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2.俺にできること

 その夜、じっくり考えた。時々思い出したように小さく呻く声とかすかな寝言に挟まれて。


 俺は中途半端だ。リエーヴ、レブラ、イーツほど子どもではないけれど、ラビーやコニーロのように誰かのために働いたり自分だけで暮らしたりできるほど大人じゃない。キツネが大人と言われる頃まではまだ一月もある。たったそれだけで、俺は大人になれるのだろうかとも思う。


 早く大人になりたい。大人になってラビーとコニーロを助けられる存在になりたい。

 まだ子どもでいたい。この家族との時間を、この温かさを失いたくない。


 どちらも本心だ。だからどうしていいか分からなくなる。

 でも、分からないけれど、今の俺なりにできることだってあるって、そう思う。これはたぶん、願いだ。


 じゃあ、何ができる?

 傷をキレイにするための水……は川から汲んで来たし、毎日するつもりだ。だからそれ以外で。

 食料は、この前ラビーのお父さんやりすのリリからもらった野菜が山積みにされている。隅で干してあるのは俺が捕まえたキジだ。みんなは食べないけど、初めての狩りの成功を呆れるくらい喜んでくれた。

 子どもたちの世話は、俺じゃただ一緒に遊んで楽しむだけになる。それにコニーロがいるから問題ない。


 考えると、俺ができることは誰でもできることで、みんながもうやっていることだった。

 俺が、俺だけがラビーのためにやってあげられることは何もないの?


 ふと頭上の穴を見上げる。木登りをしている時に足で突き破った穴だ。元々弱くなっていたところだったから危ないという話になったけれど、ラビーの一言で穴は塞がれずそのまま残されることになった。

 今はそこに、星が見える。小さいのも大きいのも、白い光が眩しいくらいに輝いていた。


 ラビーは月が好きだ。何でも、小さい頃の思い出が心に残っているらしい。


 ――森に迷いこんじゃってね? 優しいライオンさんのたてがみの中に乗せられて山へ返してもらう途中、半分の月が出ていたの。その時はまだ満月しか見たことなくて、月が半分しかないのが不思議で不思議で。

 ――そうしているうちに雪が降ってきたわ。わたしの生涯初めての雪。彼はきっと困っていたのね、私が初めて尽くしに戸惑っていたから。雪を「月のカケラ」だって言って、だから月が半分なんだって話してくれたの。わたしったらはしゃいじゃって。後になってお母さんに本当のことを教えてもらったけど、あんなに優しい嘘をほかには知らないな。

 ――だから月も雪も大好き。ライオンさんもね。あ、でも嘘はだめよ?ついていい嘘は誰かのためになる優しい嘘だけだからね。


 あの時の話が蘇る。嬉しそうな声、幸せそうな笑顔。それが本当に大切な思い出だと、小さかった俺にもよく分かった。


 好きなものをあげられたらいい。

 だけど月は毎晩勝手に出ているし、雪が降るには暑すぎる。

 ほかに何か、好きなものがなかっただろうか。欲しがっていたもの、見たがっていたもの。


「あ、流れ星!」


 思わず声が出て、急いで口を押える。大丈夫、誰も起きていない。良かった。

 そうだ、流れ星。星を見ていて思い出した。「一生に一度は見てみたい」と言っていた流れ星。


 少し前、もぐらのトッポンが語っていた話だ。

 うっかり穴から顔を出したまま寝ていた――どうしてそんなことになったのかは分からない――夜のこと、眩しさで目が覚めたのだという。もぐらはほとんど何も見えていないみたいだけれど、代わりに光を感じるのは得意だと言っていた、それで余計に目を覚ますことになったのだろう。

 目を開くと、たくさんの光が空を飛んでいて驚いた、あれは特別な虫だろうかと可笑しそうに話していたんだ。

 するとそこに山の物知りご長寿やぎのゴタじいさんが通りかかって、それは流れ星というもので、空で何かと何かがぶつかって光っていると教えてくれた。たくさん見たなら、人間はそれを流星群と呼ぶんだとも。ゴタじいさんの話はゆっくりで思わず眠たくなるけど、本当のことしか言わないから信じられる。


 その時、ラビーは言ったんだ。「そんな素敵な景色、一生に一度は見てみたいわね」って。


 流れ星だ。流れ星を見せてあげよう。とっても特別な景色を見せてあげるんだ。

流れ星は、猛スピードで流れる大気中の塵が原子や分子とぶつかってプラズマという状態になることで発光現象を起こしているそうです。

それをぼかして書いているのは、ゴタじいの話のスピードが遅すぎたのと、フォクスがよく理解できていないためです。

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