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思考の自由ってすばらしい



 僕がドアの覗き穴から外の人影がないかを入念に確認していると、


「なにしてるの」


 という素朴な疑問が背後から聞こえてきた。こいつが家に来てから何日か経過して、自分以外の存在が家にいるという状態にもだいぶ慣れてきた。


「外に出たいから、人がいないかチェックしてるんだ」

「なんで?」

「すれ違ったりしないようにだ」

「なんで?」

「人が怖いからかな」

「なんで?」


 僕が答えるたび、彼女は壊れたスピーカーのように同じ質問を繰り返えした。人を納得させる説明をするというのは難しいもんだなと実感する。それとも僕の会話能力が足りなさすぎるのだろうか。


「怖いものは怖いんだよ」


 僕は面倒になって説明を放棄した。だって怖いったら怖いのだ。


「ふーん? 赤の他人ってそんなに怖いかな。私にとって1番怖いのは家族だったからなあ。他人はそもそも知らないのに、怖いも何もないんじゃないの?」


 残念なことにそうはなってくれなかったのである。


「わからないと人は決めつけるようになるんだ。今までの経験から、こんなふうに思ってるんだろう。こいつはこんなやつなんだろうって。それが正しいとは限らないにも関わらずにね。そうやって決めつけると他人が怖くなるんだよ」

「ふーん。どうせ決めつけるなら、良い方向に決めつければ良いのに」


 彼女はどうでもよさそうにに大口をあけてあくびがてらにそう言った。目の端に涙が浮かんでいる。


「こいつ絶対自分に惚れてるなとかか?」

「それはキモいけど、思うだけなら自由だと思うよ。キモいけど」


 キモいを強調された。大事なことだから二回言ったのだろうか。


「それで? 出るの出ないの?」

「今日はやめとくことにした」


 人が来る気配がするような気がしないでもないから。


「ふーん。ビビリじゃん」

「いや今そういう気分じゃないだけでちょっとしたら出るかもしれないけどな」

「なんか急に早口になってキモいや」


 僕もこんなに短時間に3回もキモいと言われたのは流石に初めてである。その日は結局、誰かさんの心ない言葉に心傷したので外に出ることはなかった。


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