執着と記憶が消えるまで
ぷくぷくぷくぷく ぷくぷくぷくぷく
青龍の泉の深い深い水の底。
沈められた巫女の身体から、泡が湧き出る。
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泉の上辺で遊んでいた神獣達が、泡の出元である巫女に話しかける。
「巫女、僕達の事、忘れちゃ駄目だよ。」
「あの時、すんごくお腹が空いて悲しかったんだよ。」
「ごめんなさいぃいいー」
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「巫女、三百年分の下界の記憶は、まだまだ消えそうにないな」
「お前の下界への執着心、半端ないな。」
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「下界への執着を剥がせ。下界の記憶を消し去れ。
泡が止まる時、お前は透明な巫女に戻れる。」
ぷくぷくぷくぷく ぷくぷくぷくぷく
「うっ、うっ、うぅ〜…」
巫女の涙は、泡となって消えていく。
「愛して欲しかったの…」
巫女の呟きも、泡となって消えていく。
「欲しがってはいけなかったの??」
巫女の執着を泡が包んで、剥がしていく。
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求めた男の魂は、願いが叶い逃げ切った。
二度と生まれ変わる事は無い。
ぷくぷくぷくぷく ぷくぷくぷくぷく
現世の老婆は、夫が旅立った事を知らない。
ぷくぷくぷくぷく ぷくぷくぷくぷく
全て忘れさるまで、老婆の生は続く。
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求めるな。愛を乞うな。
ぷくぷくぷくぷく ぷくぷくぷくぷく
月の住人は、下界をただ見つめるだけ。
欲しがってはいけない。手を出してはいけない。
決して触れてはならぬ。
ぷくぷくぷくぷく ぷくぷくぷくぷく
月の巫女は今も、青龍の泉に沈んでいる。
実体験で浄化したんですけど、しんどかった〜。