第2話 最初の奇跡
※ 冒頭は、主人公とは別人のエピソードになります。ご注意ください。
ここは、とある小さな村。今日は、婚礼の儀式で賑わっていた。村の広場では、人々が振る舞われた酒と料理を楽しんでいる。
新婦は、お師匠様のお母様の知人であり、お母様と共にお師匠様と弟子の私も招待されていた。お師匠様と私は、静かに酒と料理をいただきながら広場で楽しそうに踊る村人たちを見ていた。
その時、お師匠様のお母様が私たちの元にやって来る。少し困った顔をしている。
「どうしましょう? 大変なの。今日、町から届く予定だったお酒が届かなくて。みんなに出すお酒が足りないそうなの。せっかく、みんな楽しんでいるのに…… このままでは、式が台無しになってしまうわ」
どうやら、皆に振る舞うお酒が足りなくなったようだ。皆、酒を飲み楽しんでいる最中なのに。文字通り水を差す結果となってしまう。
その時、お師匠様は静かに立ち上がった。そして、優しく微笑んだ。私は、お師匠様のこの優しい表情が好きだ。
「心配ありませんよ。母上。私に任せてください」
お師匠様は、そう言うと広場の裏にある家の台所に向かわれた。私もその後を追う。しかし、この事態。お師匠様はどうされるおつもりなのだろう。
家の中に入ると、村の女たちが困った様子で立ち尽くしている。お母様の言ったとおり、皆に出すお酒が足りないようだ。
「皆さん。あそこにある水がめを水で満たしてくれますか」
お師匠様は、村の女たち声をかけた。お師匠様の指さした先には、6つの水がめがある。かなり大きなものだ。
しかし、村の女たちは顔を見合わせて戸惑っている。水がめに水を入れてどうしようと言うのだろう? だが、お師匠様には何か考えがあるに違いない。私も声を出した。
「皆さん! お願いです! この方の言うとおり水がめに水を汲んでください!」
私がそう言うと、女たちは戸惑いながらも水がめに水を入れ始めた。数分後には、6つの水がめはいっぱいの水で満たされていた。
「お師匠様。この水をどうされるのですか?」
私は、不安になって尋ねた。すると、お師匠様はいつもの優しい表情をされた。
「大丈夫。見ていてください」
そう言うと、お師匠様は水がめの前へ行き手をかざした。何か小さな声でつぶやいた。すると、不思議なことが起こった。水がめの中に入った透明な水は、みるみるうちに紫色に変わっていく。
「お師匠様! こ、これはッ!?」
私は、驚いてお師匠様に声をかける。お師匠様は、振り返って私に言った。
「さあ、この水をひと口飲んでみてください」
私は、お師匠様に言われたとおり、水がめにはいった水を手ですくい口につけた。私は驚愕の声を上げた。
「こ、これは! 美味しい! 極上の葡萄酒です! こんな美味しいお酒は飲んだ事がありませんッ!」
水がめに入っていた水は全て葡萄酒へと変わっていた。しかも、極上の葡萄酒だ。
「さあ、戻りましょう」
お師匠様は、そう言って立ち去っていく。私は、まだ驚きの顔のまま呆然とその後ろ姿を見つめていた。
これは、お師匠様が私に見せてくれた最初の奇跡だった。その後、その酒のおかげで結婚式は無事に続けることができたのだ。
☆ ☆ ☆
薄暗い森の中を歩くこと約一時間。普段なら、もう会社に着いている頃だが。ここは、まだ森の中だ。
「お!? 池がある」
俺は、森の中で小さな泉を発見した。近寄って見ると透明で綺麗な水だった。ちょうど疲れて喉も乾いている。
「飲めるかな? 大丈夫だよな?」
これだけ綺麗な水なら飲んでも大丈夫そうだ。俺は、水を手ですくって口をつける。冷たくて美味い水だ。
「うむ。いい水だ!」
一息ついたところで、水を見て思いだした。首に下げているドッグタグみたいな銀のプレートを触った時に、頭の中に流れた情報。
そう、スキル『物質変換魔法』の『水を酒に変える』である。俺が、本当に異世界に転移したというならば。この泉の水を酒に変えることができるはずである。
「よし…… やってみるか」
俺は、自分のスキルとやらが、本当に使えるのか試してみることにした。