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最果ての私より  作者: 犬吠なぎさ
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"あおい”と"なぎさ"

こういう雰囲気の文章を書いてみたいなーって思って夜のテンションで見切り発車しています。

大まかなプロットくらいは書いてありますけど、執筆速度はめちゃくちゃ遅いので、不定期更新ですが、良ければ読んでいってください。


かつて、世界がまだ正常であった頃に夜を照らし、海をゆく人々の道しるべとなったという塔には、少女(かみさま)が今日も一人で旅人(亡者)を次の世界へと送り出している。

そんな噂話(ものがたり)が実しやかに語られ、たくさんの旅人がその塔を探しに再び旅路に就くという、終わってしまった世界。


これは、送り出すという役目を背負ってしまった孤独なかみさま(いけにえ)ものがたり(日記)



この世界が終わってしまった理由はなんだったのか。

疫病だったかもしれないし、戦争だったかもしれないし、もっと唐突な何かだったのかもしれない。

とにかく世界は一瞬で儚く砕け散って、私は気が付けば名を奪われて、この塔へ縛り付けられて悠久の時を過ごす羽目になった。


老いることも死ぬこともできないこの役目へのせめてもの救いのつもりなのだろうか。

紅茶を望めば茶葉や豆に菓子などが、娯楽を望めば本や画材に遊具などが。

望めばある程度のものはいつの間にか塔の中に用意される。


紅茶を淹れて、本を読み、たまに来る旅人を待つ。

それが私に与えられた役目(のろい)である。





朝も夜もなくなり、ずっとずっと薄白い空が続く岬に。

一人の旅人の訪れを汽笛が伝える。

 

 それによって、叩き起こされた私はいつものように紅茶を淹れ、カップを用意し、お茶請けを用意する。

 前の旅人からは15日くらいか。今回の間隔は短い。

 長いときには数か月こないものだ。

 姿見を確認し、ちゃんとまともな顔をできているかを確認して、席に着きにして旅人を待つ。

 

 

 …、おかしい。汽笛が鳴れば、長くても数分でここまで来れるはずなのに。

 すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干して、ついつい気になって扉へと近づいた。そして、ドアノブへと手をかけた瞬間。


「きゃっ」

「へ?うわぁぁぁ」

 唐突に扉が引かれて私は、旅人の上に倒れこんでしまった。

 いたた、と私の下で呻いた女の子は私の顔を確認するが否や、ぱしゃりと手に持っていたカメラのシャッターを切った。

 なんか…、変な子がきたなぁ…。

 そう思ってしまった私のことを責められるものなんていないはず、だ。

 

 

「いやー、ほんと失礼しました。ついつい切り取りたくなるような表情で」

 あっけからんとした表情で彼女は少し傷ついてしまったカメラをなでながら私に言った。


「いや、まぁ。いいのだけども」

「本当に申し訳ない。ところで、貴女が“かみさま”ですか?」

「…ええ、”奴隷(かみさま)”って呼ばれているらしいわね」

 ここに来た旅人たちは例外なく次の世界に旅立っているはずだから、一体どこからそんな噂が流れたのかはわからないけれど、ちょっと前からそんな話をする旅人が増えてきた。

 表情が若干暗かったのか、それとも彼女に心を読み取る力があるのか。

 彼女は少し申し訳なさそうな顔をして。

 そんな彼女に、自分の至らなさを恥じたりしながら、ポットに茶葉を入れる。

 

「うーん、大変なんですね」

 薄暗い塔の中を見渡しながら彼女は言った。

 

 ええ、大変なのよ。と返したい気持ちに駆られながらも私は、いいえ全然慣れっこだわ。と答えようとして「そういえば」と彼女の言葉にさえぎられた。

 

「私は白川 葵っていいます。貴女の名前はなんていうんですか?」

 名乗ろうとして、自分には名前がないことを思い出し、適当な名を考えようとして、「名前はないわ」と正直に答えてしまった。


「んー、じゃあ。なぎさちゃんってことで」

「へ?」

 

 彼女の言葉の意味を一瞬理解できず、お湯を注ぐ手を止めて聞き返してしまった。

その言葉を否定の意と捉えてしまったのかしょんぼりとした表情で「だめでしたかね」と言われてしまい。

「いや、いいけれど…」

 ちゃん、って…。

そんなに子供っぽいかしら。私。

 成長することもできなくなった自分の胸と若干のふくらんでいる彼女の胸を見比べながら、内心、大差ないじゃん。と思いつつ。

 私は、もやもやを淹れなおした紅茶と一緒に飲み干すことにした。

 

 

 一体何なのか、この子は。ちゃんと自我を保っている旅人というだけでも珍しいのに、ここまで生き生きと感情豊かな旅人など初めてで。

「それで、なぎさちゃんはいつからここに?」「もうずっと」


 どういう風に扱えばいいのか全く分からず。

「えへへ、周りの風景がきれいすぎて、ついつい写真を撮っちゃって」「一体どれだけ撮ったのよ」「…200くらい?」


 戸惑いながらも彼女との会話は楽しくて。

「紅茶が好きなの?」「いや、別にそういうわけじゃないんだけど」「このお菓子おいしいね」「それ、私のお気に入りなの」「へー」

 

 あっという間に時間は流れて行って

「すごいね、この本の量」「時間だけはあるから」「あー、ありがとうね」「どうしたの?」「いや、感謝したくなっちゃって」「変なの」

 

 何杯目かのお茶を注ごうとしたときだった。

 

「ん?どうしたの?ってうわ、なんか透けてる!」

彼女の体が少しずつ薄れていっていることに気が付いたのは。

そして思い出したのは。

初めてこの塔へと縛り付けられたときに机に置かれていた手紙の内容を。


「葵、“かみさま(灯台守)”として貴女の望みを受け取る時が来たわ」

「え、どうしたのなぎさちゃん」


 戸惑う彼女を無視して、私は棚から真っ白なレターセットを取り出す。

「貴女の望む、次の世界(じんせい)を記しなさい」

「なに、言ってるのさ。私、まだ」

 ここで話を続けたい、と彼女は言う。

 けれどもそんな時間はもう残されてはいない。


「時間がないの。貴女が完全に消える前にそれを書いて、外の白いポストに入れなければ、貴女の旅路は閉ざされてしまうのよ」

 そう、この場所に長くいた旅人は消滅し、二度と旅路につくことはできなくなる。

 そんな注意事項を。

 

「…、わかった。でも、ひとつだけお願いがあるの。私と一緒に写真を撮ろう」

「ええ、でも、はやくしてね」

 泣きそうな顔で彼女は最初に持ってたカメラとは別のインスタントカメラを取り出してそう言って、ペンを持った。

 

 悩める時間はあまり残されていないものの、精いっぱい紙に願いを書き綴り。

 彼女が手紙を書ききった時には、かなり彼女は透けていて。

 一緒に写真を撮るときには、「これ、私写れるかなぁ」なんて笑って。

 出てきた写真を見て、写ってることを確認して喜んで、「もう一枚!」なんてシャッターを切って、限界が来たのだろう。

カメラを私のほうに投げ渡して、手紙を投函して。


「ばいばい!なぎさちゃん、また会おうね!ありがとう」

 

 彼女は、次の世界へと旅立ったのだった。

 インスタントカメラから、最後の写真が吐き出され。


「ひっどいかお」

 二人して顔を真っ赤にして涙をこらえた写真に苦笑して。

 

「葵、また、会おう」

 そんな私の声は、波音にかき消されたのか、それとも。


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