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ヒューマンドラマ

ひとつのシーンで歴代の流行語大賞を(ほぼ)すべて使ってみた

作者: たこす

※()内の数字は受賞した年です。

※同じ年に大賞が複数あった場合、どちらか一つ、または複数使用してます。

※無理やり感はスルーしてください(汗)

「おっはー」(2000)


 近くの喫茶店に呼び出されて出向くと、奥の席で凡人・軍人・変人(1998)の異名を持つ友人・Kがそんな挨拶をしながら出迎えてくれた。


「よう、どうしたんだよ。いきなり呼び出したりして」

「いやー、久しぶりにお前の顔を見たくなってさー」


 Kとは高校時代からの付き合いだが、大学卒業後、就職してからはほとんど会わなくなっていた。

 お互い仕事で忙しくなったのと、そもそもそれほど仲が良いというわけでもなかったからだ。


 久々に見た友人の顔は、なんとなくアザラシのタマちゃん(2002)のようだった。

 高校時代はスラっとした体型でイチロー(1994)みたいなイケメンだったのに。


 オレはウェイトレスにコーヒーを頼むとKの前に座りこんだ。


「で? 本当の理由は? まさか本当に顔を見たくなったから呼んだわけじゃないだろ?」

「さすがハマの大魔神(1998)。察しがいいな」


 ハマの大魔神てなんだよ。一度も呼ばれたことないわ。


「実はな、オレ会社辞めたんだ」

「は? なんで? 高校の時から希望してた会社だろ?」

「もちろん希望してた会社だったし、実際働きがいもあったさ。でも、いろいろとすったもんだがあって(1994)な」

「……なにがあったんだ?」


 Kはゆっくりと視線を下げると真面目な顔で答えた。


「実はさ、社内のアラフォー(2008)人妻に密会・密接・密着の3密(2020)かましたらクビになった」


 めっちゃダメな理由でした!


「もう好きすぎてさー。夜中に会いに行ったり、仕事中身体に触りまくったり、家まで尾行したり……」


 いろいろアウトだよ!

 逮捕案件だよ!


「いや、それはクビになって当たり前じゃないか?」

「なんで?」

「なんでって……」

「だって好きになっちゃったんだもん。しょうがないじゃん」


 ええー……。

 中学生みたいなこと言ってるよ、こいつ……。 


「ちなみに、どんなところが好きになったんだ?」


 オレの問いかけに、Kは身体をモジモジさせながら言った。


「えっとぉ。仕事でミスったオレをフォローしてくれたりとかー、仕事でミスったオレを慰めてくれたりとかー、仕事でミスったオレを叱咤してくれたりとかー、仕事でミスったオレを張り倒したりとかー……」


 ミスってばっかだな!

 最後、殴られてんじゃん!


「そんななでしこジャパン(2011)のようなところが好き♡」


 誤解を生むような発言はすな。

 なでしこジャパンはそんなことしないぞ! ……たぶん。


「ま、まあ、こんなこと言うのもアレだけどクビになってよかったな。警察に捕まる前で」

「そうだな。あのまま行ってたら完全に失楽園(1997)だったしな」


 失楽園という言葉は違うと思う。


「それで? 次の就職先は見つかったのか?」

「そこなんだよ、お前を呼んだのは」

「残念だけど、オレはコネ入社なんてさせる気はないぞ。紹介くらいならしてやってもいいけど」

「違う違う! ぜんぜんちっがーう!」


 Kはイナバウアー(2006)のように体をのけぞらせながら否定した。


「オレな、国会議員になりたくなったんだ」

「は? 国会議員?」


 ちょっと待て、話がいきなりぶっ飛んだぞ。


「国会議員になって日本を変えていきたいと思ってさ」

「国会議員って……。おま、高校の時はそんなこと一言も言ってなかったじゃないか」

「人は変わるもんなんだよ」


 瞳をキラキラさせながら言うK。

 昔はクズキャラだったけど、今は純粋に夢を追いかけている少年のような顔をしている。


「そうか。国会議員という新たな夢を見つけたんだな」

「ああ。オレ、議員になって小泉語録(2001)みたいなものを作りたい」


 めっちゃ頭悪そうな理由だった!


「政治家になって国会で吠えまくって小泉劇場(2005)ならぬK劇場なるものを作って、みんなにキャーキャー言われたい」

「お前を少しでも見直したオレがバカだったよ」

「そんなこと言うなよ。国会議員になりたいという新たな夢を見つけたんだ。自分で自分を褒めたい(1996)くらいさ」

「そ、そうか。ところでお前、政治に詳しかったっけ?」

「忖度(2017)くらいの意味ならわかるぞ!」


 こいつが国会議員になったら日本死ぬ。


「そろそろ政権交代(2009)の頃合いだしな」

「いやいやいや、政権交代の前にまずは勉強しろよ!」

「勉強してるさ。オレの雑草魂(1999)なめるなよ」


 知らんがな。


「それでな、令和のハニカミ王子(2007)と呼ばれたお前を呼んだのは他でもない。オレの補佐をして欲しいんだ」

「は?」


 令和のハニカミ王子ってなんだよ。オレの肩書いくつあんだよ。

 っていうか、補佐をして欲しい?

 何言ってんのこいつ?


「補佐って?」

「補佐は補佐だよ。いくら令和のNOMO(1995)と呼ばれたオレでも、一人じゃキツイしな」


 ついには野茂さんまで出してきた!

 なんてふてぶてしいヤローだ。野茂さんに謝れ!


「……具体的なプランはあるのか?」

「おう、あるある。まずは『あつもり』で仲間集めだな」


 ダメだこりゃ。


「いや、ちょっと待て。無理あるだろそりゃ」

「なんで? バ〇デンさんだってやってたし」


 米国の大統領と自分を一緒にすんな。

 そしてそれ、けっこう問題になってたぞ。


「オレ、あつもりってやったことないからまずは教えて欲しいんだ」

「っていっても、オレも最近やってないしなー」

「まずはアレ必要なんだっけ? えーっと、ゲームキューブ?」


 いつのゲーム機だよ!

 数世代前だよ、それ!

 そこそこ面白いソフトもあって、オレも持ってたけど!


「違う違う。今はニンテンドース〇ッチだぞ、K」

「ニンテンドースイッ〇?」

「あつもりといったらな」

「なんかやる気スイッチみたいなネーミングだな」


 あははと笑うK。

 ほんとにやる気スイッチあったら押してやりたいわ。


「それがあったら外でもあつもりできるぞ」

「マジで⁉ なにそれ、神ってる(2016)!」


 まあ、確かに最近のゲームの進歩はすさまじいよな。

 見ず知らずの人と同じゲームでつながり合うなんて、一昔前なんて予想もしてなかったし。


「こりゃあれだな! ニンテンドース〇ッチ爆買い(2015)して有権者に配れば当選間違いなしだな!」

「犯罪だよ!」


 バカかこいつは。

 そんなの選挙法違反だっちゅーの(1998)。


「おまえ、よくそれで国会議員になろうと思ったな」

「変か?」

「変」


 そういえばKって昔からこんなヤツだった。

 思いついたら即行動起こすタイプ。

 こいつはどげんかせんといかん(2007)。


「そういえばさ、隣のクラスの真知子覚えてるか?」

「覚えてる覚えてる。霊感強くて『ゲゲゲの(2010)きたまちこ』って呼ばれてた真知子だろ?」


 呼ばれてねーよ。なんだその記憶力。


「その真知子がどうかしたか?」

「なんでも議員の嫁になったらしいぞ。彼女のほうが政治とかに詳しいんじゃないか?」

「えー、あー、うーん……」

「なんだよ、政界目指すなら彼女のほうが断然相談相手にふさわしいだろ」

「でも……あの真知子だぜ?」

「なんだよ。問題でもあるのか?」

「高1の頃、『同情するなら金をくれ』(1994)って言ってクラス中から金せびってたんだよ。家金持ちだったくせに」

「いや、それは知らんけど……」


 そうなのか?

 真知子って同情するような家庭事情だったっけ?

 オレの中では美人・才女・優等生というトリプルスリー(2015)のイメージが強いんだが。


「オレ、せびられたんだよね。真知子に」

「そうなんだ」

「Jリーグ(1993)観に行きたいから金をくれって」


 しょうもな!

 同情のレベルしょうもな!


「それでお前……貸したのか?」

「おお。貸した貸した。50円」


 50円て……。


「まだ返してもらってないから、利子だけで50万はいってるな」

「どこの悪徳金融だ、お前は」


 こいつから金だけは絶対借りないでおこう。


「借りたものを返さない、そんなヤツに教えを乞うのもなー」

「そ、そうだな」

「というわけで、やっぱりオレの補佐はお前しかいないな!」

「やっぱりじゃねーよ!」

「メークドラマ(1996)の始まりだな!」

「だからやらないよ、オレ!」

「いつやるの? 今でしょ!(2013)」

「これから先もねえ!」


 なんなんだこいつのこのグイグイくる感じは。

 ああ、このままだとヤバい。

 早く話を切り上げて退散しないと……。


 そんな時、店の奥から巨大なチョコパフェを持ったウェイトレスがやってきた。


「お待たせしました。スーパーウルトラハイパーデラックスキングチョコパフェです」


 で、でか……。

 Kの顔が隠れるくらいでか……。


「おおー、きたきた」


 Kは歓喜しながらそんなチョコパフェを横にずらしてオレの顔を見た。


「どうだ、すごいだろ。このパフェ」

「あ、ああ。インスタ映え(2017)しそうなパフェだな……。いつの間に頼んでたんだ?」

「お前が来る前さ。一緒に食べようぜ」

「い、一緒に?」

「これからはオレとお前でONE TEAM(2019)だからな。オレのおごりだ」


 ええー……なんでだろー(2003)。

 オレ、やるなんて一言も言ってないのに……。


 Kはそんなオレの冷めた目を気にすることなく、スプーンいっぱいにクリームをすくうと口に入れた。


「んー! チョー気持ちいいー(2004)!」

「チョー気持ちいいんだ……」


 そこは普通に美味しいでいいだろ。


「ふふ、顔が隠れるくらい巨大なパフェ。にも関わらず、乗っているチェリーがたった一つ。嬉しいような悲しいような(1992)……」


 言いつつ、Kはそのたった一つしかないチェリーをオレに差し出した。


「なんだ? くれるのか?」

「ダメよ~、ダメダメ(2014)」


 そう言ってパクリと自分の口に入れる。

 ああ~、殴りて~。


「サクランボはやらんけど、パフェは食べろよ」

「いい」

「なんで?」

「食ったら引き受けたってことになるから」

「ははは! ないない! そんなことない! ……あ、そんなことあるわけないじゃあ~りませんか(1991)」


 なんだその言い方。腹立つ。


「さっきのは冗談だよ、冗談。今日はここまで来てくれた礼だ。オレのお・も・て・な・し(2013)」

「いや、おもてなしされても……。なんか倍返し(2013)されそうな気がするし」

「じぇじぇじぇ(2013)。おま、オレをそんな目で見てたのかよ~」


 悲しそうな表情をするなよ。


「せっかくお前のために注文したのになー……」

「初っ端からバクバク食ってたくせに」

「もういいよ。全部ひとりで食うから……」


 オレは肩をすかして「やれやれ」と首を振った。


「わかった、わかったよ。オレも食べるよ」

「おお! 食え食え! オレのおごりだ!」

「………」

「………」

「………」

「………」

「なあ、K。オレの分のスプーンは?」

「ああ。店員さんにスプーン1つでいいって言っちゃった」

「……言っちゃったじゃねえよ。どうやって食えってんだ、これ」

「手づかみ」

「手づかみ?」

「ワイルドだろぉ(2012)」

「そだねー(2018)……」



おわり

お読みいただきありがとうございました。


<歴代の流行語大賞>

3密(2020)

ONE TEAM(2019)

そだねー(2018)

忖度(2017)

インスタ映え(2017)

神ってる(2016)

爆買い(2015)

トリプルスリー(2015)

集団的自衛権(2014)

ダメよ〜ダメダメ(2014)

今でしょ!(2013)

お・も・て・な・し(2013)

じぇじぇじぇ(2013)

倍返し(2013)

ワイルドだろぉ(2012)

なでしこジャパン(2011)

ゲゲゲの~(2010)

政権交代(2009)

グ〜!(2008)

アラフォー(2008)

(宮崎を)どげんかせんといかん(2007)

ハニカミ王子(2007)

イナバウアー(2006)

品格(2006)

小泉劇場(2005)

想定内(外)(2005)

チョー気持ちいい(2004)

毒まんじゅう(2003)

なんでだろ〜(2003)

マニフェスト(2003)

タマちゃん(2002)

W杯(中津江村)(2002)

「小泉語録」 (米百俵・聖域なき構造改革・ 恐れず怯まず捉われず・骨太の方針・ ワイドショー内閣・改革の「痛み」)(2001)

おっはー(2000)

IT革命(2000)

ブッチホン(1999)

リベンジ(1999)

雑草魂(1999)

ハマの大魔神(1998)

凡人・軍人・変人(1998)

だっちゅーの(1998)

失楽園(1997)

自分で自分をほめたい(1996)

友愛 / 排除の論理(1996)

メークドラマ(1996)

無党派(1995)

NOMO(1995)

がんばろうKOBE(1995)

すったもんだがありました(1994)

イチロー(1994)

同情するならカネをくれ(1994)

Jリーグ(1993)

「うれしいような、かなしいような」(1992)

「はだかのおつきあい」(1992)

…じゃあ〜りませんか(1991)



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― 新着の感想 ―
[良い点] これは最高ですね!\(^o^)/
[一言] まさかの実験作!? よく頑張った、感動した!!
[良い点] この様な書き方の作品は今まで読んだことがなく 初めて聞く流行語が多かったのですけど それはそれで、普通に読み進められましたし なんか・・・ たこすさん、すごいな~♪ って事だけが感想に…
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