第21話 ショートソードという名の長剣
冒険者ギルドを出た後も、クレアはプリプリと怒った様子で歩く。
「さっき、私たちに絡んできたのは、ダラークっていう最低の冒険者よ。本当に、もう! 最悪の気分だわ!」
「まあまあ、気にするなよ。ああいう人間は、どこにでもいるもんだ。それより、これからどうするんだ?」
俺が尋ねると、先を歩いていたクレアが振り返る。
「そうね。冒険者の登録も済んだし。さっそく冒険に! ……って言いたいところだけど。まずは、あなたの装備を整えないとね。知ってる武器屋があるの。そこに行くわよ!」
そう言うと、クレアは先導するように街の中を歩き始めた。確かに、今の俺が持っている武器は短剣だけ。それに、服も普通の布製の服である。これでモンスターと戦うのは心もとない。
しばらく歩くと、1軒の店の前に着いた。看板に剣と盾のマーク。間違いなく武器屋だろう。
「へい。らっしゃい!」
店の中に入ると、店主と思われる体格のいいおじさんが挨拶する。しかし、店主はクレアを見ると軽くため息をついた。
「はぁ。なんだ客かと思ったら、クレアの嬢ちゃんか。また冷やかしに来たのか?」
「失礼ね! 今日は、ちゃんと客として来たのよ!」
クレアは、またプリプリした様子で言い返す。武器屋の店主は「ほう!」と声を漏らした。
「そりゃあ、めずらしい! ついに格闘家をやめて武器を持つ気になったのか?」
「違うわよ! 武器が必要なのは、私じゃなくてこっちよ!」
クレアは、俺の背中をバンッと叩く。俺は、ペコリと店主に頭を下げた。
「何だ? ひょっとして、嬢ちゃんの彼氏か!? ずっと男っ気がないと思ってたが、やるじゃねえか!」
「違うわよッ! 彼氏じゃないわよッ! ただの仲間よ! な・か・ま!」
顔を真っ赤にして怒るクレア。このどうでもいい茶番は、いつまで続くのだろう。うんざりした顔の俺に店主が声をかけた。
「ははは。分かった分かった。それで、兄ちゃん。どんな武器をお探しだい? 剣から斧、槍に弓矢。ひととおりの物は揃ってるぜ!」
ようやく本題に入った。しかし、急な話だったので、どの武器を買うかなんて決めてない。俺が迷ったような様子を見せると。
「彼は、今日冒険者の登録をしたばかりの初心者よ。初心者用の武器を頼むわ」
クレアが俺の代わりに答えた。
「そうか…… 冒険初心者ね。それなら、これだな!」
店主は、店の奥に行くと1振りの剣を持って戻ってきた。そして、俺に見せる。装飾のない地味な両刃の剣だ。短剣よりは長いが、刀身50センチくらいの長さか。
「こいつは、ショートソードだ。片手でも扱いやすい初心者には持ってこいの剣だな。こんな名前だが、分類上は長剣の一部に入る」
「へえ……」
ショートソードなのに長剣とは、これ如何に? 店主は、俺にショートソードを手渡した。
「ほら。ちょっと振ってみな」
俺は頷くと、ちょっと離れた場所で素振りする。短剣よりは重く感じるが、片手でも充分に振れる重さだ。確かに、扱いやすく感じる。
「いいんじゃない? 様になってるわよ。ジョージ」
「そうだな…… うん。使いやすいし、いい剣だ。気に入ったよ」
俺は、納得する。うむ。これなら、今の短剣より攻撃力も増すだろう。
「毎度あり! 代金は、銀貨1枚だ!」
武器屋の店主が二カッと笑う。俺は「えッ!?」と声を上げた。銀貨1枚だって? それって、銅貨100枚分だよな。俺の財布には、10枚くらいの銅貨しか入っていない。
「……すみません。お金が足りないです」
俺が、申し訳なさそうな顔をすると、クレアがドンッと胸を叩いた。
「いいわよ! 私が貸してあげる」
「しかし……」
この女に借りを作るのは、ちょっと嫌だな。本能でそう感じた。しかし、クレアは胸を張って言った。
「あなたが戦えないと、私だって困るもの。お金は貸してあげるわ。出世払いでいいわよ!」
随分と気前のいい話だ。しかし、武器がないと困るのも事実。俺は渋々と承諾することにした。
「分かったよ。じゃあ、貸してもらおう……」
「決まりね! じゃあ、ついでに防具も買っておきましょう。おやっさん! 防具も見繕ってちょうだい!」
クレアは、店主に声をかけた。
「あいよッ! それなら、やっぱりレザーアーマーだな! ちょっと待っててくれ!」
店主は、にこやかな顔で店の奥に行った。
☆ ☆ ☆
こうして、俺はクレアの金で装備を整えた。武器は、ショートソード。防具は、レザーアーマーという革製の鎧だ。ついでにマントも買ってもらって、合計で銀貨2枚の借金ができた。
「だいぶ、冒険者らしくなってきたわよ。ジョージ」
クレアは、俺を見てニコニコと笑みを浮かべる。俺は、着慣れない鎧とマントのせいで、窮屈な感じで歩いていた。
日も傾き、夕暮れが近づいていた。俺は、クレアに尋ねる。
「ところで、クレア。今日の宿はどうするんだ?」
まさか、街の中で野宿する訳ではあるまい。かと言って、今の俺は宿代にも困る有様だ。クレアは、心配そうな俺の顔を見て微笑む。
「大丈夫よ。私が下宿している家を紹介するわ。私の叔父の家よ」
「ほう…… 叔父さんの家か」
この街に親戚がいるのか。この女の親戚に世話になるのは気が引けるが。宿泊代のことなどを考えるとやむを得ない。
俺たちは、街の居住区を歩き。1軒の家にたどり着く。2階建てのまあまあ大きな家だ。クレアは、ドアをノックしながら声を上げる。
「クレアよ! 今帰ったわ!」
しばらくして、ドアが開く。
「おう、クレアか! おかえり!」
中から40代くらいの男性が出てきた。口ひげを生やしているが、優しそうな顔のおっさんだ。おっさんは、俺の方をチラリと見た。
「紹介するわ。彼は、私の仲間……」
クレアが言い終わらないうちに、おっさんは大声を上げてドタドタと家の中に入っていった。
「大変だぁーッ! クレアが彼氏を連れて帰って来たぞぉ―ッ! 大変だぁーッ!」
なにか盛大に勘違いをされているようだ。クレアが血相を変えて追いかけていく。
「ちょっと! 違うわよ! 待ってよ! 叔父さんーッ!」
やれやれ。俺は、軽くため息をついた。
『ショートソード』
短剣より長く、長剣より短い片手剣。
悪い言い方をすれば中途半端だが、扱いやすく汎用性の高い武器。
特に初心者の冒険者に愛用されている他、兵士などの標準装備でもある。
この世界では分類上「小剣」ではなく「長剣」に該当する。
そのため、使用は「長剣スキル」の対象となる。




