子供電力株式会社
会議室に各国の首相や学者らが集まり,世界が抱えるある問題に対して話し合っていた.
「今や世界のすべての活動が電気により行われております.そんな中,人口は増加し続け消費電力も比例して増加していきます.電気がなくなれば私たち人類は滅亡するほかない状況にある中で,どのように電気を確保していくか考えなくてはなりません.」
「人口増加を抑えつつ,電力を確保する良い方法はないものか.」
会議室の人々が頭を抱え思案していると,一人の学者が言った.
「人間の骨に圧力を加えると圧電特性により発電できます.また,痛みに反応した人体は発熱に至り,その熱で熱発電機による発電を行うことができます.人口を減らしつつ発電もできる.」
会議室にいるすべての人がその発言に驚愕し息を呑んだ.
自らの血流の音が聞こえるほど静かになった部屋で,ある国の首相が手を挙げて聞いた.
「発電量は?」
学者はペンを走らせた.
サラサラ,カツカツと会議資料の裏面を数式で埋め尽くした学者は,
「骨密度と筋肉量が最大になる20歳の人間と私が開発した装置を用いれば,1人につき100万人分の電力を賄うことができます.」
「なるほど.ということは5万人の20歳を集めれば全人類分賄えるのだな.5万ならば,殺せるな.ところで,その発電はどれくらいの期間持続するのか.死んでしまっては発電できないだろう.」
「痛みによるショック死などが考えられますが,おおよそ半年程度でしょうか.」
「これだけ人口がいるならば,半年で交換しても十分だ.」
会議室にいた人々の中には倫理的観点の問題や,人権侵害であると反対の声を上げようと考えたものもいたが,人類はもうそんなことを言っていられない状況になっていた.
世界中で20歳の男女を募りだした.
「世界のために生涯発電所に勤める代わり,その家族の生活を保証する.」という条件のもと,まずは貧困層の20歳が10万人集まった.
半分は特殊な服を着せられて別室へ,もう半分は大槌を持たされ待機した.
少し時間が経ち,スーツを着た男が現れ大槌を持つ5万人の若者たちの前で仕事の説明を行った.
「非常に簡単な仕事だ.君たちはこれから発電所に行って,そこにある装置をその大槌で叩いてもらう.その装置の中にあるものが潰れることで発電できるのだが,完全に潰してしまうわけにもいかないので気を付けていただきたい.発電のために電気を使うのは本末転倒であるから,君たちの手を借りるのだ.」
「勤務時間はこれまでの仕事と同様,1日8時間.装置の中にある発電物質の回復を待つ場合があるので,都度休暇をもらえることがある.」
説明が終わり,大槌を持った5万人の若者たちはそれぞれ担当の機械の前に立った.
1日8時間機械を叩くだけ,その上で臨時休暇もある.こんな好条件で一家を養うことができる!これはなんてすばらしい仕事なんだ!と彼らは思った.
仕事の内容が発表されるとその情報は瞬く間に広がり,締め切ったにもかかわらず発電所への応募が殺到した.
また,この仕事に選ばれることは大変名誉なことであるという考えも広まった.
半年たったある日,発電所は「20歳の男女を5万人募集する.」と案内を出した.
集まった5万人の若者はそれまで勤めていた先輩から大槌を渡され,スーツを着た男の説明を聞いた.
先輩たちは大槌を新人に渡し,特殊な服を着て別室へ向かった.
100年が経った.
100年間,人類は電力に困ることなく生活することができていた.
しかし,ある問題が起きた.
「今年20歳の人間が5万人集まりません.」
会議室の人間は頭を抱えたが,一つの案でまとまった.
「足りない分は19歳の人間を使おう.」
50年が経った.
50年間,人類は電力に困ることなく生活することができていた.
しかし,ある問題が起きた.
「今年19歳,20歳になる人間が5万人も集まりません.」
「ならば,足りない分は18歳の人間を使おう.」
25年が経った.
25年間,人類は電力に困ることなく生活することができていた.
しかし,ある問題が起きた.
「今年18歳,19歳,20歳になる人間がもういません.」
「ならば,17歳の人間を」と言いかけて,会議室の人間は閉口した.
これだけ年齢を下げてしまっては発電できる量も足りなくなってしまう.
「17歳の人間を10万人使おう.」
会議室の人間の意見はまとまった.
10年が経った.
若い人間を使いつくした世界には,老人ばかりが増えていた.
老人たちはとうの昔から子供を産む能力が無くなっていた.
生きていくために,なけなしの子供たちを集めて装置に入れて叩いた.
1年が経った.
そこにはもう,なんの光もなかった.