6.光を集めて
「ふぅ……」
背中から深いため息が聞こえる。
「ロイ、どうしてさっきは何も話さなかったの? 直前まで普通に話してたのに」
「いやぁ、それがさ、前に一度しゃべりすぎちゃってハントームを怒らせたことがあるんだ、「黙らんか!」ってね、ほら、大地が大きく揺れたことがあったでしょ、あの時に小さい奴らがみんな怖がってたから笑わしてあげようと思ったんだけど、ハントームは早く安全なところに避難させたかったみたいで邪魔するなって、あれで怒ると怖いんだよ」
「それは……ロイが悪いんじゃないかな……」
ロイとハントームの関係を聞きながら苦笑する。
さて、ここからは自分だけの景色を作るためにまた走り回らなくては。夜はもうそこまで迫っている。月が上に来る頃を目指して、きびきび動かなくては。
「これから夜に光るものを集めに行こうと思うんだ。ロイはどうする?」
「こうして背中に乗せていてくれるなら手伝うよ、と言ってもどこで何が取れるか指示出すくらいしか役に立たないと思うけどね、オイラって動くの遅いから収穫自体は期待しない方がいいけど、フォクス的にはどう?」
「うん、山のことは分かるけど森のことは全く分からないから、それだけで随分助かるよ」
どんなものを集めたらいいだろう? できれば月明かりだけでも強く光るようなものがいい。
さっきクジャクが落としていった飾り羽は回収してロイに持ってもらっている。ハントームが譲ってくれた小鳥たちお手製の草籠は、入れられるものが見つかるまで頼もしき相棒の帽子代わりになるらしい。
「オイラが知っている中じゃ夜光石が一番綺麗で沢山採れるよ、今日は良い天気だったからたっぷり陽を浴びてしっかり光ると思う、ほかにはそうだな、森でも一部しか知らない千切ると発光するサボテンの場所も知ってるよ、あれはものによって色んな色に光るからおすすめだよ」
「へえ、いいね!」
ロイはただのおしゃべりなスローロリスではない。親切で物知りでおしゃべりなスローロリスだ。
何だかもっと楽しくなってきて、跳ねるように走り始めた。後ろで名案とばかりに声が上がる。
「あとヒカリゴケはどう?」
「……コケは、どうかな? あれは遠くから見る方が綺麗な気が…」
**********
道中、ヒカリゴケをどうしても推すロイを宥めながら、いくつもの目的地へ向けあっちこっちと森を進んでいった。
夜光石というのは太陽の光を溜めて夜に光る石のこと。昼間は何てことない普通の石に見えるけど、暗い草陰で見るとぼんやりと黄色っぽく光って面白い。山でもたまに見かけるけど、森の中は意外と拓けた場所が多くてよく太陽が当たるみたい。ここまで光るのは初めて見た。
初耳だった光るサボテンは、中央の長細いのが親で、その周りに出ている丸いのが子ども、その先についているのが孫だと言う。ロイに言われるがまま小さいのを摘み取って小石で半分に切ってみると、赤やオレンジ、紫など断面が不思議な色に光り始めた。傷付く度に次が生えてくるらしいから、次来た時には何個も新しい芽が出ているだろう。
雨の翌日だけ光る野バラに、葉脈が輝く木の葉と、ヒナが孵化したばかりの時だけ青く煌めく鳥の卵の殻。
ほかにも行く先々で情報を仕入れて、見つけた綺麗なものをどんどん草籠に入れた。今ではもう飛び跳ねるとこぼれ落ちそうなくらい集まっている。
「あとは山でも少し見つかるかな。前に小さな洞窟で光る石をいっぱい見つけたから」
山に入ってみたいと言っていたから当然一緒に来るだろうと思って伝えてみたけれど、ロイの思いは違ったらしい。
「それなら今日はここでお別れだ、お別れって言ってもオイラとフォクスはもう友達だから、サヨナラじゃなくてまたねだけど、え、大丈夫だよね、オイラたち友達ってことで大丈夫だよね、それとも友達になるには時間が必要派?」
「もちろん友達だよ。でも、どうして……?」
「だってこれから君は山に戻って石を拾って、それからお家に帰って流れ星計画を実行するんでしょ? そこにオイラがいるのは変だよ、結果を教えてほしいとは思うけどね、オイラは空気を読まずにしゃべりすぎることはあるけど、いちゃいけない場所に身を置くなんて無粋なことはしないんだ、これはじいちゃんの教えだから」
本当はロイがいてくれたら心強かったけど、そうまで言われると仕方がない。
友達だと思ってくれていることが嬉しくて、でも突然やって来た別れが寂しくて、目をしばたかせた。
ゆっくりと、気を付けていないと分からないくらいそっと、体にしがみ付く手に力がこもる。
「それじゃあ今度じっくり案内してよ、君のうさぎの家族にも会ってみたいな、あと山での食事にも興味があるんだ、君がトカゲと友達じゃないといいけど」
「分かった! 約束だよ、絶対だよ!」
ここでいいと言うロイが心地良さそうな木の上に居場所を確保したのを確認して、森を抜ける。
山へと続く一本道の真ん中で立ち止まり、そこにでんと立つ森を振り返る。
恐ろしい場所だと思っていた。だけど友達ができた。無茶な考えを馬鹿にせず、助けて導いてくれた動物がいる。
咥えた草籠の重みは、もらった大切なものの重み。心までずっしりと、柔らかな重みで満ちている。
さあ、最後のひと仕事だ。
夜はもうそこまで迫っている。
当然ですが本当に光るのは夜光石(蓄光石)だけです。
どこかの国では植物を光らせる研究が進んでいるらしいですが。