の両親だと思っている。相手方から、会わせることはやはりしたくないと正式に返事をもらった」

「いいんです、いいんです・・!紗重ちゃんが幸せならそれで・・!それだけでもう・・!」

「会わせてやれないが、メッセージを託された。アメリカのうちの弁護士が昨日持ってきてくれた」

「え・・?」

「お前の結婚のお祝いメッセージだ」


テレビモニターが明るくなった。


画面に少女が映しだされた。


「紗重ちゃん・・?」


「いまは『エマ』という名前だそうだ。日本語は話せず、ほぼアメリカ人として暮らしている」


『Hi!I'm emma・・』

流暢な英語で話す少女はウェーブのかかったセミロングの黒髪に、ほんのりピンクの唇で、ニコニコと笑顔で喋ってくれている。

目元に面影がある。

笑った顔が三歳だった紗重を思い出させる。

いまは十一歳のはずだ。


英語で喋る紗重のモニターの画面下には日本語訳がついている。


━━こんにちわ!エマです。私が日本にいた時にとてもかわいがってくれたお姉さんが結婚すると聞き、お祝いのメッセージを届けようと思いました。

当時の記憶は私にはなくて残念ですが、私からもぜひおめでとうを言わせてください━━


英語で喋ったあと、紗重は少しかしこまって、咳払いを二、三度した。


「ミ、ミフユ・・オネエサン、オ、オメデトウ・・ゴザイマース!シヤワ・・、シ、ア、ワ、セ、ニ、・・ナッテ、ク?クダサーイ!」

たどたどしい日本語だった。



「ほう、日本語は全く話せないと聞いてたが、お前のために練習したんだろうな」

貴之が言った。

「わたしの・・ために・・」



紗重は日本語で祝いを述べたあとに英語で

「Congratulations on your wedding day and best wishes for a happy life together.!!」

と祝ってくれた。直後、パーンとクラッカーの音が鳴った。紗重が鳴らしたのだ。


画面のなかで紗重が手を振ってくれている。


明るくさわやかに笑う紗重に、みふゆは涙をこぼしながら画面に手を伸ばした。みふゆは画面の紗重を撫でた。あたかも本当にふれているように画面の紗重を優しく優しく撫でた。


いつも幸せだけを願っていた妹。

こんなに素敵なかわいい笑顔の少女に成長していたなんてと、みふゆは感激していた。


そして、願った。


どうかこれからもたくさんの幸せが紗重ちゃんに降りそそぎますように━━━━━



「お父さん、ありがとう・・!ほんとに、ほんとにありがとう・・!わたし・・これで何も思い残すことなく新しい道を進めます・・!」


みふゆの笑顔は晴れやかだ。


貴之も「ああ」と頷いて微笑んだ。


憂いは晴れただろう━━━━


娘の晴れやかな笑顔に貴之も一安心だ。


「京司朗、これでお前も安心して修行に入れるだろう」


京司朗が「はい」と答え、みふゆが京司朗の顔を見上げた。


「ここのところ浮かない顔をしていただろう?心配ごとがあるとしたら恐らく妹のことだと思ってね」


京司朗はちゃんとみふゆを見ていてくれたのだ。


「あ、ありがと・・、ありがとう・・・」


それ以上声にならず、みふゆは静かに涙をこぼした。


こうして皆がみふゆを思ってくれている。


紗重もみふゆの幸せを願ってくれた。

あの小さかった紗重が━━━━



ありがとう

ありがとう



━━━━紗重ちゃん、お姉ちゃんね、すごく幸せだから、紗重ちゃんももっともっとたくさん幸せになってね。いろんなことがあると思うけど、きっと大丈夫。

紗重ちゃん。紗重ちゃんがわたしの妹になってくれた時、わたしとってもうれしかった。

青木のお父さんが死んで、わたしとお母さんの唯一の光だったのが紗重ちゃんだった。紗重ちゃんがいてくれたから、笑ってくれたから、わたしとお母さんは・・・。


紗重ちゃん、

楽しい時間をありがとう。

楽しい思い出、ありがとう。


元気でいてね。


いつも、いつでも、あなたの幸せを祈ってるから・・。












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