3.初めての出会い
「なんで……なんで誰も知らないんだ……」
結論から言えば、誰も流れ星がどうやって起きるかを知らなかった。次にいつ見られるのかも。
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ゴタじいさんの話は長かった。イーツが食べる昼ごはんくらいかかったと思う。ゆっくりすぎて半分くらいは聞き取れなかったけど、ゴタじいさんが流れ星を見たのは全部で3回くらいらしい。最近は一日の半分以上を寝て過ごしているみたいだから仕方ないと思って、いつの間にか今日の晩ごはんの話を始めていたところで別れを告げた。
一番物知りなゴタじいさんが知らないなら、流れ星が見られる夜に起きている動物だったら知っているだろうと走り回った。
アライグマの親子もイノシシの双子もシカの群れにも聞いてみたけど、みんな知らないって答えた。ほとんどが流れ星自体を見たことがないんだって。
そうして今、森の入口でどうするべきか悩んでいる。
山から出るのは怖かったけど、後ろ足を叩いてここまで来た。ラビーの話を何度も聞いて森だって怖くないんだと思ったから。きっと助けてくれるって信じられたから。
「怖くない、怖くなんかない、大丈夫、大丈夫」
「何してんの?」
「ギャッ!!」
思わず叫んでから声のした方へ振り返ると、木の枝に巻き付いているスローロリスがこちらに大きな目を向けていた。小さな手をそろりと伸ばして枝先を捕まえ、ゆったりと時間をかけて移動していたけれど、そんな動きとは正反対に違うところから声がしているのかと勘違いするほど早口だ。
「君キツネだよね、オイラ見るの初めてだな、あぁオイラはロイって言うんだ、見ての通りスローロリスだよ、君はこんなところで何してんの、もう陽は山の向こうに落ちそうだよ、近頃やっと涼しくなってきたよね、オイラは家族の中で一番動きが遅いんだ、だからまだ明るい内から動き出すんだけど陽が出てると暑くて暑くて、もっと動きにくくなっちゃうよ、舌はこんなに回るけどね、へへへへへ、ところで結局ここで何してんの?」
ここまで話続けて疲れないのだろうか。その間、体はと言うと右手で右のまぶたを一回掻いて、それを下ろしかけているところだ。唇だってよく見ないと動いているかも分からない。ほかは凍り付いているみたいに動かなくて、木の葉が風に揺れているのが不思議なくらいだった。
そこでようやく自分が質問されていることに気が付いて、慌てて答える。
「あ、えと、あの……流れ星のことを知らないかみんなに聞いてて……山のみんなは知らないって言うから、もしかしたら森の誰かが知ってるんじゃないかと思って、それで……」
スローロリスのロイはゆっくり俯き始めた。
「ふーん、流れ星か、空をシュッて飛ぶ光のことだよね、オイラの父ちゃんは一回だけ見たことがあるって言ってたな、でもほんの一瞬だったみたいだから見間違えかもしれないけどね、森の連中なら結構見たことある奴いると思うよ、でもオイラみたいに小さくて物陰に隠れちゃうような奴に聞くよりもでっかい奴に聞く方が確実かな、オオカミとかライオンとか」
俯いたわけではなく、頷いていたらしい。今やっと顔が二回振り終わり目が合った。ぎょろりとしたこぼれそうな目が少し怖い。
「オオカミ……ライオン……」
「あ、もしかしてあいつらが怖くて森に入るかどうか悩んでた感じ? そうか、そうか、仕方ないよね、見たところ君まだ成獣ではなさそうだし、山の連中って怖がって全然森に来ないもんね、オイラは時間がかかりすぎるから山にはいかないけど入ってみたい気持ちはあるよ、怖がらずに来てみたらいいのに」
「怖くないの? ロイはもう大人なの?」
「大人って人間みたいな言い方だね、オイラもまだ子どもだよ、でも大きい体の奴は割と優しいんだ、頼んだら行きたいところまで運んでくれるし、まあ口に咥えられると歯が刺さってちょっと痛いけど頑張って加減してくれるから大したことないよ、もし心配なら一緒に行こうか?」
「本当? いいの!」
「その代わりオイラのこと背中に乗せてね」
その後、ロイはたっぷり時間をかけて俺の背中に乗り、しがみ付いた。初めての感覚、野菜とも水とも違う温かい重みに何だかほっとする。
「よし、おまたせ、それじゃあ行こう、あんまり夜遅くなると本当にやばい奴も出てくるから、とりあえず知ってそうな奴のところだけ行ってみよう」
「分かった」
「じゃあここを真っ直ぐね、オイラがストップって言うまで走って、GO!」
「うん!」
「うわあああ、はやーいいい、いっかいたいけんしてみたかったんだよねえええ」
こうして初めての森の探検が始まった。