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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アシッドアタックにより皇子に婚約破棄されるが、醜い私を救ってくれたのは幼馴染でした。

作者: Maruru


 熱い、痛い、私に感じられるのはその2つだけであった。


「早く病院に運べ!」


 そう叫ぶのは私の婚約者、そしてその言葉を最後に私の意識は遠のいていった。


「悪いが彼女との婚約は破棄させてもらう」


 私が次に意識を取り戻した時の言葉がこれであった。


 元婚約者からの非情な宣言とそれに頭を悩ます父の姿が片目からでも見える。


「私は彼女がこの国で1、2を争う容姿の持ち主だから婚約を結んだ、だが今の彼女は余りにも醜い、こんな女が未来の王妃にもなってみろ笑い種にもほどがある」


 なんてひどい、そう思ったけど事実、私が持っているものといえば母がくれた美貌だけであろう。


 だから浮気相手の妻の娘である私が今まで生かされてきたのだから。


 本当は疎まれる立場、実際に厄介がられていたがこの美貌でこういう皇子といった立場の人間と婚約できる可能性があるからこそ、家に置かれていたのだ。


 だけど今となっては私の美貌は失われ、顔は老婆みたいにくしゃくしゃになってしまったのだ。


「ではこれで失礼する」


 そして皇子は私に一言も声をかけずに病室から出ていったのであった。


 それから私は家に帰れるようになったが、顔の包帯を取ることは禁じられて、片目も戻ってはこなかった。


 あの日、何があったのか、


 それは私が王城に向かう途中であった。


 王城の前、突然と花売りの女性が近づいてきて、その綺麗な花に目を取られた瞬間であった。


 女性は懐から何かしらの液体が入った瓶を取り出して、中身を私の顔にかけた、その瞬間、私は突然の熱を感じて、顔が燃えるように痛くなり、そのまま気を失ったのだ。



 気づいたときに分かったことは、私は顔に傷を負い、片目も失明してしまったということだ。


「まったく気味が悪いわね」


 それは姉の言葉であった。


 私と姉は仲が悪い、姉とは血がつながっておらず彼女は正妻の娘だ。


 勿論、母とも私は仲が悪く、こんな顔では父も助けてはくれないであろう、


 そんな私の状況、家の中に居場所がなくなるのは直ぐであった。



「あーあ、こんな気味が悪い女、どうしようかね」


 私は奴隷商に売られた。


 二束三文の金で売られ、今では奴隷商からも疎まれる存在であった。


 そうだ、私なんて存在しているだけで迷惑な女なんだ。


「おい、今日はいい商品はあるか?」


「お、旦那、ありますぜほらこの女、若くてなかなかスタイルも……」


「で、なんで顔を隠しているんだ?」


「へへ、それがちょっと問題がありまして……安くしておきますぜ」


 そういって私は被されていたフードをとらされるが、別にその男は私の顔を見て特段と驚く様子はなかった、というより見慣れているといった様子だ。


「火傷の後か? まあ、顔は致命的だが、顔が見えなくてもいい奴は沢山いる、使い捨てになりそうだがまあいいか」


 買われる、そして私の末路はひどいもの、だけどそれでもよかった、こんな私にまだ使い道があるなら……


「ちょっと待てえええええ!」


 取引が成立する、そんな時だその取引に待ったをかける声が響く。


「その女性、私が買う!」


「あ? なんだてめえ」


「おい、店主、金ならある」


 そう言って男は金貨袋を店主に突き出す、その量は一目でわかるが奴隷の相場より上の価格であった。


「お、すまねえが旦那」


「ちっ、まあいいそんなブスなんて」


「貴様、彼女をブスだと!」


 その男が言う通りなのになぜか私を買った男は真剣に怒っていた。


「おいおい、喧嘩ならよそでやってくれ!」


「ふん、まあいい、命拾いをしたな」


 そういって男は去っていった。


「ふう、じゃあいこうか、アイリス」


「えっ」


 それは紛れもない私の名前、この人は私を知っているのだろうか、だけど私には彼が誰なのか分からなかった。


「君が皇子と婚約したとき私は諦めたよ、なにせ相手は皇子、その婚約者を奪うなどと言語道断、それに君は幸せだと思った、だから身を引こうとしたのだが、そんな時に耳に入ったのが婚約破棄の知らせ、もうこれはチャンスでしかないと私は馬を走らせたんだ!」


「あ、あの……」


「だけど王都についてみれば君は病院だと言う、私はあわてて花を買い病院に向かえば君はもう退院したと言う、次は手土産を買い君の家に向かえば君は売られたと言う、ああ、こんな非情な事があるのだろうか、勿論、手土産の王都で人気の店、その1日5つ限定のケーキは意地が悪そうな君の姉に投げつけたさ!」


 どうやらこの男の人は私に会うために必死になっていたらしい、それは嬉しいことだけど肝心な事を聞けないでいる。


「貴方は誰ですか?」


「なんと!? 忘れたのかい!? 私はユーリ・スウェルだよ!」


 ユーリ・スウェル、それは確かに私の昔の記憶に存在する男の子であった。


 それは7歳くらいであろうか、当時は母と共に田舎の地方で暮らしていた。


 どうやら母は私を宿した後、父の不貞がバレたことにより当時の当主である私のおじいちゃんにあたる存在から理不尽にも母が引き離されて、故郷に帰ってきたらしい。


 まあ、勿論、当時はそんなことも知らなかったのだが、とにかかくもその故郷の地を治めていた領主の息子がユーリであった。


「やあ、姫、今日も元気かい」


「ユーリ! 私を姫って呼ばないで!」


「いいや、呼ぶさ、君の美しさはかの、キュリヴィア王妃も上回っている」


 7歳からこれだ、ユーリはキザなやつであり、いい人でもあった。


 だから、当時、他の女の子から疎まれていじめられていた私の前に立ち、


「君たち! よってたかって恥ずかしくないのかね!」


 ユーリは立ちふさがっていたのだが、


「ほう、誰の妹が恥ずかしいって?」


「あ、いや、そのだな……」


「領主様の息子だからって調子にのってるなお前」


 出てきたのはいじめていた妹たちの兄、私達よりも5つは年上であろう、ユーリに勝ち目はなかった。


「ぐっ、がはっ……」


「ふん、悔しかったらお前の父にいいつけてみるんだな」


 ユーリはぼこぼこにされ地面に倒れこんでいた。


「ふっ、僕の父は子供の喧嘩に関わるほど暇ではないさ」


 だけど立ち上がった、顔面は腫れあがり、身体中はあざだらけ、それでも立ち上がったのだ。


「もう一発食らわねえと分からねえみたいだな!」


「ぐっ!」


 ユーリの顔をめがけてパンチは放たれる。


 その拳をユーリはまともに受けるが倒れることはせずにそのままタックルをして馬乗りになるような形になる。


「彼女たちに謝らせろ!」


「ちっ、てめえ、ぐっ、なにをだよ!」


「アイリスを侮辱したことだ!」


「てめえには関係ないだろ!」


「関係ある! なぜなら私は姫の騎士だからだ!」


「何を意味が分からないことをいってやがる!」


 ユーリは宙を舞う、投げ飛ばされたのだ。


 そしてそのまま、とどめの一撃とばかりに踏みつけようとするが、


「ユーリから離れろ!」


 私はその足の脛を木の棒で思いっきり殴るのであった。


「いってええええ!」


「いい加減にして! これ以上傷つけると言うのなら……」


「わ、分かったって!」


 そう言いながら、男と取り巻きの女たちはその場から去っていった。


「いつもやられっぱなしなのに強いじゃないかアイリス」


「だ、だってユーリがやられてたんだもん!」


「……君は人のために戦うのか、やはり美しいな」


「何を言ってるの! 待ってて、今、人を呼んでくるから!」


 そういって私は人を呼びにいった。




「10歳になったころか、君の母上が病に倒れ、そして君は父の元に引き取られて王都に住むようになり離れ離れになったのは」


「……そうね」


 そっか、ユーリはあの時から私を追いかけてきてくれたのか、だけど……


「あのね、ユーリ、もう美しい私はいないんだよ」


 そういって私はフードを取る。


 そこにあるのは老婆のようなしわくちゃの顔、そして抉れ溶けた片目、白くなった髪の毛、とてもじゃないが人に見せられるものであった。


「何を言っている、君は美しいままさ」


 臆せずもそういうユーリ、だけどその態度が私を一層と哀れなものとすることも知らずに、


「ちゃんと見て! こんなの、こんなの……人の姿じゃないわよ!」


「……アイリス」


「いっそ、いっそのこと私なんていなくなれば……」


「それ以上の言葉は僕だって本気で怒るよ」


 その声は幼い頃一度も聞いたことがない声、ユーリの私に向けられた初めての怒り、それに対して私はそっから先の言葉が続かなかった。


「どうやら君は私の事は舐めてる節があるね、はっきり言って君のその顔、そんなことぐらいで私の愛は揺るがない!」


「あ、愛!?」


「そうとも! ……あ、もしかして私は今、告白をしてしまったのか!?」


 それに私は恥ずかしくなりながらも首をコクンと縦に振る。


「むむむ、まあいい好きなものは好きだ、とにかくも私は君のことを愛しており、君に対する侮辱は許さない! それが例え君自身の言葉でもだ」


「だ、だけど……」


「君をそんな顔にしたのは君か? 否、生まれてきたのは罪か? 否、悪いのは君ではない!」


その大げさな言葉と仕草、普通ならば恥ずかしいものだが、今はその肯定が私の心にしみた。


「さ、帰ろう、私達の故郷に」


 私はその言葉に頷いて、彼が待たしていた馬車に乗り込んだのであった。




「……ん」


 私は目を覚ますとそこはふかふかのベッドの上であった。


 天蓋付きの豪華なベッドであり、どこの姫様かって感じね。


 どうやら、馬車の中で眠ってしまったようだけど、ここはどこだろうか。


 とりあえず、このフード付きのボロ布を羽織って、外に出てみようか。


「や、やあ、ちゃんと寝れたかい?」


 答えは直ぐにわかった。


 ここはユーリの実家であり、私の故郷である。


「えっと、何をしているの?」


「起きたからここを通りかかったら偶然君が起きてきてね、決して、ドアの前で待ってたわけではないぞ!」


 なるほど、待っていたのね。


「ふふ、お陰様で、風に当たられない睡眠は5年ぶりくらいよ」


「そうか! ……って、君は一応にも貴族の娘だろ?」


「あの家じゃ、元々物置の部屋を改造しただけで隙間風があったもの」


「なんと! おのれ、実の娘をこの扱いとは! あの姉だけではなくて父にもケーキを投げつけるべきであったな!」


「でも意外と何とかなるものよ、こう木箱のふたを自分の周りに置けば」


「そういうことではないんだ、アイリス」


 どうやら私の豆知識は余りためにはならなかったらしい。



 それから私は朝食の場に呼ばれて、ユーリと一緒に向かうことになったが、そこには当然と言うべきかユーリの父が待っており、私はとっさに顔を下に向けて、フードで隠すようにする。


「ふむ、アイリスよ、どうかその顔をあげてそのフードを取ってくれないか? 嫌ならば無理にとも言わんが」


 確かにこうして家に滞在させて貰ってるのに、この態度では不敬にあたるわね。


「……ふむ、どれほど顔が崩れようとも君の母の面影はあるな」


 え、私の母は、ユーリの父と面識があるの?


「どういうことですか父上?」


「実はな、私の初恋の相手はアイリスの母であり、そして家の事情でなかなか手を出せないでいたら、どこぞの男にかっさらわれてしまったというわけだ」


「なんというなさけない話ですか父上!」


「ええい、お前も一度は何もせずに逃げ帰ってきたではないか、折角、王都の学園に受かり迎えに行くといったのに!」


「そ、それには事情が……」


 王都の学園、それは唯一のものであり、私が所属していたところだ。


「え、ユーリも学園に受かっていたの?」


「う、うむ、まあね」




「よし、これでようやく迎えにいけるというものだ」


 ユーリは学園の試験に受かり、ウキウキの気分で王都を目指していた。


 そして、入学式の場でユーリはアイリスの姿をとらえた。


「よ、よし!」


「緊張しているのですかケイン皇子?」


 そこに居たのはアイリスと見知らぬ男、だが周りの女とアイリスが皇子と呼んでいるのを聞いて、それが誰なのかはっきりした。


「な、なれないが僕は皇子だ! こんな場はこれからいくらでも来る! 今回の挨拶など余裕でこなしてみせるさ」


「ふふ、その調子ですよ皇子」


 笑顔で皇子の隣にいるアイリスの姿、その姿を見たユーリはどうしようもない気持ちになった。


「失礼、そこの君、彼女は皇子とどんな関係で」


「え? 婚約者よ、まあ正直、見てくれだけよくて選ばれたんだから腹が立つよね、あの余裕そうな顔も……ってあれ?」


 そこにユーリの姿はもうなかった。


「君が幸せならば私は身を引こう、だけど我慢は出来そうにないな」


 こうしてユーリは入学を取りやめて、実家に帰ったのであった。




「ま、まあというわけでな、あんまり笑わないでくれ」


「笑うなんてそんな……」


 そっか、ユーリはあの場に居たんだ。


 でもあの時の笑顔は私が何とか皇子に気に入られようと、それが家系のためになるからと必死で心の底から笑ったものではない。


「ははは、いや笑っていいぞ!」


「何を父上! そもそもが貴方がアイリスの母を射止めていればこうはならなっかたのではないのですか!」


「はは、なら貴様は生まれていないわ」


「……ぐっ」


 買い言葉に売り言葉、その父と息子のやり取りに私は羨ましくなりながら、気づいたら自然に笑顔になっていた。



「ま、ともかくもこれからはどうするのかね?」


 朝食が終わり、自然とこれからどうするかとそんな話になっていた。


「とにかく私はアイリスと婚約しよう」


「こんな私でいいの?」


「勿論! というかお願いします!」


 もう私はその言葉にいいえというつもりはなく、コクンと首をふり肯定の意思を示す。


「その後は駆け落ちかな」


「うん、って、駆け落ち!?」


 ど、どういうこと駆け落ちって……それってつまり……


「よくまあ父の前で……後を継ぐつもりはないと?」


「ええ、私はこの一件でこの国を嫌いになってしまいました、あのクソ皇子に払う税金はないですよ」


「なるほどな……まあ私も領民のことがなければ同じ思いだよ」


 このままいけばケイン皇子が皇帝になるのは間違いがない、だからこそユーリはその国で暮らすのがいやだと言っているのだ。


「とりあえずは母の実家である隣国にと、まあ今夜中にも金をいくらか頂戴して駆け落ちしますよ」


 いや、だから宣言したらそれは駆け落ちではないのでは?


「ふん、そのくらいは用意してやるわ! だから少しはゆっくりしていけ!」


 そういう問題でもないような気もするけど。




 そして、1週間後、私とユーリは用意された金と馬車を持って隣国に向かうことになった。



「隣の国ではこの国より医療と科学が進んでいてな、もしかしたら君を治すことが出来るかもしれない」


 その言葉に私は目がテンとなった。


「もしかしてそのために……」


「はは、私はいいんだけど、どうやら君がよくないみたいだからね」


「……だって私の取り柄といったらそれしかないもの」


「おいおい、確かに君の容姿は美しい、こんな事件がなかったら絶世の美女として世界の宝だろう、だけど私が本当に君を好きになったのは、そこではない」


「え?」


「君があの時、私を助けるために巨大な敵に立ち向かった時、本当の美しさを見て、君を守るべき騎士ではなく、共に歩きたいと思ったんだ」


 確かにあの事件のあと、ユーリは私を姫と呼ぶことはなくなった。


「だから、自信を取り戻して、君と一緒にあの国に復讐しようじゃないか!」


「え、復讐するの!?」


「勿論、あの皇子にも君の姉にもね」


 その言葉と同時にユーリは一枚の紙を私に渡してきた。


「君がその顔にかけられた液体、それは上級錬金術でのみ調合されるフトウ酸と呼ばれるもの、原料はコトブキ草とフットウ鉱、コトブキ草は一般的に流通されているものだが、このフットウ鉱は入手が難しく、更に成分の抽出に特殊な錬金術が用いられており上級錬金術師だけがそれを可能とする、フトウ酸の主な活用法は金属の……」


「えっと、つまりは?」


「普通には、てにはいらないって事、しかもこの一週間で調べた結果、君にこの液体をかけた犯人は君の同級生、動機は嫉妬によるものだったけど、学園の生徒如きが手に入れられるものではない」


「裏がいるってこと?」


「そうそう、そして君の姉の勤めさきである、王立研究所から厳重に保管されたこのフトウ酸が紛失している」


 私は息を飲む、確かに姉には疎まれていると思っていたけど、ここまでやるとは思えなかった。


「ケーキ如きでは割に合わなかったてことかな」


「でも……」


「分かっているさ、同じ目に遭わせる事だけが復讐じゃない」


 どういうことなんだろうか? でも私はこの時、見返してやりたいという思いが湧いてきて、生きる希望をもらったきがしたのだ。




 5年後



「残念だけど、君との婚約は破棄させてもらう」


 アイリスの姉は30歳、未だに婚約が出来ないでいた。


 そのきつい性格が原因か、ことごとく婚約破棄されてしまったのだ。


 周りからも行き遅れという言葉が聞こえてくる現状に憤怒しているのが彼女の現況か。

 挙句の果てに父からも


「はあ、アイリスにあんなことがなければなあ」


 こんな事を言う始末。


「何よ! あんな見てくれだけいい女! そのせいで母上は家を出てったというのに!」


 アイリスの義理の母、彼女も不貞をした夫に愛想を尽かせて離婚をしたのであった。


「ふん、まあいいわ、今頃死んでいるか、それともボロボロでスラム街みたいなところで暮らしてるかどちらかでしょ!」


 今夜も荒れに荒れる姉であった。




「ケイン皇子、そろそろ婚約相手を……」


「しかしだな、俺に相応しい女はおらんのだ」


 それはお前がより好みして、皇子が好きそうな頭がよく綺麗な女性はこの皇子の婚約相手になるわけもなく、寄ってくるのは権力にたかるような悪女、


 まあそれもそうか、昔は見てくれだけは良かったのに、権力におぼれ太ってしまった皇子には、と言いたいところだがそんな事を家臣は言えるわけもなく、


「では他を探します」


「うむ」


 こうして見つかるはずもない皇子の理想の婚約相手を探すのを続けるのであった。


「皇子、そういえば隣国から親善大使がこの国に訪問されるようです」


「ほう、かの国の親善大使と言えば絶世の美女との噂ではないか、もしかしたら俺に惚れるかもしれんなしな、その場に俺も出よう」


「は、はっ!」


 頼むから国際問題を起こさないでくれよと思う、家臣であった。





 その親善大使を出迎える場、そこに皇子とアイリスの姉は鉢合わせした。


「ん、なぜ貴様がここにいる?」


「なぜって、相手はかの科学の国ですよ? この国で一番の科学者である私が呼ばれるのはあたりまえではなくて?」


「そか、失礼がないようにな」


 お前が言うなという声を姉はぐっと抑えながら席に着く。


「そちは確かスウェルか」


「おお、覚えていただき光栄です」


「スウェルは特に俺に貢献してるからな」


 ま、お前のためじゃないがな、という言葉はもちろん口には出さない。


「お前もこの場に呼ばれたのか?」


 そうスウェル卿に声をかけたのはアイリスの父である、


 コーラル卿だ。


「知人がいるのでな」


「大方、貴様の妻関係だろ? 向こうで新しい跡取りでも作ったのかもな」


 そして仲が悪い、それはお互いに1人の女性を取り合ったのが原因か。


「ははは、同じ妻に逃げられた同士、よく分かっているではないか!」


 それに笑って返す、スウェル卿、ここで器の違いは知れたというものだ。


「貴様!」


 それに怒ったのはアイリスの姉、だけどそれをしかめっ面で制したのが父であった。



「親善大使、ご一行がご到着です!」


 兵士のその言葉から間もなくこの応接間に隣国からの使者は通された。


 そして、その入ってきた人間に皆は息を飲む。


「雷帝! 貴様が我が国に足を踏み入れようとは!」


 その言葉はコーラル卿であった。


「これはコーラル卿、15年前の戦争ではどうも、でも今日は戦争をしに来たわけではありませんのでご心配なく、このように武器も携帯してません」


「ふん、武器を持っていなくても貴様ならば1000の兵士と同等だろうに」


 この国にとって最悪とも言える将軍、雷帝と呼ばれた男、そんな男が親善大使の一行に入っているとはと驚いていたのだ。


「おい、貴様が親善大使なのか?」


 そしてその雷帝という脅威を知らぬ、ケイン皇子は恐れもなく彼を呼び捨てる。


 絶世の美女とよばれた親善大使、それがこの中年の男なのかと落胆するような態度であったが、


「いえ、親善大使殿はこちらに……」


 それは確かに女性の身体をしていた。


 スタイルは良い、だが肝心の顔が見えない、それにケイン皇子は腹を立て、


「おい貴様、無礼であろう、そのフードをあげ顔を見せろ!」


 親善大使にその物言い、彼女は一応、隣国の王の代理であり、周りの従者もむっとしたような顔を見せる。


 だがそれを手で制した彼女はフードをあげるのであった。


「失礼しましたケイン皇子」


 フードをあげたその顔はとても整っており、綺麗な水色の瞳は人を吸い込む魅力を持っており、その肌は柔らかくツヤがあり、その白銀の髪は煌めくように輝いている。


 絶世の美女とは誰が言ったか、その評判通りであった。


 なんかアイリスに似ていて腹が立つわねと思う姉


 その美しさに見とれている皇子


 そんな馬鹿なって顔をしているコーラル卿


 感嘆の息を漏らすスウェル卿


 最初に声をあげたのは……


「アイリスなのか?」


 アイリスの父であった。


「そんなバカなことが!」


 姉はそれに続き驚きの声をあげる。


「おお、まるで君の母の生き写しではないか……よく顔を見せてくれ」


「はい、父上」


 その顔を見たスウェル卿は思わず涙が出そうになるほどであった。


「父上、息子もいますよ!」


「あ、そうか」


「扱い酷くないですか!?」


 ちゃっかりアイリスの一番傍に居た従者はユーリであった。


「素晴らしいアイリス、よく俺の元に戻った!」


「え?」


「やはりその美貌、俺の妻に相応しい、さあそんな男も国もすて早く戻ってこい」


 その言葉に場の空気は皇子以外は凍る。


 従者は殺意を向けた目を皇子に向け、ユーリは今にも飛び掛かりそうな顔、そんな空気の中、その場で声をあげたのは雷帝と呼ばれた男。


「失礼ですが皇子、その言葉はアイリス様に対しての侮辱ととってもよろしいですか?」


「なんだと貴様! 一兵士ごときが王家に意見をするのか? そもそもが貴様らの国は俺達の資源なしではその科学もまともに動かせんというのに!」


 確かに高度な科学を持つが、それを活用するための資源は隣の国でしか採ることが出来ない、だからこそ15年前戦争を仕掛けたのだが、それに反論するのはアイリスであった。

「そのことですがケイン皇子、わが国では代わりの資源をつくり出すことに成功して、更には皇国の支援も取り付けたので、こちらの国との契約を打ち切りにしたいと思いまして」


「なんだと!?」


 私が創ったのですよ私がと、ユーリは誇っているのをよそに大慌てのコーラル卿であった。


「それは困るだろうな、貴様はそれを家業にしていたのだから!」


 そして、スウェル卿はその様子を見て大笑いだ。


「ちっ、まあいい、いいから早く戻ってこいお前は俺の女だ」


 不利の立場になった、それなのにケイン皇子は横暴をやめることなく話し始める。


「貴様!」


「ひっ!」


 それに耐えられなくなったか、1人の従者は怒りの表情で皇子に向かって飛び掛かる。


 だが、それは雷帝の手によって止められて、事なき事を得るが、


「貴様たちのせいでどれだけアイリス様が苦悩していたか! 今となって手のひらを返して……それにその姉の鬼畜な所業、許せるものではない!」


「姉だと?」


 コーラル卿はその言葉に自分のもう1人の娘に目を向ける。


「そうだ! 劇薬を人を使い自分の妹にかけるなどと!」


「なに!? 本当なのか!?」


 それにはコーラル卿も驚きを隠せない。


「狂言ですわね、証拠なんて……」


「あるんだな証拠は」


 そういったのはユーリ、そして懐から小瓶を取り出したのであった。それこそ5年の間、闇に消されないように隣国でユーリが大事にもっていた証拠であった。


「なっ! 処分しろとあれほど……ゲフンゲフン、それがなにか、それは事件に使われたと言う証拠なんて……」


「5年経ったんだ、技術も科学も発達する、今は指紋という便利な個人認識の方法があるのさ、そんなに否定するなら提供出来るよね貴方の指紋を」


「ぐっ……そんなのいくらでもでっちあげれますわ」


「……話にならないね」


 その往生際の悪さにアイリス側は誰しもがあきれ返ったが、


「……お姉さま」


「なによ」


「私は許します」


「はあ!? 私はやってないって……」


「もういいんです、終わったことですから、それにこれがあったから私は皇子と別れて、ユーリと出会えた、だから私はもう過去を振り返らずに未来に向かいます、今日はそれも言いに来たかったのです」


 その言葉に姉は口がぽかんとなって、ユーリはため息を1つ、やれやれと首を振る。


 そしてアイリスはユーリの元に戻り、従者たちもこれは敵わないなというような表情だ。


「……あなただけ幸せになって」


 ユーリと幸せそうにしているアイリスの顔、それを見た姉は許せないという感情が湧いて出てきた。


「許せない!」


 そして、この次の会食のために机に置いてあったフォークを手に取り、アイリスに襲い掛かる。


 だが、そのフォークはアイリスに届くことはなく、ユーリに容易く止められていた。


「いい加減にしろ、君は戦争でもしたいのか?」


「何を!」


 おさまりがつかなくなったこの場を止めようとアイリスが行動を起こそうとした瞬間、

「やめよ!」


 その声はこの国の王のものであった。


「何をしている早くその者を捕らえよ!」


 そして、兵士たちにアイリスの姉をひっ捕らえるよう命令して、直ぐに押さえつけられて、そのまま連行されていった。


「と、父さん、身体は大丈夫なの?」


「このバカ息子が! 貴様のせいでおちおち寝てられんわ! お前はこの国を亡ぼす気か!?」

 どうやら、場の雰囲気がおかしくなり始めたため、1人の兵士が王を呼びに行ったらしいが、それは英断であったであろう。


「我が国がそちらの国に対して宣戦布告をする意思はない、どうか我が国の無礼を許してもらえないだろうか?」


「と、父さん、そんなへりくだらなくても……」


「お前はまだ事を分かっていないのか……もうよい皇子をこの場から連れていけ」


「そんな……」


 そして、皇子も兵士たちに連れられて部屋から出ていったのだ。


「……私たちも戦争は避けたいところです、ですが今までの不条理と呼べるような貿易、それだけは認めるわけにはいけません、私たちの王は平等な貿易を求めています」


「分かった、今度はこちらから出向く」


「はい、会談の場を用意してお待ちしております」


 アイリスは王とそれだけの約束を交わした後、王はその場から退席したのであった。


「……アイリス、もう私を父とは呼んでくれないのであろうな」


「はい、私はもうアイリス・スウェルです」


「分かっている、すまなかった」


 そういってコーラル卿も退席して、その場にはアイリス達だけが残ったのであった。


「ははは、これにて一件落着ですね」


「雷帝さん、なぜあの女の攻撃を防がなかったんですか?」


「いやあ、ユーリに見せ場を作った方がいいと思いまして」


「……それはそれで防護役としてはどうなんですか」


 従者も緊張の糸が溶けたのか談笑をし始めていた。




「父上、母上と出会ったよ」


「そ、そうか、何か言ってたか?」


「もう戦争もとっくに終わったし領民ごと早く来いと言ってました」


「むう、亡命か……」


 ユーリと父はこれからの事を話し合っていた。



 そんな私はこれからどうするんだろう?


「そういえば、陛下が議会を拡張して民を参加させるという話、その首相に君を推薦していたよ」


「え、ええ!?」


 突然の話に私は驚く、確かにこれからは民衆も政治に参加させるとは言っていたけど、

「そ、それこそ勝手に決めたらダメじゃないですか!」


「いや、ちゃんと選挙もしたらしいよ、君が投票率過半数越えだって」


 そ、そんな今の役でさえ大役だと思っているのに……しかもいつの間にか勝手に……


「まあ、いいじゃないかこれから生まれる君と私の子供のためによりよい国にと……あ、もしかし私はいま君と結婚したいと……」


 どこかで見たこの展開、それに今回は周りに人がおりニヤニヤとしたような表情で私たちを見てる。


 それに婚約はしたけど挙式はまだ挙げていない、この復讐が終わるまでとの話であったからだ。


「……うん」


「では、仕方がないな……私は君と子作りをして幸せになりたい!」


 た、確かに結婚ってそういうことだけど、その言い方って、


「ないですね」


「ありえませんね」


「お前は肝心なとこで駄目だな」


 周りからダメだしを食らっていた、という私も顔を真っ赤にしながら、


「バカッ!」


「がっ!? な、なぜ……」


 見事なアッパーを決めていたのであった。










 それからの話を少し語ろうと思う。



 私の姉はあの後、牢獄に入れられてそのまま廃人となり2年後には衰弱死したという知らせが入った。


 どうやら過去に囚われたままで抜け出せなかったのであろう、少しだけ残念だ。


 ケイン皇子はあの後、たっぷりと教育を受けて、今では私の婚約者だった時まで痩せている。


 しかも相当教育が効いたのか傲慢な態度はなりを潜めていた。


 だけど、会談などで私と会うたびに、


「ひっ!」


 と怯えるのはやめていだきたかった。


 スウェル卿は直ぐにこっちの国に亡命して、妻と再会していた。


 最初の内は新婚の雰囲気に戻っていたが直ぐにでも妻に尻を敷かれているようだ。


 スウェル卿には悪いけど、お似合いの夫婦だと思う。


 コーラル卿は細々と向こうの国でやっているらしい。


 そして私の夫であるユーリは初代首相である私を支えてくれた。


 元々は研究者肌で政治には向いていないと思うのだけど、必死に勉強して本業をそっち抜けに私を支えてくれた。


 だから私の任期が終わった今は思う存分研究をしており、今度は私が支える番だと思っている。


 そして私はというと……


「……ママ」


「どうしたのユリア?」


「明日の学校やっぱりいかない」


 娘を授かっていた、名前はユリア、ユリア・スウェル、今は7歳であり、明日は初めての学校だけど。


「だって私、ママみたいに綺麗じゃないもん、こんなのが聖女の娘だなんて笑われるよ」

「何言ってるの、貴方は綺麗よユリア」


「それはママだから言ってるだけだもん! 皆から見たら不細工だもん!」


「もう、他人の評価なんてどうでもいいじゃない、貴方は貴方よ」


 そういって私は娘の頭を優しくなでてあげる。


「……私じゃないもん」


「え?」


「私じゃなくてママが笑われることになるもん!」



 それは自分が笑われる事ではなく、自分の評価で自身の母の評価が落ちることによる恐怖であった。


「……その思いがあればあなたは大丈夫よ」


「でも……」


「ママもねパパと出会ったときはひどいものだったのよ?」


「え、嘘!? だって、パパはずっと昔から美しいっていってたよ?」


「そうね、パパだけは私を美しいだっていってくれた、だって……」


「うんうん!」


「この話はちゃんと学校に行って卒業するぐらいから」


「えー!」


 まだちょっとこの子には馴れ初めの話は刺激が強いかな。


「ただいまー」


「あ、パパだ!」


 どうやらユーリが帰ってきたらしい。


「おかえりなさい、ご飯出来てるわよ」


「おお、勿論いただくとしよう!」


 私はユーリからカバンを受け取ると同時にユリアがユーリに向かって飛びつき、それを彼はしっかりと受け止めた。


「おお、私のかわいいユリアじゃないか!」


「私にはママみたいに綺麗って言ってくれないの?」


「勿論、綺麗だとも!」


「……ねえ、パパって誰にでも綺麗って言っていない?」


 そんなことないと思うけど


「ねえパパ、明日私学校なんだよ!」


「おお、そうかしっかり学び、しっかり友達を見つけるのだぞ」


 そう言ってユーリとユリアは食卓のほうに入っていく。


 その後ろ姿を見ながら、私は思った、生きててよかったと。


「私は今、幸せです!」

この作品をここまで読んでいただきありがとうございました。

相当久しぶりの執筆なので誤字、文法の間違い、おかしな言葉などがあったりしたら、申し訳ありませんでした。

もしこの作品を気に入ってくださったのならば、作者は幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 血縁関係がわかりづらい。
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