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2 出逢う

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組長先生と若頭。


この二人の組み合わせが初めて来店した日のことはよく覚えている。

組長先生は生け花とお茶の免状を持っていて、花を買いにくるお得意様の一人だ。

金払いのいい正に良客。


『組長』なので、お付きの人はいるのだが、組長先生はだいたい一人で店に入ってきた。

少しおちゃらけた明るい人で、好感度はのっけから大変良いものだった。

何回か接客してるうちに、いつのまにか組長先生は、わたしのことを「嬢ちゃん」と呼ぶようになった。




太陽の輝く、少し暑い日だった。


『花束やアレンジを頼むお客様が朝から多いので来てくれ。お昼ご飯が食べられないし社長の機嫌が悪い』と、応援を頼まれたわたしは、支店から本店へとかけつけた。


わたし・青木みふゆは支店勤務で、本店勤務は週に二度ほど。

ただし、忙しい時などは応援に呼ばれたりする。今日みたいに。


本店にかけつけると、まさに店内は混乱状態だった。

水替え中だったのか、花と花おけはそのままだし、掃除道具は出しっぱなし、作り置きリボンも中途半端、何より客が多い。電話も鳴りっぱなしで線を引っこ抜きたいと思った。


何が起きてるのかとも思うくらい、祝事用から仏事用まで、一年分が集中してるような混乱ぶり。


花束・アレンジメントも千円くらいで頼まれているのをみると、恐らくこれが原因で社長は機嫌を損ねたのだろう。


金額少ないと作るの難しい。

儲けがいまいち。

花一本の値段を考えると、花の本数は当然少なくなるのだが、お客様はそれがお気に召さずお怒りになる。

どうやら千円でバラ二十本くらい入れてほしいらしい。無理です。

極力、『少ない予算で豪華に』のご期待に添えるよう努力はしますが、限界もあるのです。


社長は逃げた模様でどこにもいなかった。


仕方がないのでとりあえず花束作りに参戦した。




昼も食べれず時間は過ぎ、おやつタイムの午後三時ちょっと前だった。


リンリンリン♪


ドアベルが鳴り、わたしは「いらっしゃいませ」と、満面の笑みでお客様をお迎えした。のに、



ピッキーーーーーン!

ビシビシビシーーーーーッ!!!



と、音が聞こえた気がした。


店内が一瞬にして凍り、人間も同時に凍った瞬間だった。


瞬間冷凍とはまさにこのこと。


着物の組長先生と、黒髪を後ろに流した目付きの鋭い目を合わせたら石にされそうな━━━いや、すでに我々は氷漬けにされている━━━背の高いスーツ姿のおにいさんは・・氷雪系ジャパニーズマフィア?

いまにも懐から拳銃出しそう。

氷雪系ヒットマンとでもいうべきか。

氷雪系なら拳銃から氷輪丸を出すかもしれない。あるいは真っ白な拳銃から難しい漢字のなんとかのとがめ、とか。


店内の客に敵の組員でもいるのか?


おまけに店の前には黒塗りの車三台が停められ、車から次々ガラの悪そうな男達が降りてくる。

店の入り口にはスーツの強面が二人立っている。

営業妨害である。


お客様の一人が「わ、私、あとできますね・・」、とバッグをしっかり抱きしめ足早に店から出ていった。


組長先生が「おお、すまねぇな。他の皆さんがたもちょいと席外してくれると、ありがたいんだがなぁ。大事な用件があるんでねぇ」と凄んだ。


どうした組長先生。

組長先生らしくないぞ。いつものあの少しおちゃらけた明るい優しさはどこにいった。


いや、それより大事な用件とは何か。やはりこの中に敵がいるんだな?

抗争相手の手先か?


お客様方は我も我もと続いて出ていった。


そして誰もいなくなった。


スタッフ以外は。


残されたスタッフは以下の通りである。


わたしこと青木みふゆ 二十三歳 正式には支店スタッフ。

隣にいるのが本店スタッフ御年七十歳(自称)の七十(ななじゅう)先輩こと山形友江さん、特技はラッピング。勤務歴八年。

後ろに隠れているのが本店の事務兼店頭スタッフの事務先輩こと林香苗さん二十五歳。特技は社長にコーヒーをいれること。の合計三名。


女三人よればかしましいというが、かしましいどころか完全フリーズの無言で消えたい気持ちである。


組長先生は客全員が出ていくのを確認すると、「よし、これでいいな」と言った。


なんにもよくない。

これでは敵は客の中にいなかったことになる。

では・・・、

もしかしてこの合計三名のひ弱なスタッフの中にいるということか?!



組長先生はわたしたちスタッフのほうを向いた。


やはり三人の中にターゲットがいるんだな!

でもわたしは違うぞ!

ということは残りの二人?



「さて、嬢ちゃん」


わたし!?








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