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短編

言の葉禁断呪文

作者: 猫宮蒼



 カラン、と出入口のドアに取り付けられたベルが軽快な音をたてる。

「いらっしゃいませー」

 それと同時につい最近入ったのだと言われていたウェイトレスの、まだどこかぎこちない声が響いた。


 やってきた客は一人で、それは待ち合わせをしていた相手だ。

 彼は待ち合わせをしているんだけど……とウェイトレスに告げ、それからすぐに私に気付いたのだろう。あぁ、あの人、とこっちを指差してきた。いや、指を差すんじゃない。


 まぁ、あの人、と人間扱いしてきただけ良しとしよう。以前は「あれ」で済まされたからね。


 向かいの席に座ると、こちらを一瞥すらせずメニューを手に取る。いや、せめて一言何かさぁ……とは思ったけど、言ったところで意味がない。

 私は彼が注文を終えるまで大人しく待った。



「で、何の用?」

 注文を終えた彼は久しぶりだとかの挨拶もなしに問いかける。


「いやあのさ、せめてもうちょっとこう、なんていうかさ。軽い世間話とかから入ろうとか思わない?」

「思わない」

 相変わらずのその態度に、私は「ははっ」と乾いた笑いが自然と口から零れていた。この野郎。


「まぁいいや。逆にいきなり最近どう? とか元気だった? とか聞かれたらそれはそれでどうした!? って思うもの」

「生憎お前の最近の近況に興味はないし、体調もどうでもいいかな。どうせ殺しても死なないだろうし」

「この野郎」


 イラっとしてつい口が悪くなってしまったけれど仕方がない。


 そうこうしているうちに、まず飲み物が運ばれてきた。


「わざわざ呼び出したんだ。何かあるんだろ? こうして時間を作ったとはいえ、時間は有限だ。さっさと話せ」

 甘い香りを漂わせているココアが入ったカップを持って、彼はさっさと話せよと言葉だけではなく態度全体で訴えている。

 私もまた、先程注文しておいたメロンソーダをストローでかき混ぜつつ「あのさ……」と言葉を選びながら口に出した。



 私の名前はリゼ。遠いご先祖様に何か力の強い魔女がいたらしく、そのせいで人よりちょっとだけ魔力が強いだけの一般人だ。そもそも魔力なんて昔はともかく今はみんなが持ってるものだし、別に何も珍しくはない。魔法だって生活に根差したものしか使えないし、時折現れる魔獣を倒せる程の力はない。

 いや、魔力はあるからそういった攻撃魔法が扱えればもしかしたら……とは思うのだけれど、そもそもそういった魔法は危険なので使うにしても色々と決まり事がある。

 誰でも使えるものじゃない。魔法を発動させるための呪文は新たに覚える際まず試験に合格しないといけないし、危険なものは使う場所なども定められている。それを無視して使えばたちまち罪人だ。


 だってそうだろう。

 魔獣に向けて攻撃するためにファイアーボールの魔法を唱えたとして。

 魔獣討伐のため、とかならまぁ、問題はない。でも街中で、人に向けて放ったら? 人じゃなくて建物に向けて放ったら?

 下手したら火だるまになるし、建物だって燃えて何もかもなくなってしまうかもしれないのだから、犯罪というのは言うまでもない。

 怪我を治す回復魔法だって、自分で自分の怪我を治す場合はともかく人に使う場合も免許がいる。

 大した使い手でもない相手が中途半端な魔法を施した事で逆に怪我が中途半端な治り方になった場合、他の人の回復魔法で治そうにも余計に手間がかかるのだ。

 応急処置程度ならまだしも、一定の怪我に対して使う時は免許を取った者以外は処罰の対象になる。


 昔は限られた者しか使えなかった魔法は、今や生活に根差した状態で誰でも使えるけれど、だからこそその分魔法に関する法律も増えた。魔法を使うにはきちんとした知識が必要だし、その力を行使するための責任や常識が必要になるというのは言うまでもない。

 だって、そうじゃないと力の危険性もロクに理解しない奴が危険な使い方をして最悪の事態を引き起こしかねないから。


 よくあるのは魔力があるんだから魔法を使ってみたい、というまだ試験も受けていない幼いこどもたちだろうか。幼いうちはそこまで多くない魔力しかないのが大半なので、大抵は失敗する。

 詠唱が正確じゃなければ失敗するし、仮にどこかで詠唱を聞いて覚えていたとしても魔力が不足していればやっぱり失敗する。

 でも、時々成功させちゃう子もいるのだ。そしてそういう子は威力をミスって自滅するか、近くにいたお友達を巻き込んで大惨事。怪我の度合はピンキリだ。かすり傷程度で済む場合もあれば、大怪我をして何日も意識が戻らないなんて事もある。最悪死ぬのもあるわけ。


 だから、魔力がいっぱいあっても何でもできるわけじゃない。

 魔法一つ新しく覚えるにしても、その魔法を覚えて大丈夫かどうかのテストがあるし、覚えたからってどこでどのように使ってもいいってわけじゃない。


 国民は存在登録の為に自分の魔力を注いだ魔石を所持しなければならない。身分を証明する物であり、うっかり失くすと大変な事になる。


 ともあれ、魔法一つ覚えるとその分責任も増すって事なので、私は基本的に平和的な使い方しかできないやつしか覚えてない。自衛のために攻撃魔法も覚えた方がいいのかなぁ、と思わなくもないのだけれど。



 そして私が呼び出した目の前のこの男。

 彼はグレン。

 王立魔法研究院で働くというか、そこで好き勝手研究している私の幼馴染だ。

 魔法に関する研究をするのが趣味で生きがいで、それを仕事にしてしまった奴だ。

 興味のある事にはとことんのめり込むけれど、興味がなければ一切記憶に残さないタイプ。


 一応私の事は記憶してくれてるから、マシかもしれない。

 グレン、ご両親との仲はとても悪くて縁切ってるからなぁ。こないだ話した時は驚く事にもう両親の顔も名前も綺麗さっぱり記憶から消去してた。ちなみにご両親は存命である。

 いやうん、なんていうか、相性が悪かったんだと思う。

 グレンは一生研究に人生を費やしたいタイプで、それさえあれば幸せ。

 でもご両親はもういい年なんだからそろそろお嫁さんを……とか恋愛はいいぞ! っていうタイプ。おじさんもおばさんも二人の仲を見てれば幸せなのはわかるし、二人はそれでいいのかもしれないけど、それを息子のグレンにも強要しちゃって拗れたんだよね。


 前に無理矢理見合いの場をセッティングしてそこでグレンがブチ切れて絶縁しちゃったわけだ。


 貴族なら政略結婚とかあるよねってなるけど、私もグレンも貴族ではない。それなのに、頼んでもいない見合いを勝手にやって、好きでも何でもない女と結婚しろ、とか言われたらそりゃグレンもキレるよなぁ……昔から好きな人いないの? 恋人は? とか恋愛話を隙あらばしてきたのもグレンの絶縁しようって気持ちを固めるポイント積み上げてたと思うし。


 絶縁した挙句今まで育てたのにかかった金だ! とかって手切れ金渡した挙句これ以上関わるなら殺す社会的に殺すその後で物理的に死ぬように誘導するとか言ってたから、ご両親も流石に接触はしていない。

 一応自分の息子の性格なんにもわかってなかったわけじゃないみたいで、もしそうなったら本当に実行するって理解しちゃったからね。グレンにはそれができるだけの実力があるし、自分が犯罪者にならないようやらかすだけのポテンシャルもある、ってなったらまぁ、ねぇ……?


 別に人との関りを一切拒むとかそういうわけじゃないんだけど、押し付けられるとキレるタイプがグレンだ。


 例えば娯楽小説があったとして、これ面白いんだよめっちゃ好きー、機会があったら是非読んでみてー、興味があるなら貸すよー。とかって会話ならセーフだけど、これめっちゃ面白いから読むべき。読まないと人生の半分損してるから。読まないとむしろ人としてアウト。みたいな感じだとアウト。


 まぁ私も流石にそこまでぐいぐいこられたらうんざりするからグレンのそういう部分どうかと思うよ、とかって言えないわ。


 ともあれグレンは私の知る中で一番頭がいい。

 わかんない事は大体グレンに聞くと解決してる。

 だからこそ、私は今日グレンをこうして呼び出したのだ。


 一応今日が休みだと知った上で連絡とったし、どうしても無理なら諦めるとも言っておいたから来るかどうかは半々ってところだったけど、来てくれたので良し。



 ――私がグレンに聞きたかった事というのは、先週起きた事件についてだ。


「一応聞くけど、先週起きた事件については知ってる?」

「先週? 何かあったか?」

「あっ、もしかして研究所から出てない? ご存じない?」

「あぁ、何かあったか?」

「ありましたよ大事件が」


 興味の無い事にはとことん無関心なので、いくら有名な出来事でも知ってる前提で話しかけると見事にすれ違うんだよね。魔法関係だと大体知ってるから前置きいらないんだけど、それ以外となるとまず事前に知ってるかどうかを確認してからの方が話がスムーズだ、と学んだのは随分昔の話だ。


「えぇと……私たちにはあまり関係ないんだけど、ほら、貴族のご令嬢ご子息が通う王立貴族院ってあるでしょ」

「あるな」


「お待たせしましたこちら季節のメガ盛りパフェでーす♪」


 私が話し始めたタイミングで、ついさっきグレンが注文したメニューが届けられた。


 でかっ!! え、何これ食べきれる!? 何か私とグレンの間を隔てる塔みたいなのそびえちゃったんだけど!?


「それではごゆっくりどうぞー」

 ウェイトレスが立ち去って、私の驚愕をよそにグレンはスプーンを手に取った。

 食べながらもその視線は話を続けろと言っていたので遠慮なく続ける事にする。


「そこで何があったかまでは私も詳しくないんだけど、何かいざこざがあったみたいなのよ。知り合いのそこで働いてる教師の話だと第一王子とその婚約者の侯爵令嬢、の間にどうにか割り込もうとしてた男爵令嬢がいたみたいで」


 そこで働いてるといっても、その知り合いは彼らの担当というわけではなかったので本当にさらっとしか知らない。

 でも、話を聞けば何かそういう話ありそうよね、って思えるものだった。


 まず第一王子と侯爵令嬢は婚約者だった。

 それについてはどうやら王命で決められたものらしい。でも貴族や王族ってそういう政略結婚が当たり前っていう話らしいし、私たちからすればそういうものなのね、で終わる話だ。

 侯爵令嬢はそうなると将来のお妃様。うーん……煌びやか~なイメージあるけど、でもその分大変な事もいっぱいあるんだろうなぁ、と思うと憧れはするけど自分がなりたいかってなったら……


 国を背負って立つって覚悟決めても覚悟だけじゃどうにもなりそうにないよなぁ、って庶民の私からすれば思うわけだ。


 何がどうなったかわからないけど、男爵令嬢と王子が知り合う事になったらしくて、そこから二人の仲は徐々に近づいていったらしい。

 知り合いの教師曰く、王子からすれば物珍しかったのかもしれない、との事。


 どうやら男爵令嬢は、ちょっと前まで私たちと同じ平民だったらしい。それが何がどうなったかわかんないけど貴族の家に養子として引き取られたのだとか。

 考えられるのは昔手を付けた女に子供がいるってなったのを知って駒として使えそうだから引き取ったパターンか、はたまた最愛の妻を早くになくした貴族があの娘妻に生き写しだなぁ、で引き取っちゃったパターンか。もしかしたら他の理由があるかもしれないけれど、私にはわからない。


 貴族となって日が浅い男爵令嬢とか、そりゃ王子からすれば珍獣みたいなものだよなぁ、とは思う。

 そして男爵令嬢から見ても、貴族として上に立つ人物とか見方を変えれば珍しかろうなとも。

 雲の上のお人で恐れ多い……と思うより、普段なら関わる事もない相手が近くにいるという状況に珍しさがいっちゃたのではないかしら。


 別に最初から王子が男爵令嬢と恋に落ちたとかではなさそうなのよね。聞く限りだと。

 多分最初は本当に珍しかったんだと思う。珍獣。その上で愛玩動物扱い。

 でも、これが犬や猫ならそれで済むけど言葉が通じて意思の疎通がはかれる相手だ。どこかで絆された。

 そうなると王子の方も単なる珍しい動物扱いから、友人扱いくらいには昇格させたかもしれない。そうやって距離を縮めていって、気付いた時には恋に落ちてたパターンかも。


 私の口から出てきた恋愛話に、グレンはイヤそうに眉間にしわを寄せた。いやうん、その手の話が苦手ってかむしろ嫌いなのはわかるんだけど、これ事件が起きる話の前提だから。


「それで? 一歩間違えれば王子は浮気してるととられる話になるわけだが、それくらいならスキャンダルとしても揉み消せるだろう」

「うん、それだけなら。実際この手の話割とよくあるしね、物語とかで」


 婚約者に近づく女が許せなくて嫌がらせをする悪役令嬢とか、よくある話だ。

 でも婚約者である侯爵令嬢はそういう事はしていない。そもそもそんな事をする暇がなかった、というべきか。婚約者は一時的な遊びだと判断したか、特に何かを言うでもなく静観してたらしい。王子が自分の立場を弁えてるなら問題はないといったところか。


「その前提まだ続くのか?」

「うぅん。とりあえずそういう感じで婚約者の間に一人の令嬢が割り込んだ、ってのは確か。このままいけば男爵令嬢はもしかしたら愛妾になるのかな、って感じなわけなんだけど。

 どうやら王子が本気になっちゃったみたい」


 その言葉に「はぁ?」と言い出しそうな顔をしたが、声は出なかった。丁度ざっくりカットされたフルーツを口の中に運んだ直後だったので。もっもっ、と咀嚼してるグレンに私は話を続ける。


「魔法ってさ、色々種類あるじゃん? 世間一般に出回ってるものから、特別な資格がないと覚えられないやつとか」

「そうだな。昔から伝わってきたものの他に、新たに作られる魔法も存在している。新たに作られた魔法に関しては作った者はともかく覚えたいという者が覚えるまでそれなりの時間がかかるから、今もまだ認可されてない魔法は複数あるぞ」

 魔法に関してとなると返答が早いな。

 けどグレンの言う通り、新しい魔法を作っちゃった相手はもうそれを使えるとはいえ、じゃあ他に使いたい人に教えていいかな、ってなった時、その魔法を使うとしてどういう知識が必要かだとか、試験の問題についてもどういうものを盛り込むべきか、だとか万一使用方法を間違えるような事になった場合、だとかのあれこれを想定しないといけないから、新たな魔法が作られたよ、ってニュースが流れてきても実際それらを使えるようになるまで早くて一年くらいかかったりするのだ。


「で、何か、その男爵令嬢なんだけど。新しい魔法を生み出したらしくて」

「なんだと?」


 さっきまで他人のコイバナとか全く興味ねぇ、って顔してたのに魔法が出てきた途端凄い食いつきだな。


「それがどうやら予知魔法みたいで」

「……予知?」

「少し先の未来を見る事ができる、とか。や、私も詳しく知らないよ?」

 詳しく、とか言い出しそうなグレンに私は両手を前に突き出してステイステイと押しとどめる。


「未来を知るとか、ちょっと信用できないよね。でも、どうやら本当に当たったらしくて。それも一度や二度じゃないくらい。でもそうなるとさ、新しくその魔法を使うにしても、認可がおりるまで時間がかかる。なら、今使える人に使ってもらって……って考える人もいるわけじゃない? 未来がわかるなら、いい事ならその通りになればいいし、悪い事なら変えようって思えるし」

「……変えた場合、予知は外れる。その場合それは予知と言えるか?」

「いや私もそこまでわかんないけど。でも、イヤな未来を変えられるなら、変えようって思うんじゃない? 私だって明日馬車に轢かれて死にます、って知ったら流石にそれは回避しようと思うだろうし」


「新たな魔法を作るにしても、とんでもないものを作ったって事か」

「そうだよね。悪用しようと思えばできちゃうものだし、独り占めしようと思える力ではあるよね。だって、もし自分にとって邪魔な奴の未来とか予知してその通りになればいい場合は放置で、そうじゃなければ妨害できちゃうわけでしょ? 未来をある程度思うがままにできそう、っていえばできそうなんだよね。

 多分王子様もそれ考えたんだと思う。できれば王家の未来とかのために力使って欲しいなって思ったのもあるんじゃない? 他の貴族に利用されないように王子が男爵令嬢囲い込んじゃったみたいなのよね。

 で、男爵令嬢もそれを良しとしてたっぽい」


「まぁ、だろうな。それだけの魔法、そう簡単に認可は下りない。というか、使える者は確実に資格必須だろう。それこそ教会だとかそっち側にお誂え向きだな。試験問題もかなり難解になるだろうさ。使える人間を多くするのも問題がある」

 はっ、と鼻で嗤うようなグレンに、まぁ確かに皆が使えるようになって皆が未来を変えようとしたら色んなところで未来が交通渋滞おこしそうだなとは思う。そのままにしたい人と、変えたい人との行動で予知した未来が毎秒変化しそう。


 となると、その時点で使えるのはその魔法を生み出した男爵令嬢だけ。

 王家にとって不利な未来とか王家をどうにかしたい人がもし知ればその通りになるようにしただろうし、王家が知ればそれを回避しようとするだろう。


 男爵令嬢も、今現在自分しか使えない未来を知る魔法で王子と急接近したわけだし、もしかしたら玉の輿とか狙ってたかもしれない。実際に聞いた話だと王子と恋人みたいな感じだったらしいからね。学院の中で。


「それでね? その未来予知魔法で、男爵令嬢は近い将来自分が侯爵令嬢に傷つけられるって知ったらしいの。で、それを王子に伝えた」

「具体的な内容は?」

「さぁ? そこまではなんとも……噂だけど、侯爵家にとって不都合な事実を知られたかして、それを吹聴されないように口留めしようとしたとかどうとか。

 ともあれ、まだ起きてはいないけれどいずれはそうなる未来、そこで男爵令嬢が傷つけられれば王子としても困るわけだ。

 その頃には大分男爵令嬢にお熱だったらしいからね。好きな人が傷つくって知って、王子は侯爵令嬢が男爵令嬢に近づかないように警戒してたらしいよ」

 それでどうやら男爵令嬢が見たらしい未来は回避できたっぽいけれど……


「次に見た未来で、やっぱり別の方法で男爵令嬢を害そうとする侯爵令嬢が見えたらしくて。幸いちょっとした怪我で済むらしいものだったんだけど、それも王子に伝えたみたい。

 で、それを聞いて王子は今回もその未来を回避しようとして、ってのを何度か繰り返したみたい。その間に他の未来予知もしていて、自分たちにとって都合のいいやつはその通りになってたから、王子は常に男爵令嬢を身近に置くようになった」

「…………ふむ」


 ふと見ればグレンが食べてたパフェは半分ほどまでに減っていた。えっ、それでももう半分食べたの!? いつの間に!?

「ロクでもないな。まぁいい続けろ」

「あ、うん。で、それが何度も続いて……先日、学院の卒業パーティーが行われた日。先週ね。王子はその場で侯爵令嬢に婚約破棄を突き付けた」

「ほう?」

「そもそも王命での婚約だったけど、それでも王子はそれを理解していながら大勢の前で婚約破棄を突き付けた。理由は男爵令嬢を害そうとしたから。実際男爵令嬢は未来を見てそれらを回避していたから実際は何の被害にも遭ってないけど、それでもその未来を見た回数が多すぎる。それらすべてがその身に降りかかってたら無事じゃすまなんぐっ」

 いきなりクリームまみれの果物を口に突っ込まれ、何すんだと目で訴える。

 流石に吐き出すわけにもいかず咀嚼すれば、グレンが嫌いな果物だった。だからっていきなり人の口に突っ込むか?


「んっ、ともあれ、婚約破棄の内容は侯爵令嬢からしてみれば納得のいかないものだった。だって、男爵令嬢が未来で見たとはいえ、まだ侯爵令嬢何もしてなかったわけじゃない。全部回避されたとしても。だから流石にそれはないって反論したみたい。でも、王子は更に男爵令嬢の未来予知魔法で見た未来を突き付けた。

 婚約破棄を突き付けられた侯爵令嬢が大人しく従わず反論し、あまつさえその後男爵令嬢を殺す未来だったみたい。

 で、この時点で婚約破棄を宣言されて侯爵令嬢反論してるじゃない? 大人しく従ってないから、そうなると次に起きるのは男爵令嬢の殺害。それを回避するために、王子は自分の側近たちに侯爵令嬢を捕まえるように指示を出した。

 未来予知の魔法なんて便利な使い手、王家が手放すとも思えないわけでしょ? で、他のところに行かれるのも問題だからって事で侯爵令嬢と婚約破棄をして新たに男爵令嬢を妃に迎えるって言っちゃったみたいで。

 それ聞いて侯爵令嬢、暴れたみたい」

「ま、なんもしてないのに婚約破棄された挙句自分が人を殺すって言われて捕獲されたら暴れたくもなるな」

「侯爵令嬢が本当はそのつもりがなかった、って事? でも予知魔法で今まで命中してたんでしょ?」

「その時点で婚約破棄を大勢の前で告げなければ、そもそもそうならなかった、とも言える」

「それはそうだけどさぁ……あ、でそろそろ本題に突入するんだけどね?

 捕獲した侯爵令嬢をなんと王子、未来の妃を殺そうとした罪人と称して即座に処刑するって言っちゃったみたい。で、よりにもよって先週、そこの広場で処刑しちゃったのよ」

「そんな事があったのか」

「もっと世間に目をむけよ? ってか今でも結構なニュースになってるんだけど?」

「すまない。全く興味がなかった」

「知ってる。私はたまたまその日広場通りかかるところで目撃しちゃったけど、あの時の侯爵令嬢、わたくしは何もしていません、ってそう言ってたんだよね。でも、処刑する人があれ多分王子の側近かな、罪状読み上げて、王子の婚約者を殺そうとしたとかどうとかって言ってたから最初私彼女が侯爵令嬢だってすぐわからなかったんだよね。彼女が処刑された後で知り合いから聞いて、彼女が侯爵令嬢かってなったくらい」


 あの時点で男爵令嬢を新たな妃にするとか宣言してたとしてもまだ妃ではない。新たな婚約者扱いだ。王子の中では。だからこそ、罪状を読み上げる時に男爵令嬢の事を王子の婚約者と言った。事情を知らなかったから、最初私は侯爵令嬢の事を男爵令嬢だと思い込んだけど。後から知ってちょっとビックリしたんだよこれでも。


「で、本題なんだけどさ。

 侯爵令嬢が殺された後、王子の横にいた男爵令嬢も死んだんだけど、どうしてそうなったかわからないんだよね。だってその未来は回避されたはずじゃない? 男爵令嬢もいきなり血を吐いて死んだから、広場は騒然としちゃって。その後王子は国王様が派遣した騎士かな、多分そういうのに回収されてったからその後わかんないんだけど。でも噂じゃ廃嫡されるか塔に幽閉の後毒杯かって言われてるんだよね」


 ホント、先週のあの事件は衝撃的だった。

 だって公開処刑だよ? しかも直後に処刑じゃないけど血を吐いて倒れてその場で死んでる、ってなった令嬢がいるわけで。


 何が何だかわからないからこそ、私はあの後知り合いの学院で働いてる知り合いに話を聞いたのだ。

 でも知り合いも詳しく知らないから推測がいっぱい混じってたけど、それらの話を聞いて大体の流れが今グレンに話したやつだ。


 多分、推測が混じってるけどそこまで大きく間違ってない。

 でも、あの時広場で見た光景だけがわからない。だって侯爵令嬢が処刑されるまで、男爵令嬢は健康面に問題があるように見えなかった。なのに侯爵令嬢が死んだ途端に血を吐いたんだから。

 男爵令嬢が血が苦手、とかであったとしても、それなら顔を青くさせて気絶するとかならわかる。でも血を吐いてその場で死ぬって事は流石に理解ができない。

 偶然にしてもタイミングが良すぎるし、何かがあったはずだ。


 でも私が考えても全然わかるはずがない。実際どうだったか、はともかくこうしてグレンにこの話をしたのは、せめてそれっぽい感じのオチをつけて欲しかったからだ。


「……リゼ。お前の本題ってのはつまり、真相が知りたいとかそういうやつか?」

「え? うん。ホントかどうかはさておき、どうしてあんなことになっちゃったのか、にある程度の説得力が欲しい」


 嘘か本当かはどうでもいい。この際あの状況に説得力がついて自分が納得できればそれでよかった。


 だって、男爵令嬢の死因がわからなさすぎる。魔法の使い過ぎ? それならまだしもそうじゃなかったら。

 ああやって突然血を吐いて倒れる人が他に出ないとも限らない。

 こじつけだろうとなんだろうと、それっぽい理由があってそれに納得ができれば多少は落ち着ける気がする。

 だからこそこうして私はグレンにこの話をしたのだから。

 頼むぜ私の精神安定剤。


 そんなグレンはと言うと、底の方に残っていたクリームとアイスを適度に混ぜて口に運んでいる。えっ、もう食べ終わるんです……?

 想像以上に食べるペースがはやい。私だったらまだ半分あたりがやっとだぞ多分。


 なんて思ってるとグレンはスプーンを置いた。


「そうだな。できればその時その場に居合わせたかったが流石に無理なのでこれは全部推測になるのだが」

「うん……」

「それ予知魔法じゃないな」

「えっ!?」


 あまりにもあっさりと言われて私は驚いた。いやだって、驚く以外にどんな反応しろってさ。


「だって、聞いた話だけど男爵令嬢の予知魔法で実際にその通りになったりしてたって話だよ? 一度や二度じゃないし、偶然にしてはできすぎじゃない」

「その魔法を作ったのが男爵令嬢との事だが、恐らくその予知魔法と思われてるそれの認可は間違いなく下りない。どころか禁忌魔法として封印指定ものだな」

「え? え? 予知魔法じゃないの?」

「あぁ、恐らくは」

「グレンは、グレンの見解はじゃあ、何なの?」


「予知、と言われればそれっぽいかもしれんが、恐らくそれは実現とかそっち方面だな」

「実現……?」

「つまり、言った事が実際に起きる」

「未来を知る予知とは違うの……?」

「あぁ、恐らくだが男爵令嬢は別に未来が見えるわけじゃなかったはずだ。魔法を使って願望を実現させたに過ぎない。であれば、男爵令嬢の最期もわかる」


「え、えぇ~?」


 私にはさっぱりなのに? なんて顔をすればグレンはそこはかとなく慈愛に満ちた笑みを浮かべた。ははは物分かりの悪い奴め、みたいな顔とでも言おうか。


「まず魔法を使う時は詠唱するわけだが、その詠唱は魔法の効果を示す意味が含まれている。ここまではいいな?」

「うん、それはわかるよ。炎を出す時にそれを示す言葉が含まれるとかいうやつだよね。逆に氷を示すような言葉が含まれた状態で発動しようとしても魔法は発動できない」

「そういう事だ。だからこそ、新たに魔法を作り出すというのは発想力さえあれば可能。今ある魔法でも自分が覚えていない魔法を推測して詠唱して使う事は可能ではある。とはいえ、場合によってはそれ犯罪だから気軽に試すなよ?」

「うん。流石にやらないけど……」


 グレンの言い方からすると、確かにこういう魔法使いたいな~って思えばそれを意味する言葉さえ入れて詠唱できれば可能って事だよね。


「だからこそ新しい魔法を作るにしても、慎重さが必要になる。今存在している魔法の中で使うのに資格と免許が必要なやつを勝手に発動させると魔法の効果次第では犯罪になるわけだし。

 それに関しては魔法大全を参照すれば今存在を認められている魔法はどういうものがあるか、がわかるからヤバそうなのは避けるべきだな。新しく魔法を作ろうとする場合は」

「……うっかりで発動させて不味い魔法とかやっぱあるの?」

「そりゃあるに決まってる」


 あまりにもあっさり言われると、逆に何か怖いな。


「周囲に被害が出る程度ならかわいいが、最悪自分が死ぬ可能性もある」

「こっわ!」

「楽に死ねればマシだろうな」

「こわいよ!?」

「だから魔法の取り扱いは充分に注意しろって言われるし使うためにはどんなにしょぼく思われそうなものでも試験受けて使用して構わないっていう免許を取得するんだろうが」

「面倒だなって思ってたけど大事な事なのね!?」

「当たり前だろう」


 魔法一つ新しく覚えるのに毎回面倒極まりない試験受けるのがホントかったるいなーとか思ってたけど、これからはちょっと考え方を改めないといけないようだね!

 私はあまり危険そうなの覚える気がないから余計にそう思ってたってのもあるけど。


「で、多分その男爵令嬢は予知ではなく実際に言葉にしたものが現実になるとかそういう系統の魔法を作り出したんだと思う。なら、彼女が口にした言葉が実際に起きるのは当然だ」

「でも、悪い未来は? 回避しようとしてそうなってるんでしょ?」

「あぁ、多分それは回避しようとした事で実現するための条件が崩れたかして不発になったとかだろう。あとはそうだな、男爵令嬢の魔力の量にもよるが、実現できる範囲があったと考えるべきだ」

「実現できる範囲?」


「言葉にした事が本当の事になる、という魔法と考えれば、どれだけ凄いかわかるか?」

「それは、うん。何でも叶うんだよね?」

「そうだな。ちょっとしたことならともかく、例えば天気を急に変えたりだとかとなればどうだ?」

「天候魔法があるとはいえ、あれとんでもなく魔力使うって話だし何より試験がかなり難しいやつでしょ? 並大抵の相手が使えるはずが」

「あぁ。だからこそ、己の実力を越える願望はかなり魔力を消費するし場合によっては失敗するわけだ」


 男爵令嬢の言う予知の内容を全部知ってるわけじゃないけど、割と最近に起きるだろう身近な未来、のつもりで言うならそこまで大きな事件になりそうな案件とかじゃないはずだ。


「予知、という名目で使うんだからある程度現実的な内容だったのも予知だと信じられるようになった原因だろうな。流石に明日世界が滅びますとかだったら信じなかった可能性が高い。

 多分ちょっとしたいい事、を何度か小出しにして信用を得て、そこから自分が酷い目に遭うかもしれないっていうのは……絶対にそうなる、とでも言えばそうなっただろうけれど、恐らくは曖昧な言い回しをしたと思われる。

 侯爵令嬢に嫌がらせをされて怪我をするかもしれない未来が見えた、とかであれば侯爵令嬢との関わりを回避してしまえば怪我はしない。怪我をした、と断定した場合は侯爵令嬢と関わらないようにしても間接的に何らかの方法で怪我をする結果になったかもしれない」


「うん……うん。どっか違うの?」

「婚約破棄のあたりの話だな。そもそも侯爵令嬢に婚約破棄を告げなければ彼女は暴れる必要がなかった。何故と問う必要もなかった。大勢の前でやらかさなければその未来は回避できたわけだ。

 だが実際はそこで彼女が暴れた結果男爵令嬢を殺す、と予知したんだよな?」

「うん。……あ」

「婚約破棄そのものをするにしても、男爵令嬢がいる場でやるのではなく、もっと穏便に当事者同士でやればその場で侯爵令嬢が暴れる事もなかったし、その場に男爵令嬢がいないのであれば殺すというのは不可能だ」

「そういう……はいはい」


「だが、男爵令嬢は恐らくこの魔法の恐ろしさを理解できていなかった。多分自分にとって都合のいい未来になる魔法と認識していたのだろうからな」

「恐ろしさ……?」


「男爵令嬢を未来の妃として、その彼女を殺そうとしたから侯爵令嬢は処刑された。

 これ、逆に言えば侯爵令嬢は処刑されたからこそ男爵令嬢は殺される事になった、と言えなくもないんだ」

「なんで?」

「そもそも本当に侯爵令嬢に殺意があったと言えるか? 彼女は別に実際男爵令嬢に嫌がらせをしたわけではないし、ましてや婚約破棄なんてされなければ理不尽さに声を上げる必要もなかった。

 更に侯爵令嬢が殺される原因になった罪状は、本当に彼女がそれを実行しようとしていたかどうかも疑わしい。受ける必要のない罰を受けた。

 あー……そうだな、例えばここの会計。注文して、食べ終わって帰る時に支払うよな?

 けど別の店だと先に支払ってそれから商品を受け取る店もある。つまりな?

 本来ああいった処刑をされるのは、実際に相手を殺した場合だ。殺した事への罰として処刑となる。

 だが侯爵令嬢は殺していなかった。罪に対しての罰ではなく、罰を先に与えられたからこその罪だ」


「えっと……つまり?」

「逆説的に、侯爵令嬢が殺された事でやってもいない王族殺しを実行してしまった、という風に魔法が捻じ曲がった、が正しい」

「って事は、侯爵令嬢が処刑されてなければ」

「男爵令嬢は死ななかった。殺そうとした、とかじゃなく殺した、って言い方も不味かったと思う」

「ん、あ、あぁ~、そういう事か」


 途中ちょっとわかりにくいなとか思ってたけど一応理解はできた。


 確かにそれなら侯爵令嬢が死んだ直後に男爵令嬢が死んだのも納得がいく……ような気がする。


 予知魔法が本当にただの予知ならともかく、実は口に出した事が本当になる、あるいはそういう出来事が起きる、って事だもんね。

 今までは嫌がらせをされて傷つく事になる、って言い方だったからそれを回避すれば問題なかったけど、婚約破棄された後でその事実に対して反論し、更に男爵令嬢を殺す――と言いきっちゃったのが問題だったと。


 婚約破棄されるだけの何かをやらかしてたなら侯爵令嬢だって大人しく受け入れた可能性はある。でも、実際は何もしてなかったのに、やってもいない罪での婚約破棄、それも大勢の人がいる前でだ。

 そりゃ反論するよ。どういう事かは最低限ハッキリさせておかないと、侯爵家の評判とか致命的な事になりそうだし。でも、反論したからその後は男爵令嬢を殺す流れができてしまっていたわけだ。男爵令嬢の魔法のせいで。


 で、その未来を回避するために、侯爵令嬢は動きを封じられて――邪魔者を消す意味もあっての処刑だったんだろうなぁ。だって実際何もしてないんだから、王様が口を挟める隙があったらそんな事にはなっていないはずだもの。

 っていうか、処刑するにしたってその日のうちにとかスピード処刑すぎるもの。実際は死刑にするにしても数日はかかるはず。


 でもそうしなかったら実際は侯爵令嬢何もしてないんだから、処刑はされるはずがなくて。

 侯爵家か、王様がどうにかしたとして。

 そうなると男爵令嬢が今度は危険な事になるはずだった。

 この場合諸悪の根源と言えなくもないわけだし。


 予知魔法を作り出した本人だから王家は手放さない。でも危険な立ち位置になってるよね、これ。

 じゃあその魔法の詠唱とかだけ吐かせて男爵令嬢が処刑されてたんじゃないかな。

 予知魔法が本当に予知だったら王家所有の専用魔法にでもしておけばいいわけだし。

 でも実際予知じゃなくて、口に出した事が本当になる魔法。

 それもそれで王家が独占しそうだけど、でもこれ使い方ミスったら危険なのは私にもわかる。


 下手な事言ってそれが実現したらマズイなんてもんじゃないもんね。


 実際それで男爵令嬢が自滅したわけだし。

 侯爵令嬢を処刑しないで生涯幽閉とかだったら男爵令嬢も死ななかったかもしれないけど、どのみち侯爵令嬢が無実である以上はいずれ解放される。そうなればどのみち男爵令嬢の人生はお先真っ暗になるよねこれ。

 魔法でどうにかするにしても、奇跡的な逆転をするには一体どれだけの魔力が消費されるのか……自分のとはいえ命一つ救うとなればそれこそ奇跡を起こすのに等しいんだから、最悪男爵令嬢の魔力根こそぎ持ってかれてそれでも足りなくて生命力が搾り取られる可能性もあるよね……



 えっ、こわ。


 私も近々何か新しい魔法とか作り出せないかなって色々試そうと思ってたけど、万が一こんなヤバいの作りだしちゃったらって考えると正直自分の手に負えない。

 私はご先祖に魔女がいたってだけの魔力が多めの人間で、凄い魔法が沢山使えるってわけじゃないし。


 魔法に関して凄いのはグレンなんだよなぁ、って思ってちらっとそっちに視線を向ければ。


「え」

「なんだ?」

「いやあの、なん、え、何それ」

「何って追加注文したパフェだが」


 一体いつの間に……と言いたくなったが目の前にはさっきとは別のメガ盛りパフェが置かれていた。

 え、いつ注文したの。そしていつきたの。

 私が悶々と考え込んでた時? 全然気づかなかったわ。


「まぁほら、リゼ、お前の頭であれこれ考えてもどうせ何も変わらないんだし、細かい事は気にするな」

「さりげに人の事馬鹿にするのどうかと思う」

「ほら、お前の好きなチョコタルト載ってるしこれやるから」

「あっ、それは嬉しい。いただきまーす♪」


 ちなみに。

 この時パフェの上にドーンと載ってたチョコタルトをもらってご満悦な私は予想もなんもしてなかったのだけれど。


 このグレンの推測を近くの席に座ってた人たちも聞いてたらしく、その噂はさらっと広まって男爵令嬢の死についてそれっぽい説得力があったらしく。

 後日、この男爵令嬢が扱っていた予知魔法と呼ばれていたものは禁忌魔法扱いになり、この魔法を自己流で開発する事は法律で禁止された。幸い、といっていいかは謎だけど男爵令嬢も大っぴらに詠唱してたわけじゃないみたいで、同じ学院にいた貴族の人たちもその魔法の詠唱全部知ってるわけじゃなかったみたいよ。

 もし知られてたらそれこそ秘匿魔法に指定されてる記憶消去の魔法とかで記憶消されてたんじゃないかな。


 魔法の開発についても後日ちょっと法が改正されてしまう事を、この時点での私は全く想像すらしていなかったのである。


 ちなみにグレンは予想してたらしい。後日本当に法改正されて魔法開発する場合事前に届けが必要になるだとか、また資格をとらなきゃいけなくなるだとか色々面倒な事が増えて思わず愚痴った私に、グレンはいやそうなるだろってあっさり言い放ちやがりました。


 こいつ魔法に関しての知識はえげつないからこういう感じで変更になって必要資格が増えてもあっさり取得するから、この手の問題は基本的に他人事だっていうのすっかり忘れてたわ……



 なお、本当に不本意だけど。

 似たような感じの出来事がこの後また起こって今度は一体何事なのグレンさーん、と私が彼を呼び出してそれっぽい話を聞く事になるのは、何とびっくり二週間後の事である。


 私今年厄年だったっけ……?

 お祓い行くべきかしら。

 ちなみに二週間後、グレンの話を聞き終えて私がそうのたまえば、彼は無駄だと思うとあっさり鼻で嗤ったのである。

 ちくしょう!

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[気になる点] 2週間後の事件と、その後の二人の関係性。 [一言] なるほど! (読んだ感想なので、返信不要です^^)
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