10/269
10 七十先輩
.
七十先輩は、わたしが花屋に就職した時七十歳だった。
本人がそう言ったのだ。
初出勤でスタッフを紹介され、仕事の手順は七十先輩が教えてくれることになった。
「山形、青木の面倒見てやれ。俺は配達に行ってくる」
社長が車の鍵を持って配達車両のあるガレージに行った。
「はいよ。これからよろしくねぇ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「あんたいくつだい?」
「二十一です」
「いいねぇ。若いねぇ」
「山形さんはおいくつなんですか?」
「七十だよ。人生あっというまだねぇ」
そして、あれから二年の月日が流れ去り・・・
「今年おいくつなんですか?」
と、聞くと
「七十だよ。人生あっというまだねぇ」
と今年も言う。
永遠の七十歳・・・。
わたしが彼女を七十先輩と、呼ぶ所以である。