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【第9話】男目線の話 後編 副題:エロスなタイトルをつけるコツ、どなたか知りませんか?

 特に目的もなく歩き回っていたところで、ボルターはカロナと出くわした。


 お互い情報交換も兼ねてと、どちらが言い出すでもなく自然な流れで店に入り、食事をすることになった。


 どの店も混んでいる。

 観光客の数に対して、飲食店の規模(キャパ)が追いついていない印象だ。


 分散のためにも、もう2、3軒くらい食事する店が増えてもいいのかもしれない。

 ちょうどタイミングよく空席になったテラス席を陣取ると、カロナが先制を仕掛けてきた。


「当然、あんたのおごりに決まってるわよね」


 昔だったらこんな態度の悪い女に食事をおごるなんて考えられなかったが、それくらいでいちいち腹が立たなくなったのは、年をとったせいと慣れかもしれない。


 立場上、我慢しなければいけない案件の数は、ギルドの中ではボルターが誰よりも多いだろう。


「食いたきゃ好きなだけ食えよ。せこい金券だけは山ほどあるからな」

 自分も適当に食事を注文しながら、横柄(おうへい)な旧友の顔をまじまじと観察する。


「カロナ、お前なんか潤ってねえか?」

 するとカロナは、待ってましたと言わんばかりにボルターの振った話に飛びついてきた。


「わかる? そう、そうなの! 私ったら身も心もセリのおかげでプルンプルンなの! どう? このむきたてタマゴ肌! 触る? 触る?」


 カロナの剣幕に圧され、ボルターは勘弁してくれと体を目一杯後ろに引いた。

 昔から攻める方専門で、ぐいぐい来る女は好みじゃない。


「ロフェの尻で十分間に合ってるよ。なんなら今度本物のむきたて、揉ませてやろうか?」


「ひとケタ年齢の女の尻揉んだって楽しくないわよ。セリの胸を揉ませてくれるって言うなら喜んで、ってとこだけど」


「揉むほどあったか? せいぜい撫で回すのが限度だろ。あいつも揉むなら尻だな」


 本人のいないところで散々失礼なことを話題にしながら、運ばれてきたピザに口をつけた。

 スパイスが利いていてなかなかうまい。

 ボルターは昼間からビールを注文しようか迷い始めた。


「なんかさ、ここ来るたびに思うけど、すっごい落ち着いちゃったよねあんた。

 奥さんと別れた後はさすがにこっちに戻ってくるかと思ったのにさ。

 昔はこんな小さい町に収まってる柄じゃなかったのにね。ねえ、本当に暴れたくなったりしないの?」


 またその話か。


 この町に移り住んで6年。

 いい加減にそろそろ落ち着いた自分を認めてほしいというのは難しい話なのだろうか。


 自由奔放に旅する昔の仲間からの、悪気はないのだろうが、余計なお世話な言葉の数々にボルターはいつもうんざりする。


 まだ復帰しないのかよ? 暴れたくてうずうずしてんだろ?


 再婚したら奥さんに子供任せて、どこか騒ぎに行こうぜ? ボルターなら新しいかみさんなんてすぐ捕まえられんだろ?


 もう自分は()()()側の人間ではないと分かってほしいというのは、無理なのかもしれない。


 そんな昔の仲間たちに毎度返す言葉を、カロナにも返す。


「ガキが二人もいるとな、休むヒマもねえし、もう疲れ切って暴れる元気なんて残ってねえよ。そんな無茶するほどもう若くもねえしな」


 大切な子供二人の笑顔と一緒に、今はもう一人増えた仏頂面が浮かんだ。


「あと、じゃじゃ馬も一匹増えたしな。言うこと聞かねえし、うるせえし、懐かねえし」


「じゃじゃ馬? セリが?」

 カロナは信じられないと言った顔をした。


「その辺の小娘が丸腰で森の奥に入って行くか? んで入る度に何かに刺されただの、貼りつかれただの、ろくでもないチャラいのにつきまとわれただの……」


 言いながら、ボルターはセリの自己防衛本能に疑問を持ち始めた。


 世間知らずというレベルではない。

 命の危険に対しての感覚が人より希薄なのかもしれない。


 他にも、未だに冗談みたいな低賃金で働かせているにも関わらず、全く気づかないことなども含め、まだまだ一人で放り出すには心配なところがセリには多々ある。


 少しそのあたりはきちんと教育してやらないといけないのかもしれないな、とボルターは指についたピザの油を舐めながら思った。


「セリはちょっと危うい感じのがイイのよ。守ってあげたい♡ って気持ち?

 あとたまに愛おしすぎて押し倒したくなっちゃうわよね、あの子。

 この衝動を押さえつけるのに忍耐力が試されるわ。うふふふふ……」


 あまり見たことがない目の光を放つカロナに、ボルターは本気で心配した。


「……お前、大丈夫か? 男にふられすぎてそっちに趣旨変えか?

 人の嗜好に口出ししたくはねえが、完全にそっちいっちまう前にちょっと待ってろ。

 適当に若めの男、調達してやるわ。ギルドは別にどこでもいいよな?」


「ちょっと! なんでふられすぎって確定してんのよ! ふってんのは私よ私!

 大体ねぇ! ……って、あ。セリだ。セリ~!」


 カロナが目ざとく、通りにいるセリを見つける。


 昼寝中のロフェをおんぶして、レキサと手をつなぎながら買い物をしている。

 どうやら鬼ごっこ大会はお開きとなったようだ。


 インディはいない。

 そう確認して、いないからなんだっていうんだと自分に疑問をぶつけた。


 カロナの声に反応して、セリが弾かれたように振り向いた。

 嬉しさがこぼれ落ちるのではないかというほどに、そして少しはにかみながらの、とろけそうな笑顔――。


 見慣れないセリの表情に、ボルターはピザを口に入れる直前で固まった。

 一方のカロナは、珍しくもないのか近づいてきたセリへ、普通に声をかける。


「セリ、今日の調子はどう? あとで私、家に寄ろうか?」


「あ……本当に? 嬉しい。そしたら……待ってますね」


 セリ特有の鋭さが全くない。

 目元がいつもより(ゆる)んでいる。声もどこか甘い。


「ふふ、了解。じゃあ、あとでね」


 気取った態度で手をふるカロナに、ボルターがさっきから気になっていたことを指摘した。

「お前、なんか急に顔と声、気持ち悪いぞ」


 ボルターの声に、ようやくセリが隣にいるのがボルターだと気づいた。


「あれ、ボルターいたんだ。ちょうどいいや、今日夕飯いるの?

 外で食べて来るんなら3人分しか作らないから楽なんだけど」


 ボルターに対して話しかけるセリからは、あの表情は影も形もなく消失している。

 ボルターがよく知っている、いつものセリの顔だ。


 なんだよ、俺にもその甘え声出せよ。くそ、俺以外のやつらにばっかりシッポ振りやがって。


 ボルターはさっきから(くす)ぶっている苛立ちが再発するのを感じた。


「今日は家で食う。俺の分も用意しとけよ」

 つい口調が強くなるのを自覚し、自己嫌悪でますますイラつく。


「だってさ、レキサ。良かったね、久しぶりにお父さんと一緒にご飯食べれるよ」


「別に、僕セリ姉がいれば大丈夫」


 ここ最近、反抗期なのか、妙に自分の神経を逆撫でしてくるレキサの一言も加わり、ボルターは思わず舌打ちした。


 くそ、どいつもこいつも。


 ボルターはやけになり、結局ビールを大ジョッキで注文した。



**********



 少し早い時間に家に着くと、レキサが踏み台に乗って鍋をかき混ぜていた。


「あ、おとーしゃん! しぇり、ねてるからしーっだよぉ」


 無邪気に自分へ走り寄ってくるロフェの笑顔に、今日一日の疲れが吹き飛ぶのを感じる。

 飛びついてきたロフェを抱き上げ、テーブルを見るとセリが椅子に座ったまま机に突っ伏し、寝息を立てていた。非常に珍しい光景だ。


「ああ、疲れてんだろ、部屋で寝かしとくか」


 ロフェをおろして、セリの椅子を引く。

 セリの白いうなじに白銀に光る細い鎖が見え、ボルターは一瞬、手を止めた。


 ……飼い主以外から首輪なんかもらうんじゃねえよ。不忠者(ふちゅうもん)め。


 屈んでセリの膝下に手を入れ、抱き上げかけたところで、死角からセリの裏拳が飛んで来た。


 とりあえず避けたが、危うくセリを落としかけ、あわてて抱き直すと、腕の中でセリは寝ぼけたまま、まだ暴れている。


「あっぶねえな! なんなんだてめえはこの前から! 人が優しくしてやってんのに!」


 寝起きのセリはまだ相当に眠たいらしく、目を閉じたまま手を突っ張り、必死でボルターの腕の中から脱出しようと試みている。さっきの裏拳は全く無意識の所業らしい。


「え? え? なに、この体勢。なにしてんの、なにしようとしてんの」


「疲れてんだろ? まだ寝てろ、そんで暴れんな」


「嘘……寝てたの? ヤバ、ご飯作んないと……」


「セリ姉、ご飯は作ってたよ。火かけっぱなしだったから焦げないかだけ見てた」


「あー、ごめん、レキサ。起こしてくれて良かったのに……っておっさん! いい加減下ろして!」


 インディには抱かせたまんま鬼ごっこまでやらせといて、俺には早く下ろせってか。


 ボルターは暴れるセリを抱いたまま立ち上がり、セリの部屋へと連れていく。


「ちょっと! 人の話聞いてる?」


「ぜってえ寝かす。密着で添い寝して、腕枕してやっから、俺の夢でも見てゆっくり休めよ」


「ふざけないで! そんなんで寝れるわけないでしょ! だいたいこれからご飯だって言ってるでしょーがー!」


 耳元で怒鳴られて、さすがにボルターはセリを解放した。


****


 夕食が済み、レキサとロフェの寝かしつけを終えた後、セリが洗い物をしている。

 いつもなら食後すぐに片付いているはずなので、さすがに疲れがたまっているのだろう。


 心なしかセリの目が半分閉じかかっているようにも見え、ボルターは苦笑した。

 手伝おうとすると、珍しい食材が置いてあったのが目に入った。


「お、でっけえ白ソーセージだな。どうしたんだ?」

 ボルターの声にセリはハッとなって返事をした。やっぱり半分寝ていたらしい。


「え? あ、ああそれね。お肉屋さんからもらった。

 朝に食べる習慣があるものだっていうから明日の朝ごはんに出すよ……って、ちょっと! 言ってるそばから!」


 さっそくソーセージを手に取り、串に刺し始めたボルターをセリがとがめる。


「うまそうだから一本焼いて食おうぜ」


「焼くの? ()でるものだって聞いたけど」


「うまいもんはどんな食い方したって、いつ食ったってうまいんだよ」


 炙ると肉の脂が香ばしい匂いを醸し出す。ボルターは酒が飲みたくなってきた。


「一本くらい食ったって明日の分は足りんだろ?」


 それ以上文句を言わないところを見ると、セリは一本までなら容認することに決めたらしい。

 洗い物の手が止まり、じっと焼ける様子を眺めているあたり、自分も食べたいのかもしれない。


 不意にいたずら心が沸き上がる。


「『ボルターさんの持ってる太くておっきなソーセージがほしいの』って言えたら一口食わせてやってもいいぜ?」


 セリは警戒するように上目遣いで睨むと、そっぽを向いた。


「やだ。あんたがそういう顔するときって絶対私のことからかってる時だもん」


 意味はよく分かっていないようだが、なんとなく空気で恥ずかしいことを言わせようとしたことには気づいたらしい。

 ボルターは自分の口元が緩んでしまうのが分かった。


「わーった。言わなくていいから食ってみろって。ぜってぇうまいから」


 洗い物で手が使えないので、口元に近づけてやると、警戒しながらも、おずおずと一口かじるセリ。


「遠慮しねぇでもっと口開いてしっかり食えよ。それじゃほとんど食ったうちに入らねえだろ」


 セリは一瞬上目遣いで、困った顔をしながらも、今度は遠慮しないで大きな一口でかぶりついた。


 と、ここまでだいたいの男が妄想する一連のことをやらせてみて思う。


 ……こいつの場合はそういう分かりやすいエロじゃないんだよなぁ。


 じっとセリの食べる様子を見つめていると、セリが気づいてうろたえた。


 何? 何なの? と言っているみたいだが、まだソーセージをほおばっていて上手く喋れない。


「ん? お前を押し倒したい気持ちになんのかな~って思って見てた」

 セリは動揺したのか、喉に詰まらせて咳込んだ。


 セリに対してカロナが言うような、守りたいだとか、押し倒したいだとか、そういう気持ちには今のところなったことはない。

 からかうのは楽しいが、自分はどっちかと言えば成熟した女の方が好みだ。


 セリに対しての感情は――改めて考えてみると――野生の獣に餌付けするような感覚に近い。

 少しずつ手懐けていくのが、――たぶん楽しいのだろう。


 ああ、そうか。

 ボルターは今日一日のもやもやの正体をつかみかけた気がした。


 拾ったのも世話してんのも俺なのに、他のやつらにばかり先に懐くから面白くなかったのかもな。


 なんだかんだ文句を言いつつも、相手好みの味を覚えて、好みの食事も作るし、甲斐甲斐しく世話も雑用もなんでもやってくれる割に、突然発作的に強い拒絶を起こす。


 男に強い警戒心を持っていることは、最初会ったときから気づいていたし、年頃の女なんだから、男に適度な警戒心を持つことは良いことだと思っていた。


 ただ、他の男に対して、自分よりもガードが低いような気がする。それが面白くない。


 別に俺のものってわけじゃねえけど……案外まだまだ俺もガキだったっつーことか。


 そう認めてしまえば、だいぶ気持ちの整理もつく。

 心の内に溜めてた言葉も自然に出てきた。


「お前、あんまり男からホイホイ物をもらうなよ。勘違いすると面倒だから」


「げほ、誰のこと? お肉屋のおじさんのこと? お米屋のお兄ちゃんのこと?」


 米屋に若い男なんていたか? 疑問が浮かぶが、今は置いておく。

「あいつだあいつ。今日、花の髪飾りか何かくれてたヤツ」


「ああ、ラーニさん。

 確かに最初は一緒にどこか行こうとか言われたんだけど。

 そういうことなら受け取れないって言ったし、借金がたくさんあるから一生懸命働かなくちゃいけないし、子供の世話で朝から寝るまで忙しいから、時間は全く作れませんよってお断りしたよ。

 それでも時々お菓子のついでにみたいにしてプレゼントをもらうんだけど、別にお誘いされるわけでもないし、警戒しちゃうのも失礼だよなって思って。

 それにね、もらうものも本当に全然高いものじゃないし、それまで断っちゃうと逆に失礼になるのかなって一応もらってるんだけど……やっぱりそれも断った方がいいのかな。

 私はそれより、どっちかっていうと困るのは……」


 前言撤回。

 しっかりセリなりに考えていた。相手の方がしつこいだけか。

 

 (あなど)って悪かったな、と心の中で謝罪をしながら頭をなでると、セリは不思議な顔をしながらも素直になでられたままになっている。


 頭をなでられるのは嫌いじゃないんだな……。


 少しは懐いてんのかもな、とボルターは昼間にカロナに愚痴ったセリの評価を少し修正する。


「ホイホイもらうなんて言い方して悪かったな。詫びに俺もなんか買ってやろうか?」


 触発されたわけではないが、セリはどんなものを欲しがるのか興味はあった。


「うーん、じゃあエプロンが欲しいかな。洗い物とかご飯作ってるときとか、結構服汚しちゃうから」


 ――エプロン。


 ボルターはエプロンをつけたセリをひとまず、何はさておきいろんな角度で、いろんなシチュエーションで、いろんなエプロンで想像する。


 当然お約束なアレはまあ無理だとしても想像だけは一応しておく。

 そして結論は――。


「エプロンにしろ、髪にしろ、女の何かをほどくのって、こう……クるよな……」


 ボルターの台詞にセリが身構えるように体を固くする。

 洗い物の途中なので、その場から動けないのをいいことにセリの背後に回ると、セリの体を挟むように両側へ手をついた。


「ボルターはセリの後ろのひもに指をかけ、ゆっくりと結び目をほどいていく。

『ちょっと……っ、ボルター、ダメだったらぁ』

 セリはそう言いながらも甘い声を出し、抵抗する様子はない。

 ボルターはセリのエプロンをもどかしそうに剥ぎ取ると、セリの服の中に手を忍ばせ、まだ成長途上の、ふくらみのない胸に指を這わせた。

『あん……っ、ダメ……っ』

 セリはその……」


「だーかーらー! この前からなんなのそれ!!

 そのイヤらしい声色で朗読すんのホントやめて!

 っていうか何!? その『ふくらみのない胸』っていう表現! 失礼すぎるし!」


 顔を真っ赤にしながら、セリがボルターの両手を退けようと必死に抵抗するが、びくともしない。


「今日のは『私はお皿を洗いたいの! 私の中は洗っちゃダメ!(仮)』ってとこだな」


「全然意味わかんないし!」


「確かにタイトルの切れ味が今一つだよな、再考案件だ。で、そうそう。胸で思い出したわ、お前、俺の弟子になる気ねえ?」


 しばらくセリは、ボルターのことを軽蔑した目で見上げたまま固まった。

 言われたことが理解できずに、すべての動きが停止している。


「……え? 胸からのつながりが全く分からないんだけど」


「俺の弟子になると胸がでかくなる。これマジな。

 お前の場合、育ちきって、完成するサイズがだいたいこれぐらいだと予想される。俺の見立ては結構当たるぞ?」


 そう言いながらボルターは、セリの目の高さまで手を上げると、指を閉じた状態で手のひらをくの字に曲げた。


「けど俺の弟子になるとこれくらいになるのを保証する、こんなもんだ」


 言いながらボルターは指を大きく開き、お椀を持つような形状にした。

 それをセリの胸に触れない程度に近づける。若干背後から胸を揉もうとしているように誤解される格好だが、断じて触る気はない。

 指はあえて動かしてみるが。


「ちょ……っ、その手、すっごいなんか嫌なんだけど。ていうかもう私の背後に立つのやめて」


 セリから脇腹に肘をもらい、ボルターは降参のポーズでセリを解放し、距離をとった。

 セリの顔は眠さと嫌悪感で、眉間に大きなシワを寄せている。


「まあいいや、お前眠そうだし、詳しい話はまた今度な。

 で、言い忘れてたけどよ。お前明日インディと一日どこか行けっつったら行くか?」


「は? さっきからすごい勢いで話が飛ぶんだけど」


「インディがお前と一日町をぶらつきたいんだとよ。お前が嫌なら断ってやるけど」


「……断りづらいよ。剣借りておいて直接返さなかったし、ものすっごい高価な宝石のネックレスもらっちゃったし。さっきも言ったけど、ラーニさんよりインディさんの方がよっぽど困るよ。なんかすっごい手ごわい感じ」


 それに気づいてる時点で十分しっかりした女だよ、お前は。


 世間知らずだが、男を見る目はそこそこ養われているのかもしれない。

 誰がしつけたんだか知らないが、セリを悪い男から守りたかったんだろう。大切に思われていたんだと思う。


 セリを拾って何か月か経ったが、セリは自分の家族の話を一切しない。

 どこかに帰るとも言わない。

 だから敢えて、こっちからも聞いたりはしない。



 次第に眠さに負けて、目のきつさが和らいでいくセリに、ボルターは苦笑した。


 ここで良ければ、ここをお前の居場所にすればいい。

 俺でよければ、守ってやってもいい。


「もしインディに暗い路地とか人気のないところに連れ込まれたら俺の名前呼べよ、すぐぶっ飛ばしにいってやる。ブラジーキみたいに真っ二つにしてやっから」


 セリを助けに森に行った時のことを思い出す。


 まさか何年も使っていなかった相棒(バトルアックス)をまた振り回す日が来るなんて思わなかったのに、こうもセリが頻繁に危険な目に遭うとなると、武器の手入れも日課にせざるを得なくなった。


 もう暴れる気なんかなかったっていうのに。


 えー、ドロドロのぐちゃぐちゃじゃん、ダメだよお、とセリは眠そうに笑った。


 セリも自分と同じ記憶を思い出したようだったが――、


 お前、そこで思い出すなら助けに行った俺がかっこ良かったとか、強かったとかだろ。

 なんでそっちのグロテスクな方を思い出すんだよ。馬鹿じゃねえの。


 文句を言いたくもなったが、眠そうに笑うセリのその顔が、昼間にカロナに向けていた表情と似ていなくもなかったので、ボルターはセリの頭を乱暴になでると、声をかけた。


「俺が腕枕で添い寝するって言いだす前に、さっさと部屋戻って寝た方がいいんじゃないか?」


 セリは誰のせいで遅くなったと思ってんのと文句を言いながら、大急ぎで部屋に飛び込んでいった。


エプロンの後日談短編あります。

↓↓

【番外編】(after.9)だいたいの男はエプロンが好き


良ければどうぞ。

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