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【第16話】夫婦喧嘩になった時の第一選択薬は、まずは何より素直に即座に誠実に謝ること!

 レキサが目を覚ました時にはすでに口論が始まっていた。


「ひどい! エチゾウさまのこと、悪く言わないで!」


「何がエチゾウさまだ! てめえ、一晩あけてもまだ依存が抜けてねえな!

 もう絶対エチゾウになんか会わせねえからな!」


「そんなのボルターが決めないでよ! 自分だって奥さんいたのに浮気ばっかりしてたんでしょ! 偉そうに言わないで!」


「俺の話とお前がエチゾウに会うことを一緒にすんじゃねえ! あいつのヤバさを知らねえからお前は……!」


 耐えきれずレキサは頭から布団をかぶり、耳を塞いだ。


 母が出ていってしまったときも、今日みたいな激しい口喧嘩で目を覚ましたことを思い出し、急に胸が苦しくなった。

 頭の中で何かが激しくぐるぐると回り出し、息ができなくなってくる。


 どうしよう……! セリ姉までいなくなっちゃったらどうしよう……!


 レキサが不安で押しつぶされそうになっていると、隣でロフェが、むくりと起き上がった。


 さすがにうるさくて起きたのだろう。そのまま静かにベッドから降りる。

 あまりに静かすぎるので寝ぼけているのかと思い、レキサも体を起こすと、とたんに口論が耳に飛び込んできた。


「浮気浮気ってお前、そもそも俺のかみさんじゃねえだろ!

 偉そうに俺に説教するんだったら毎晩俺の相手でもしてから言えよ!」


 どん、という振動が聞こえ、そのあと間髪入れずに、ぱっちーんと景気のいい音が響いたところでロフェが部屋のドアを開けて何かを投げつけた。


「うるしゃい! ごきんじょちゃんにめーわくでしょーがー!! しじゅかにしなしゃい!」


 そして返事も待たずにぴしゃりとドアを閉めると、ロフェは何事もなかったかのように再びベッドの中へと潜った。

 一瞬静まり返った後、セリの悲鳴が聞こえた。


「ロフェ!? これ枕じゃなくてナックだから!!

 生き物は投げちゃダメ!! いい!? もう絶対ダメだからね!?」


「つーか起きたんなら部屋戻んなロフェ! 顔洗って朝飯食いにいくぞ! 今日は朝から外飯(そとめし)だ! さっさと起きて支度しろ!」


 怒りの矛先がこちらに向いてしまい、レキサはため息をつきながら、布団にもぐった妹をもう一度起こすことにした。


******


 朝から外で食事をするのは、とても久しぶりだった。


 いつ以来だろうかとレキサが思い返してみると、母親が一緒に住んでいた時は、割とよく外で食事をしていた気がする。

 そういえば、母は外食が好きな人だった。

 そんなことをレキサは急に思い出した。


 今日みたいに、場所はいつもパラソルが並ぶテラス席だった。

 朝から外食をした日の母はいつも機嫌が良くて、レキサにとっても朝からの外食は特別な家族のイベントだった。


「おいしいね!」


 ご機嫌で食べるロフェに笑顔を返すのはセリだけで、ボルターは頬杖をつき、家族から顔をそらし、不機嫌に食事をとっている。


 セリはそんなボルターを完全無視だ。


 レキサは心中穏やかではなかった。

 両親が大喧嘩したあと、やっぱりこうやって外で朝食をとった。

 幼いころのレキサは今のロフェのように、何とか場を和ませようと一生懸命二人に話しかけた。


 ロフェはまだ母のお腹の中にいた。

 その時に一体、自分が何の話をしたのかは、レキサはもう思い出すことができなかった。

 

 母が自分に向かって――セリが今ロフェに対してしているように――、静かに微笑んでいたのを覚えている。


 あの時、母が笑っていたから。

 きっと大丈夫、すぐに仲直りするはず。

 そう思って、深く考えずに遊びに出かけてしまった。


 ケンカしている両親を、これ以上見ていたくなかったのもあるのかもしれない。

 ――もう、会えなくなるなんて思いもせずに。


 セリも、いなくなってしまうんだろうか。

 レキサが不安気に様子をうかがっていると、セリがついに口火を切った。


「その顔なんなの!? みんなでご飯食べてる時くらい楽しそうにしてよ! あんた大人でしょ!?」


「ぁあっ!? 誰のせいで俺の機嫌が悪くなってると思ってんだ!?」


「自分のせいでしょーが!」


 あああああああ!! またケンカになっちゃったぁぁぁ!!


 まさかここで第二回戦が始まるとは思ってもみず、レキサがパニックになりかけたところで、ボルターはバン! とテーブルを威嚇するように叩いて立ち上がると、「ギルドに行く!」と言って席を立ってしまった。


 ロフェは二人の剣幕にも全く動じず、父親に「いってらっしゃ~い」とにこにこ手を振ってお見送りをしている。

 レキサと違い、ロフェは二人の険悪な雰囲気にも全く動じていないらしい。


「しぇり、おとーしゃんとけんか?」

「まーねー!」


 セリはバケットをまるで親の敵のように荒々しくかじりながら返事をする。

 セリの膝の上はナックが当然のように陣取ってくつろいでいた。


 どういう理由かは不明だが、数日前までナックはセリとケンカをしていたようだった。しかし、今朝ロフェに投げつけられたナックをセリが介抱したのがきっかけで、無事に仲直りができたみたいだった。


 それは良かったが、レキサの中では、今は何よりも父とセリの仲直りが急務だ。


 レキサがセリに何と声をかけていいか迷っていると、女性が声をかけてきた。

「あれぇ? 珍しくなぁい? 3人で朝から外ご飯?」


 そこにはロフェと同じくらいの年頃の子供を抱えた、ボルターの仕事仲間であるメフェナの姿があった。


「メフェナさん! ……お子さん、いたんですか?」


 セリが驚いたようにメフェナと子供を見比べていると、メフェナはにっこり妖艶な笑みを浮かべた。


「見えないでしょぉ? うふ♡ よく言われる♡

 私たちもこれから朝ごはんなんだ。ここ、一緒に座ってもいい?」


 セリがメフェナたちの分の椅子を隣のテラスから寄せてくると、店員に注文を終えたメフェナがいたずらっぽい笑みを浮かべて尋ねた。


「で? ボルターのお顔にくっきりついた真っ赤な手形は、一体どこのお嬢さんが引っぱたいた痕だったのかしらぁ?」


 セリの顔が一瞬で真っ赤になる。

「いや、あの……」


「手、痛かったでしょ~? 『痛いの痛いの飛んでけ♡』してあげよっか?」

「いえ、結構です……」


 メフェナは椅子に腰をおろすと、長い足を組んだ。

 スカートの側面に深々と入ったスリットから、女性が見てもドキッとしてしまうような脚線美がのぞく。

 セリは慌ててメフェナの足から視線を外した。

 

「なんか、セリちゃんとこうやってゆっくり話すのって初めてかもね~。ボルターと一つ屋根の下で過ごすのってどぉ? もう、ヤられちゃったりしたぁ?」


 食べ物が気管に詰まり、むせまくるセリにメフェナは笑った。


「冗談よぉ。ボルターはどこかの誰かさんと違って、大人の女が好きだから、からかうことはあっても本気で襲われたりなんてないでしょぉ?」


 セリは一瞬、憮然とした表情になったが、まだ赤みの引かない顔を手で押さえながらメフェナに言い返した。


「あの! 前から思ってたんですけど!!

 ここの方々の下ネタとか冗談ってちょっと露骨すぎじゃあありませんか!?」


「え~? そう? エヌセッズじゃこれくらいが普通よ。フ・ツ・ウ♡ 

 親しみやすさが売りのギルドだからねぇ? 気安い感じでイイ♡ って評判もイイのよ?

 で? ケンカの原因はなあに?」


 足を組み直し、メフェナが身を乗り出して話を聞こうとする。

 その際にメフェナの大きな胸が、腕組みと相まって寄せられ、大迫力の谷間となってセリを魅了しにかかる。


 セリは目を背けたくても背けられない不思議な引力に視線を奪われながら、体だけはメフェナから離れようと、背もたれいっぱいに上体を引いた。


「……大したことじゃないんです。

 昨日、ちょっといろいろあって、お夕飯が作れなかったんです。

 夕飯はボルターが作ってくれたみたいなんですけど。

 で、私が朝ご飯の準備しようと思ったら食材がみんななくなっていて、『これじゃご飯作れないじゃん』って言ったら、お前が昨日変な男を連れ込むから悪いって……エチゾウさまは何にも悪くないのに……!」


 セリが思い出したのか、手に持っていたバケットを握りつぶさんばかりに力を込める。


「あらやだ、すっかり夫婦の間合いねぇ」

 ごちそうさまでした、とメフェナはまだ食事に手を付けてもいないのに、食後の挨拶をする。


「確かにご飯を作らなかったのは私も悪いけど、ボルターだって食材全部空にしたら次の日のご飯がないってことくらい分かるのに……っ」


「大丈夫よぉ。そんなことなら、帰ってきたボルターを笑顔で出迎えてあげればすぐに仲直りよ♡

 もちろんこういうことも忘れないで? 『お帰りなさいボルター、ご飯にする? お風呂にする? それとも私の……』」

「メフェナさん!!?」


 悲鳴に近い叫び声を上げて制止するセリに、メフェナは楽しそうに笑っている。


「……嘘」

 和やかな雰囲気に水を差したのは、ずっと黙って二人の話を聞いていたレキサだった。


「ぼく、やっぱりお父さんにちゃんとあやまるように言ってくる!! だからお願い! 仲直りして!! 急にいなくならないで!!」

 レキサは必死にセリに向かって懇願すると、椅子から降りて、父のいるギルドまで走り出した。


「あ! ちょっとレキサ!?」


「大丈夫じゃない? エヌセッズのギルド、すぐそこだし、ここから見えるし。

 一人で行かせてあげたら?」


 立ち上がったセリをなだめて、メフェナが子供に食事を食べさせ始める。

 走っていくレキサの背中を眺めてメフェナが呟いた。


「もうちょっとで2年か……」


 メフェナの静かな口調で、セリもなんのことだか見当がついた。

「もしかして、お母さんがいなくなってから、ですか?」


 セリの問いに、メフェナは静かな微笑で返した。

 セリは前から疑問に思っていたことを、思い切ってメフェナに聞いてみることにした。


「…………メフェナさん? もし……もし、旦那さんが浮気とかしたら、メフェナさんは、どうするんですか?」

 メフェナはゆっくりと視線をセリに移すと、くすりと笑った。


「そうねぇ、とりあえず二度とオイタができないように調教しちゃうかも♡

 その辺の女じゃあ満足できないような体にしてあげれば変な気も起こさなくなると思うのよねぇ……」


 朝にふさわしくない妖艶な空気が辺りに漂う。

 セリは一瞬その空気で怯みそうになるが、なんとかこらえて次の質問を試みた。


「じゃあ……結婚したのに別れちゃう時って、どんなときですか?」


「どうだろ、子供がいなければ相手に飽きたり、嫌いになったら別れるってなもんだろうけど。

 子供がいた場合はどうかなぁ。

 うちはラブラブだから考えたことないけど、もし、子供に危害を加えるような相手だって分かったなら別れるかなぁ。

 あ、でもその前に死んだ方がマシです、殺してください、ってくらいな目に遭わせてからだけどねぇ?

 あとは家族を裏切るようなことをしたとき。

 どうしても許せないことをしたとき。

 もう、この人とは家族でいられないって思ったとき……うーん、そのときになってみないと分かんないなあ。

 こういうのって、周りからしたら大したことなくてもぉ、当事者にとっては大問題ってケースもあるしねぇ」


 それでも、両親と死に別れたセリからしたら、どうして敢えて離ればなれの選択をしてしまえるのか、理解できなかった。


 大人なんだから話し合いでなんとかならないのだろうか。

 子供だってケンカをすれば謝るし仲直りだってする。

 どうして大人にそれができないのだろう。


 セリは隣で口の周りをベチャベチャにしながら食事をしているロフェを見る。

 自分はたぶん、ロフェの歳くらいに両親が殺された。


 もちろん自分に親がいたときの記憶はない。捨てられたと思い込んでいたくらいだ。


 きっとロフェも母親の記憶がないまま成長するのだろうか。


 母親は生きているのに。

 ボルターの浮気のせいで。

 セリは悲しい気持ちになってロフェの頭をなでた。


「セリちゃんって子供好き? 時々この辺の子供たち集めて遊んでるよね?

 このくらいの子供って面倒みれたりする?」

 

 空気を変えようとしたのか、メフェナが明るい声で、自分の膝の上の子供の頭をなでながらセリに話しかけた。

「あ、はい。むしろまだそんなに動き回らないくらいの方が目が行き届くので見やすいです」


「そしたらさ、時々半日くらいお願いしたりしてもいい?

 300yでどう? お昼ご飯も頼まれてくれたら400y」


「そんなに!? ダメですよ! だって私、いつもボルターからもらってる分だって……トータルでたしか1日……」


 計算を始めるセリを、メフェナが真面目な表情で制した。


「セリちゃん、不思議に思ったことはなぁい? 普段買い物している物価とセリちゃんのお給料。帳尻が合わないって思ったことは?」


 核心をつかれ、セリは一瞬口ごもったが、前々から疑問に感じていたことを口にする。


「たしかにボルターの手当ての値段とか、エヌセッズの入会金の値段とか、ちょっと高すぎるって思いました。

 ……でも! 私のお給料は、インディさんが考えてくれたものだから……っ」


「それをボルターが後でゼロ一桁削った金額にすり替えたって言ったら信じる?」


 真剣な眼差しでのぞき込まれ、セリはメフェナの言っていることが真実だと理解した。

 前々から怪しいとは思っていたが、インディへの信頼があったからこそ疑わずにいたのに。


「……あのおっさん、やっぱり許さないかも……」


 セリは憎しみを込め、モーニングプレートのハッシュドポテトにフォークを突き立てた。

 今のセリの脳内では、目の前のハッシュドポテトはボルターの姿である。

 ケチャップがかけられたポテトはまさに、セリの中では血まみれのボルターにしか見えない。


「本当はね。セリちゃんが自分で疑って気づくまで教えるなって言われてたのよねぇ。

 こういうことは自分で学んでいかないとダメだっていう、ボルターの教育方針?

 でもさぁ、まわりに厳しい大人ばっかりだとつらいんだよねえ、私の場合は。

 自分が『独りだ』とか『誰にも甘えられない』って思うと、生きてくの……しんどいじゃん?

 私もなんだかんだ、ボルターのおかげで助かってるしぃ。

 だから、優しい大人代表として? あと、ママ友的な立場として?」


 メフェナの話によると、本来ギルドに在籍し続けるには、登録料を払う以外にも、最低限の実績を積み上げていかなければならないらしい。


 メフェナは、出産と子育てのためにギルドの継続契約が切れてしまうところを、ボルターの計らいで、ギルド拠点である酒場のバイトと、ボルターのちょっとした手伝いをすることで継続が可能となっている。

 あまり大きい声では言えないが特別待遇なのだそうだ。


「なんかさぁ、自分で望んで母親になったんだけどさぁ、今まで自分が築いてきた経験やキャリアがこのままなくなっちゃうんじゃないかとか、自分が『エヌセッズのメフェナさん』じゃなくなって、『ただのお母さん』ってキャラになっちゃうんじゃないかって、時々すごく不安になるんだぁ。

 どこかで家族以外の誰かと繋がりを持ちたいっていうか、時々無性に子供から離れて一人の自分に戻りたいっていうか。

 子供が嫌いなわけじゃないんだよ。

 でも……あ、ごめん……。なに愚痴ってるんだろうね。

 セリちゃんみたいな若い子には、分からないよねぇ……」


 セリが口を開きかけた時、慌ただしく駆けていく集団がいた。

 ギルドローブに身を包んだ【ラクタム】と、セリは分からなかったが広域魔法(ブロードスペクトル)キノロンでおなじみのギルド【エヌキュー】だった。


 集団の中にいたチアムがセリに気づき、駆け寄ってきて、なぜか直立で敬礼した。


「これはこれは! 枯れ専のセリ大先生じゃあないですか!

 昨日の修羅場は、実にいいものを見せて頂きました! あざっした!!」

 そして深々と最敬礼で頭を下げる。


 セリはいろいろと突っ込みを入れたい気持ちをぐっと抑えて、一番聞きたいことに絞って質問をした。

「…………なんか、慌ただしいけど何があったの?」


「森の西側でクロストリンが大量発生したから駆除に行くところ! 危ないからしばらく森は立ち入り禁止だからね!」


 チアムの説明に、メフェナが補足する。

「クロストリンってさぁ、たしか猛毒系のモンスターだったよね? 芽胞とかいうめちゃくちゃ守備力の高い甲殻持ってるってヤツ」


「大丈夫なの?」

 心配げなセリをよそに、チアムは笑顔で親指を立てる。


「任せて! あいつらの芽胞なんて私の一突きで串団子みたいにしてやるから!

 ふふふ……今宵のロッドは血に飢えておるぞよ……」


 今日チアムが装備している杖は先端に鋭い針のような刃物がついている。

 セリは自分が刺されるわけでもないのに、なぜかその先端を見ると背中がざわざわして逃げ出したくなった。


 どういう構造になっているのかは不明だが、針の先端から謎の液体が(しずく)となって垂れている。

「う、うん。あんまり痛くしないであげて……」


 チアムたちが走り去っていく後ろ姿を見ながら、セリはあることに思い至った。


 森の西側でモンスターが出現、ガランタの泉は……反対の東側だった。


 ――今行けば、絶対に誰にも見つからない。


「メフェナさん! ちょっとだけ……ちょっとだけロフェをお願いしてもいいですか?

 すぐに帰ってくるんで! そのお礼に1回、タダでお子さん預かりますから!」


「あら、言ったわねぇ? じゃあ、ご飯食べ終わっても戻って来なかったら、レキサくんのこともあるし、ギルドで待ってようかな? それでいい?」


 セリはお辞儀をすると、森に向かって駆けだした。

 その後ろをナックも追いかける。


 メフェナは小さく「いいなぁ……身軽でさ」と呟くと、ロフェの口の周りをふき取りながら話しかけた。


「ねぇロフェちゃん? 私ね、ロフェちゃんのパパに、ポンタが小さいうちは、危ない仕事はするなって言われてるんだぁ。

 セリちゃんって、危ないことした後はパパに怒られたりしてる?」


「うん! おとーしゃん、しぇりにもしゅっごいおこるんだよ!

 でもね! しぇりはね、おとうしゃんよりろふぇのほうがこわいのよ!

 おとーしゃんがおこってもしぇり泣かなかったけど、ろふぇがもうケガしちゃだめっておこったら、しぇり、泣いてごめんっていってくれたもん」


 妙にお姉さんぶったしゃべり方でロフェが話すのを聞いて、メフェナは穏やかに微笑んだ。


「そっかあ……ポンタ? アンタもママが怪我したら怒る?」


 ポンタと呼ばれた息子は、ベイクドビーンズを口に詰め込むのに夢中で全く話を聞いていないようだった。

 リスのように膨れた息子の顔を見て、メフェナは苦笑し、大きく息をついた。


「そっかぁ、そうだよねえ……」


 メフェナが上を見上げると、ディープブルーのパラソルの合間から、淡く爽やかな蒼い空が見えた。


 今日は一日、穏やかな晴天が続きそうだった。


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