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第6話 水商売

「よし。そろそろ休憩にするか」


 あれから、さらに1時間ほど森の中を歩いた。さっきの盗賊どもは、あの様子ではまだ追って来れまい。俺は、近くにあった岩に腰をかけた。


 さっきの盗賊の所持品から失敬した干し肉をかじってみる。モグモグ。


「うーむ。微妙な味だな……」


 ゴムみたいな感触。それに味も薄い。そもそも、これは何の肉だろう? 牛肉や豚肉とは違った味だ。この世界に牛や豚がいるかどうかも知らないが。そう思った時、頭の中に情報が流れる。


『アイテム名:モルズの干し肉・・・モルズの肉を乾燥させた保存食。あまり美味しくない』


「何だよ…… モルズって?」


 この世界の動物だろうか? それにしても、さっきからこの頭の中に流れ込んでくる情報はなんだろう? どういう仕組みなんだ?


 次々と疑問が浮かぶが、今はそれを気にしていても仕方ない。


「あ! そういえば……」


 俺は、ふと思いついて首から下げている銀色のプレートに触れた。頭の中に、俺のステータスが表示される。


〇 ステータス


 名前:ジョージ

 種族:人神族

 性別:男

 レベル:1

 HP:50

 MP:14/20

 腕力:15

 敏捷:12

 魔力:10

 スキル:物質変換魔法 レベル1


「思ったとおりだ。MPが14に減っている」


 さっきの2人組の盗賊に『物質変換魔法』を2回使用したから、MPが4減って残り14になっている。MPは0になると気絶してしまうので、慎重に使わないといけない。今の俺には、この魔法だけが頼りだからな。使用できるのは、あと6回が限度だ。


 まあ、睡眠などの休憩をとればMPは回復するらしいので、今日中に寝床を探せば問題ない。


「さて、そろそろ行くか……」


 干し肉を食べ終わった俺は、水筒の水をひと口飲んでから立ち上がった。そして、また森の中を歩き始めた。


 それから約2時間後……


 俺は、ついに森を抜けた。目の前には、草原が広がっている。そして、向こうには建物らしきものが数軒建っているのが見えた。


「おおッ! 町…… いや、村かな?」


 とりあえず集落なのは間違いない。日が暮れるまでには十分たどり着けそうだ。俺は、ほっと胸を撫で下ろし安堵した。そして、足どり軽く集落へと向かう。


「うん。村だな…… やっぱり。農村だろうな」


 周りには畑が広がっていて、その中心に家が10軒ほど集まっている。石造りの土台に白い漆喰しっくいが塗られた壁の洋風の家だ。差し詰め、中世ヨーロッパの農村という感じだろうか? まあ、ヨーロッパのことなど詳しく知らない。俺は、海外旅行にすら行ったこと無いのだ。


 村には、畑仕事から帰ってきた感じの村人などがいた。森の中であった盗賊みたいな連中とは明らかに人相が違う。普通の人だ。俺はホッとした。やはり、人がいるのは安心する。


「よーし、宿を探そうか! 晩ご飯も食べたいしな!」


 ようやく温かい食事にありつけそうだ。しかし、そこで俺はハッと気がつく。宿に泊まるにも飯を食うにも金が要る。それは、異世界でも当然の事だろう。


 俺は、森の中で会った盗賊たちから奪った財布を出す。中には、銅貨が20枚ほど。これで足りるのかどうか分からない。少し不安だ。そう思った時。


「そうだ! いいことを思いついたぞ!」


 俺は、腰につけていた水筒(これも盗賊から奪ったもの)を取り外して、手のひらをかざして念じる。


『対象を確認。スキル発動します』


 頭の中にメッセージが流れ、手のひらから青白い光が発せられる。これで、水筒の中に入っていた水は酒に変わった。物質変換魔法の力で。


「よしよし。この酒をどこかで売って金を稼ごう!」


 我ながらグッドアイデアである。まさに魔法を使った錬金術。元手はただの水だからな。これぞ本当の水商売というやつだ。


「…………しかし、ちょっと少ないな」


 水筒に入る程度の酒では少なすぎる。どうせ売るならもう少し量が欲しい。周囲を見渡すと、家の前で腰をかけて休んでいる村人の男性がいた。


「すみません! あの……」


 俺は、休んでいる村人の男性に声をかける。50代くらいの人の良さそうなおじさんだ。


「おや、旅の人かい? 何だね?」


 村人は、優しい感じで答えてくれた。俺は、さっそく商談に移る。


「あのつぼを売ってくれませんか?」


 俺が目をつけたのは、家の軒先のきさきに置いてあった壺だ。あれくらいの大きさなら、まあまあの水が入るし持ち運びもできる。


「あの壺を? 別にかまわんが。売るほどの価値のある物じゃないよ」


「いえ、お願いします! お金なら払いますので」


 俺は、財布から銅貨を何枚か取り出した。村人は、少し不思議そうな顔をしたが。優しい声で答えてくれた。


「分かったよ。変わった人だな。どうせなら、もう少し綺麗な壺をあげよう。ちょっと待っててくれ」


 村人は家の中に入り、同じくらいの大きさの壺を持って出てきた。親切な人だ。俺は、村人にさらにお願いする。


「すみません。よかったら、水ももらえませんか?」


「ああ。いいよ。水くらいはタダでかまわんよ」


 こうして、俺は壺の代金として銅貨1枚を払い。水の入った壺を手に入れる。計画通りだ。そして、少し離れたところでスキルを発動する。


『対象を確認。スキル発動します』


 これで、壺の中の水は酒に変わった。あとは、これを酒場か商店で売ればいい。なんてボロい商売なんだ!


 この『水を酒に変える』魔法をうまく使えば、俺はこの世界で金に困ることは無い。最初にステータスを見た時は、正直微妙なスキルだと思ったが……


 素晴らしい能力ちからじゃないか!


「よし! 酒場を探そう!」


 俺は、上機嫌でさっそく酒場を探すことにした。



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