表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/269

178 記憶の扉 -3-

.








「あ、りんちゃんだ!」


視線が合い、とっさに陰に隠れたが遅かった。名指しされてしまった。堀内にあれほど見つかるなと念押しされたのに見つかってしまった。冬のボーナスは無いかもしれない。

糸川梨理佳(いとかわりりか)は隠れながらうなだれた。



「りんちゃん!どうしたの?かくれんぼ?」


「みふゆ、わかるのか?」

惣領貴之は怪訝な表情でみふゆに聞いた。記憶が戻ったのか。

「うん。りんちゃんだよ。りんちゃん、でてきて!みつかったからかくれんぼはおしまいだよ?」

きまずそうに顔をのぞかせ、糸川梨理佳は様子を伺った。

貴之はみふゆの記憶を確かめようと梨理佳に手招きをした。

梨理佳はおずおずと出てきた。堀内の顔が怖くて見られない。握った手で唇をおさえ、上目遣いでちらちらと堀内健次に視線を向けた。

堀内が無精ヒゲをなで梨理佳を睨んでいる。堀内が怒っている時の仕草だ。梨理佳は冬のボーナスをあきらめた。


「みーちゃん・・」

“みーちゃん先輩”と、梨理佳は呼ぼうとした。

「おとうさん、がっこうのおともだちのりんちゃんだよ」

だが、みふゆは糸川梨理佳に対しても記憶を作り変えた。


梨理佳は学校の友達と紹介され、みふゆの記憶障害が、単純に過去を忘れてるだけとは違う別の何かが起きていると知った。


「がっ・・、学校のお友達のりんちゃんです。みふゆちゃんのお父さん、こんにちは!」

深々とお辞儀をした梨理佳の変わり身の早さは、いろんなキャラクターをコスプレしているコスプレイヤーならではだ。真のコスプレイヤーとは、キャラクターになりきることが必要だ。だからいまはみふゆの学校のお友達というキャラになりきらねばならない。

「お、おお、うちの娘と仲良くしてくれてありがとうな」

貴之も梨理佳にあわせた。


「りんちゃん、がっこうどうしたの?」

梨理佳は車椅子の側にしゃがみ、

「創立記念日でお休みだよ」

と答えた。

「りんちゃん、わたしね、あるけるようになったらがっこういくから、いったらまたなかよくしてね」

みふゆがゆっくりとした口調で話した。

「りんちゃんは学校だけでなくいつだってどこにいたってみーちゃんの仲良しさんだよ」

「うん、ありがとう」

みふゆは梨理佳の頭を撫でた。

「おまじない」

「おまじない?」

「かみなりがりんちゃんにいじわるしないように」

「みーちゃん・・」

洪水を引き起こした雨の日、大きな雷が鳴って梨理佳はみふゆに何度もしがみついた。みふゆはその度に「大丈夫」と、梨理佳を撫でて励ましてくれた。

何かわからない異常な状態にさらされても、みふゆは梨理佳の心配をしてくれている。


梨理佳は泣きそうになった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ