【第8話】たまには男目線の話 副題:メントール配合の湿布は意外と年寄り受けが良くないことが多い
ガランタの泉ツアーの評判がうなぎのぼりとなり、観光客も増え、各ギルドだけでなく町全体の収入も着実に増えている。
町長からの特別謝礼がボルター宛に届いたのは今さっきだ。
そこそこの厚さと重みに期待して開封したが、中から出てきたのは観光客向けに企画した、町内限定の振興用金券の束だった。
金券の企画したのは当のボルターだが、こんな形で目にしても怒りの感情しか出てこない。
特にファンシーな色合いが余計に、だ。
ちっ、現金でよこせよな、あのハゲじじい。ケチりやがって。
町長の抜け目ない謝礼に毒づきつつも、ボルターは一連の成果を実感し、満足はしていた。
段取りも安定し、大きな混乱もなく各ギルドが連携している。
観光客の増加により、予想していた治安の悪化も未然に防げている。
もうボルターが最前線に出ていかなくても、各々が自分の判断で対処できており、何も支障はない。
ガイド役のナックだけは変わらず昼夜忙しくしているが、ボルターは久しぶりに拠点の酒場で一人くつろぐ時間を楽しんでいた。
メフェナが淹れてくれた、やたらと雑味のあるコーヒーに口をつけながら、仲間の報告書に目を通す。町長にはオフレコの、仲間内のみでの資料だ。
『ガランタの泉の中毒性、およびその対策』
参加者に発生する精神不安、異常行動の出現率と参加頻度の関連性。
参加回数を増す度に、泉への執着度が強まる傾向などが簡潔にまとめられていた。
あくまでも極秘に、対象者を心理系ギルドの【ビーゼットディ】に誘導し、治療という名の別の依存形成を促進した結果、泉に対しての執着緩和に成功している。
短期間に頻回参加する者ほど、治療への抵抗性と強い離脱症状が見られるが、一定期間、泉との接触を断てば、徐々にではあるが改善の兆しがみられている。
泉との接触回数が低く、十分に接触期間を開けている参加者の場合は、治療期間が短い傾向、もしくは軽度の治療で済むことが確認されている。
現在は、この報告書をもとに予約を調整しつつ、ピーゼットディに介入してもらいながら、円滑な観光事業を維持している。
多少の裏工作はしているが、総じて評判は良い。
新規予約も日ごとに増加、中毒者の発生も相まって、今後の長期滞在する観光客による消費効果は計り知れない。
……まだまだこのネタを使って稼がせてもらわねえとな。
金券の仕返しではないが、ボルターは報告書の内容を町長にはまだ伏せておくことに決め、冷めるほどにマズくなるコーヒーを、眉間にしわを寄せながら飲み込んだ。
……セリの淹れるコーヒーのがうめえな。
それで思い出す。
セリは、ボルターの前で一度も泉の話をしていない。
モンスターに襲われた恐怖が上回っているのだろうか。
だか、参加者の実例では一度や二度襲われたくらいでは、ガランタの中毒性には抗えないことが証明されている。
それくらい泉の中毒性は強い。
セリのことを思い出すと、連鎖的に子供たちをセリに任せきりにしていたことや、セリの手当てもカロナに頼んだきりになっていたことなどを思い出した。
家族のことも考えず仕事に没頭し、成果を出すのは楽しく充実した時間ではあったが、さすがにほったらかし過ぎたかもしれない。
そろそろ親父モードに戻るかな。
苦笑しながら目を閉じて、これからのスケジュールをどう調整するか思案し始めたところに、酒場の入り口で人の気配がした。
なんとなくギルドの仲間とは異なる空気だったので、ボルターは報告書を懐にしまってから振り向いた。
「あれ? 奥さん、どうしました?」
ボルターがセリを拾う以前から、子供のことでいつも世話になっている八百屋の奥さんが、山盛りの野菜を持って立っていた。
八百屋の家にも息子が一人いて、レキサと年が近いこともあり、ボルターが忙しいときにレキサとロフェをよく預かってもらっていた。
「あ、これ良かったら差し入れです。食べてください。
ボルターさんのおかげで町も活気づいて、仕事も忙しくなっただけでもありがたいのに、最近セリちゃんが毎日子供たちみんなと遊んでくれるから、本当にもうありがたくって。
セリちゃんと遊んでもらうと、うちの子、いつもなかなか寝ないのに、疲れてすぐに寝て、朝まで起きないくらいなんですよ。
毎日本当に助かってるんです」
若奥さんは笑顔でボルターのいる奥のテーブルまで歩いてくると、野菜が山盛りの籠を重たそうに置いた。
たしか……あまり体が丈夫ではない女性だった記憶がある。
仕事が忙しいという割に顔色が良さそうなのは、子供の世話が楽になったことが大きいのかもしれない。
レキサとは正反対の、やんちゃで親の言うことにはまず反発、というタイプの子供で、奥さんが手を焼いているという話をよく聞いていた。
「へえ、セリが? そりゃあ役に立って良かったです」
少しは動けるようになったか、と思いながら、ボルターはセリが子供たちの遊びの見守りでもしてるんだろうと想像した。
「セリちゃんの鬼ごっこ、一度見たら目に焼きついちゃって。
仕事の合間で見れそうなとき、ついつい見に行っちゃうんです。
胸がドキドキしちゃうっていうか、なんなんでしょうね、この気持ち」
「は?」
ボルターは途中で話が見えなくなり、思わず素の声を上げてしまった。
「ボルターさんは見たことない? すごいのよ。最近セリちゃんが子供たちと鬼ごっこ始めると人だかりができたりするの」
鬼ごっこで人だかり? 胸がドキドキ? 意味が分からん。
ますます混乱し、ボルターは眉間にしわを寄せた。
奥さんは、そんなボルターに説明するより見た方が早いと判断したようだ。
「今日もきっとこのあとも絶対すると思うから、見てみたらいかが?」
そのあとおもむろに言葉を切り、沈黙が続くのでボルターは不思議に思い、奥さんの表情をうかがった。
すると、奥さんは目が合うと慌ててそむけ、
「……あの、それはそうと、実は……その……ボルターさんに個人的なお願いが……」
言いにくそうに、目元を赤らめ、潤んだ瞳でちらりとボルターに視線を送った。
――ああ、なるほどね。
その視線でボルターはすぐに意を汲み、にやりと笑って席を立った。
「向こうの部屋にいきましょうか奥さん。すぐに気がつかなくて申し訳ない」
八百屋の若奥さんの細い腰に手を添え、エスコートしながら耳元にそっとささやくように尋ねた。
「……で、欲しいのは…………ですかね? 奥さん」
「……っ! 待ってボルターさん、誰かに聞かれちゃうから……っ」
奥さんが顔を真っ赤にして周囲を見回した。
「ああ、すみません。気が早くていけませんね」
これはもしかすると旦那にも内緒で来たかな。
ボルターはついつい猥褻な妄想に顔がにやけそうになるのを抑えながら、酒場の奥にある自室に若奥さんを先に通した。
一瞬、目があったメフェナに「誰も近づけんなよ」とアイコンタクトを済ませると、ゆっくりと、焦らすように部屋へと入り――、
音をたてないようにドアを閉じ、そっと鍵を閉めた。
*********
で、何がそんなに昂る鬼ごっこなんだ?
若奥さんの用件を終わらせた後、ボルターは観光客で賑わいを見せる町を歩いていた。
町全体で大規模な鬼ごっこをしてるとか、セリが本気の鬼の形相で、子供らをマジ泣きさせるまで追いかけ回してるとか、そんな感じか?
確かにドキドキするわな、自分の子供がそんなんに追いかけ回されてたら。
まあ、それはそれで見てもいいが……。
まばらな人だかりが見つかり、遠くから様子を見ると、セリと子供らがいた。
長い髪を高い位置で一つにまとめ、鮮やかな髪紐で細いロープのように編み込んで垂らしている。
セリの凛とした雰囲気を引き立てる、似合いの髪型だった。
子供と過ごすセリの表情は、ボルターがいつも目にする時よりも柔らかい。
セリが子供たちに声をかけていた。
「じゃあ、次は年上チームの番ね。今日のはちょっと難しいよ。
タッチじゃダメね。ぎゅーってできた人の勝ちだよ」
年上チームというのは、レキサから少し年上の子供たち数人のメンバーを指すらしい。
おそらく年下チームの――ロフェを筆頭にした、満足に走れないような子供たちとは分けて遊んでいるらしい。
年下チームは現在、応援担当のようだ。
参加している子供たちの顔触れは、八百屋の子供をはじめとした市場の子供たちばかりで、ギルドの子供たちは混ざっていない。
以前、セリに痛い目をみせられたのが影響しているのかもしれない。
「じゃあ、始め!」
セリの合図で子供たちが一斉にセリに飛びかかる。
なるほど。鬼はセリ以外の子供たち全員っつーわけか。
開始してすぐにボルターは大体のルールを把握した。
子供たちとのハンデのためか、フィールドも決められた範囲で固定されていて、セリはその中から出ないようにして逃げ回るというルールのようだ。
しかし狭いながらも、セリは軽やかな動きで子供たちをギリギリでかわしていく。
身をひねり、時には回転を交えて躱す瞬間、細く結った髪が偶然セリ自身の体に絡みつくのが、どことなく色香を感じてしまい、ボルターは思わず眉をひそめた。
とっさに聴衆に目を走らせると、案の定、口を開けたまま物欲しそうな顔でセリを見ている若造がいる。
ボルターは無意識に舌打ちをしていた。
子供たちからすり抜けていく時に、セリはどこか挑発的にも見える微笑を浮かべながら、わざと煽るように、くすぐっていったり、耳元で何かをささやきながら、子供たちの手を逃れていく。
触れるだけでは手に入らない。自分の腕の中にしっかり捕らえないと、逃げられる。
子供たちの目の色も、いつの間にか本気に変わっている。
ガキ相手に煽るだけ煽りやがって、悪女かよ。
避けながら危うくバランスを崩してしまいそうなときもあるが、セリの脚力を知っているボルターは、それが演技だと気づいていた。
子供たちにしてみれば、それが隙に見えるのか、転べとか今だとか叫びながらセリに突っ込んでいく。
「わ!」
セリが声を上げて動きを止める。
一人の少年がセリの髪を引っ張り、その動きを止めることに成功したのだ。
「やめろよ! セリ姉になにするんだ!」
その少年を今度はレキサが突き飛ばす。
「あ、こら! ケンカしたらおててつないで枠の外行きだよ。仲直りするまで戻ってきちゃダメね」
セリが腰に手を当てながら、年上ぶった態度で注意をしていると、少女がそっと背後から近づき、セリに抱きついた。
「つかまえた! 私の勝ち~!」
「あ! しまった! 油断した~!」
大げさに悔しがるセリに場が和む。そこにさっき口を開けてみていた若造が馴れ馴れしそうに声をかけた。
「よかったら休憩しない? お菓子あるんだ!」
子供たちがはしゃいで「お菓子のお兄ちゃんだ~!」とその男に群がっていく。
「ラーニさん、いつもごちそうさまです」
「いいのいいの、オレ子供好きだし。あのさ、これセリに似合うかなって思ったんだけど、良かったら使ってよ」
「え? 前ももらったばっかりですよ?」
「いいのいいの、たまたま見かけてオレが買いたくて買っただけだから気にしないで。ほら、すげー似合うじゃん」
ラーニと呼ばれた男は、得意げにセリの髪に自分の買った髪飾りを当てがい、ご満悦だ。
見ねえ顔だがどこの野郎だ? チャラついたガキが子連れの女にナンパかよ。
大きく舌打ちしてしまい、自分がだいぶイラついていることをボルターは遅れて自覚した。
何に苛立っているのか、よくわからない。
「ねえ俺らのマスター・ボルター?
同じ仲間内ならともかく、他所のギルドに自分の女を取られちゃったら、そりゃあもうエヌセッズの恥だよね? 俺、取り返してきていい?」
どこからともなくゆらりと現れたインディに、ボルターは冷たい視線を送る。
「中でも外でも食い散らかすお前が言うな」
「それはお互い様。自分だって人のこと言えないだろマスター?
イライラの気迫が殺気になって周りにいた人、離れていったの気づいてない? 大人げないよ。
それよりあいつ、ちょっと前にやらかした【エイチツービー】のメンバーだよ。
仕事探してこの町に来たみたいだけど、ここは【ピーピーアイ】が全面に出てるから、エイチツービーは出る幕なくて残念だね。個人的に下請けの仕事で食い繋いでるらしいよ。
金がないからって、あんな安物で堂々と女の気を引く神経は理解できないね。
ちょっと身の程を思い知ってもらいたいなあ」
穏やかに笑っているように見えるインディだが、目が冷たくラーニをロックオンしているのを、ボルターは見ないでも分かった。
「ってことで、俺たちエヌセッズのマスターも目障りに思われていらっしゃるコバエは、流れ者の俺がスマートに退治するんで、ギルド間のトラブルのご心配には及ばないよ。
そのかわりお礼は、俺とセリちゃんの一日デートでよろしく、保護者さん」
「は!? ちょっと待て! お前勝手に……!」
ボルターの制止を無視して、インディは二人に近づいた。
「セーリちゃん」
「あ、インディさん」
自然な動作でラーニとセリの間に割り込むと、インディはセリに向かってとびきりの笑顔を向けた。
ボルターの知っている限り、この笑顔で5人に1人の女が落ちる。
身長も貫禄も容姿も、明らかにインディとラーニでは格が違いすぎることが、二人が並ぶと歴然だった。
ラーニは割り込んだ相手に文句を言いかけたが、迫力負けし何も言えずにいる。
「ケガしたって聞いたんだけど、もう大丈夫そうだね。
それでね、これをセリちゃんにプレゼントしようと思って、この前作ってもらったんだ」
インディがポケットから出したのは、繊細なチェーンの先に深紅の宝石がついたネックレスだった。
「前のクエストで手に入れた石でね。身代わりの石って言うんだ。持ち主のことを1回だけだけど守ってくれるから……」
説明をしながら、慣れた仕草でセリの首元に手を回し、ネックレスをつける。
指が首元をくすぐるためか、セリの体が小さく跳ねる。
その反応に気を良くして、インディは声のトーンを下げると、セリに顔を近づけた。
「あんまり大きな声じゃ言えないけど、すごい値段で取引される石だから、普段は服の中にこうやって隠して、人から見えないように身につけてね。
ああ、でも俺といるときは見せてくれてもいいけど」
一瞬だけネックレスをつけたセリの姿を眺めたあと、石をつまんでセリの襟の中に入れてしまう。
さすがに戸惑うセリ。
「ダメですよ。こんな高価なものもらえないです。お返しもできないし」
「前も言ったでしょ。お礼はセリちゃんが無事でいてくれること。
セリちゃんが無事でいてくれるなら俺は何回でもこの石を探しに行くし、何回でもプレゼントするよ。だから、ね? 俺のために受け取ってくれる?」
「気持ちはすごくうれしいんですけど……」
石のある場所を手で気にしながら、セリは受け取っていいものかまだ悩んでいる。
「よし、じゃあこうしよう! さっきやってた鬼ごっこで俺と勝負してよ。俺が買ったら受け取って。どう?」
セリはしばらく悩む素振りをみせたが、わかりましたとうなづいた。
「じゃあ決まりだね」
インディはセリの背中に手を添えると、鬼ごっこ用のフィールドの中へとセリをエスコートする。
その際に、立つ瀬がなくなっていたラーニに向かって、薄く見下すように微笑んでいくのをボルターは見逃さなかった。
大人げねぇのはてめえの方だろ。っとに女のことになると見境いがねえのな、あいつ。
面白くはないが、むかつく小僧の鼻を明かせたのは多少いい気味ではあった。
立場上、そういうことができなくなって何年も経つ。
こういう時、流れ者の仲間が羨ましく思うこともある。
「ちょっと、本気が出るおまじないみたいなもの、つけてもいいですか?」
そういうとセリはおもむろに自分のカバンから鈴のついたリボンを取り出し、足首に巻き始めた。
音の感触を確かめるように足を動かすと、涼しげな音色が響いた。
「本気で受け取り拒否する気? なかなか手ごわいね、セリちゃんは」
インディの軽口にセリは静かに微笑むと、さあいいですよと定位置についた。
「じゃあ、遠慮なく捕まえに行くからね」
インディが、まっすぐセリに向かっていく。リーチがある大人の男が両手を広げて襲いかかれば、小柄な女は普通ならすぐに捕まる。
セリは逃げずにインディの懐へ潜るように入っていく。インディの胸に軽く手を添えながら、脇の下をくぐり抜け、背後へ回る。
「あれ、もしかして俺のプレゼント、そんなに受けとりたくない? だとしたらショックだな」
インディの冗談に、セリは返事をせずに目だけで笑っている。
周りでは応援に回った子供たちが、鬼ごっこ終了までのカウントダウンをしながら、声援を送っている。
さっきよりも本気になったインディが、セリを捕まえようと手を伸ばす。
子供たちの時ほどの余裕はないにしても、指先がかすめるほどの間合いで逃れながら、セリはしっかりと相手の目を見て、ギリギリですり抜ける。
手加減しているとはいえ、インディ相手によく動くもんだ。
思っていた以上に体ができているな。
冷静に観察し、セリの動きに感心しつつも、ボルターはなんとなく落ち着かない気分になっていることに気づいていた。
いつの間にかセリの眼から目が離せない。
自分だったら、どうやって捕まえるか。
捕まえたら、あの強い光を放つ瞳が、どのように揺れるのか。
無理やり腕の中に抑えつけて、離さなかったら――。
「俺ね、本気で捕まえようと思った女の子は、一度も逃がしたことないんだよね!」
インディが大人げなく、本気のスピードで手を伸ばす。
強い力で服をつかまれたセリがバランスを崩し、無防備な表情をして後ろへ倒れる。
インディは慌てて腕をつかみ、レンガ敷きの地面にぶつかる前に抱きとめる。
「っとごめん! 怪我した方の腕掴んだかな? 痛かった? とりあえずこれで、痛くない?」
インディは申し訳なさそうにセリの肩に手を当てると、セリは驚いて声を上げた。
「わ、インディさんの、冷たくて気持ちいい!」
インディはセリの反応が気に入ったのか、目を細めて微笑んだ。
「ああ、俺の手当て、気に入った? たくさん動いて火照った体には気持ちいいでしょ?
また、してほしかったらいつでも言って」
「はい! ありがとうございます」
そういってセリは無邪気に笑った。
おいおいなんだよ、俺の時とのリアクションの違いは。
「じゃあ、俺の勝ちってことでいいよね? さてそれじゃあ、鬼に捕まったお姫様をこのままさらってしまおうかな」
インディはいたずらっぽく笑うと、セリを軽々と抱き上げる。
それを見た子供たちがブーイングと共に、一斉にインディに飛びかかっていく。
鬼ごっこはセリを抱き上げたインディが逃げ回り、子供たちが全員でそれを追いかける特別バージョンに突入した。
インディに抱き上げられたまま、セリは楽しそうに声を上げて笑っていた。
ボルターは、人だかりの中からいつの間にかラーニの姿がいなくなっているのを確認すると、自分もその場を離れることにした。
なんっか面白くねえな……。
不可解な胸のざわつきだけが、いつまでも消えずに残っていた。