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権利を買い戻させていただいた作品

まつも虫物語

作者: 星野☆明美

まつも虫物語

   星野☆明美



プロローグ

松本さんは小学校の裏庭で、他のクラスメートたちとそこに生えている植物やそれについている昆虫などを見ていました。

「松本さん。サルビアの花のみつ、甘いよ!」

女の子たちが声をかけました。

「本当?」

赤いサルビアの花はあちこちからはずれるようになった部分が出ていて、引っ張り出すと白いふくらみの中にみつが入っていました。

「甘い」

一つ味わうと、次のも欲しくなりました。気がつくと次々と味わっていました。

「わー、松本、今、アブラムシも食っただろう」

「食べてないよ」

「いや食べた。アブラムシ!アブラムシ」

男の子たちがわいわい言い出しました。

「食べてないもん」

「松本ムシー。松本ムシー」

「違うったら」

「まつも虫」

わはははは、と男の子たちがはしゃぎたてました。

それまでみんな、「松本さん」と呼んでいたのに、それ以降「まつも」とか「まつも虫」とか呼ぶようになりました。

松本さんは図鑑でマツモムシを見ました。ゲンゴロウみたいな水中生物で昆虫でした。

「マーツモームシー、マーツモームシー♪」

ノートの落書きで手が6本、足が2本羽根が生えていて触覚があるかわいい「まつも虫」が出来上がりました。



1☆洋館と羊羮

高橋一馬という人の家に行くと鶴田進一という人がいました。二人はそこの洋館に住んでいました。

「お茶うけに羊羮があるよ」

「ほんとー?」

「冷蔵庫開けて自分でとって。セルフサービスだから」

「ぶー」

まつも虫は台所に行き、3つある冷蔵庫の真ん中の扉を開きました。


「ハロー」

「ハロー」

「水よーかんと、小倉よーかんと、練りよーかん、どれが良い?」

冷蔵庫がまつも虫に聞きました。

「小豆が好きだから、小倉よーかん」

すると、一口大に切られたよーかんたちがざわつきました。

「羊羮第101号参上」

それは四角い羊羮で、かわいい顔と手足がついていて動いていました。

「で、あんたは俺を食べるの?それとも・・・」

「それとも・・・?」

「友だちにはなりたくないか?」

「うーん」

まつも虫は6本の腕を組んで悩みました。

「友だちになっても良いよ。いただきます」

「ちょっと待て。お前は友だちを食べるのか?」

「だってお茶うけの羊羮だもん」

「友だちを大切にしろよ」

きらーん。羊羮第101号は目を輝かせました。

かっこいー。



2☆クラスメートが出てくる

松本さんは自分のノートに「まつも虫物語」を好き勝手に書いていました。

登場人物は主にクラスメートたちで、それぞれ口ぐせとか前に言った印象的なセリフとか書き綴られていました。

主人公は「まつも虫」です。

休み時間に一心不乱に書いているから、後ろの席の女の子たちがそれを見て、松本さんがトイレに行った隙に机からノートを出して見ました。

「あっ、それ!」

「まつもー。大人になっても物語書いてね」

とその女の子は言いました。松本さんは嬉しくて、絶対、いつまでも忘れないでいようと思いました。

あまり文字はきれいではなかったけれど読みやすいように書いていきました。

そうこうしているうちにノートは5冊目に突入しました。

クラスメートの女の子たちの間でノートは回し読みされました。

「私、てきとーに書いてるからなぁ。もっと面白い話にしよう」

松本さんはある日、何を思ったのか、トーベ=ヤンソンのかいたムーミントロールシリーズの童話を丸写ししました。

それを読んだ友だちは「面白くない」と言いました。

おかしいなーと思いましたが、あとから松本さんは、そういう風に他の人がかいたものを丸写しすることを「盗用」とか「剽窃」とかいうやってはいけないことだと知りました。



3☆SF小説と出会う

松本さんは図書室が大好きでした。

新しい本棚が入ってきて「宮沢賢治全集」が置かれました。海外の少年少女文学も入ってきました。カウンターの下の棚には海外古典SFがありました。

松本さんはそれらを読みあさりました。

本の中にはいろんな世界があって、いろんな人生がありました。

買い物に行くと、まず本屋さんに行き、漫画と小説の文庫本を買ってもらうと、あとは文句を言わずに荷物持ちでついていくのでお母さんから重宝がられました。

夕方からはアニメが放送されていたので、それを食い入るように見ていました。


ある時「インナースペース」という言葉を知りました。

私たちは

大宇宙の中の地球という星に住んでいますが、私たち一人一人の中にも内的な宇宙があるという内容でした。

自分の心の中にもう一つ宇宙があって、そこにはもう一人の自分と、自分をとりまく世界があるのです。

「物語や小説を書くとき、登場人物は作者の頭の中だけに存在していたものが、2次元的に現実に存在するようになる」

何かの本にそんなことが書かれていました。

松本さんはそんな時、新井素子というSF作家の本に出会いました。

この作者は、本編も面白いのですが、必ずと言って良いほどついてくる「あとがき」で「SF小説を書きたい!」という気持ちが溢れています。松本さんはそれに感化されてしまいました。

「あー憧れのーSF作家にーなりたいなならなくちゃ絶対なってやるー♪」

とポケモンの替え歌を歌う松本さんでした。



4☆ブームに踊ろう

松本さんは小中学校の頃は勉強をほとんどしませんでした。でも高校と大学では本気で猛勉強しました。

「本当は小説を書きたいけれど、まだ実力不足だ。今は一般知識を勉強して、大学に進学できるくらい頑張ったら本当にSF作家になれるかもしれない」そう思って一生懸命でした。

大学に無事入学すると、いの一番でSF研究会というサークルに入りました。

大学生になっても気持ちは小さい頃のままで、周りの人が大人っぽく見えてそれがコンプレックスでした。

「副会誌に短編を書いてね。お題は『ブームに踊ろう』」と先輩から言われました。

それで、松本さんは「バビロンまでは何マイル?」という短編SFを初めて書きました。

マザーグースの詩をベースに、ネオバビロニアという移動する国にキャンドルライト号というはしけでみんなが移り住むのですが、逆にネオバビロニアの住人の方が田舎へ移り住むのがブームになる、という内容でした。

他の人が感心してくれて、松本さんはとても嬉しかったのです。

その後、大人になって、果たして松本さんはSF作家になれたのでしょうか?

あなたはどう思いますか?



5☆高橋一馬と羊羮

高橋一馬くんというのは松本さんの小学校のクラスメートの一人でした。額にx印の傷があって、無口で、でも大事なときに意見が言える凄い人でした。恋愛感情は他の男の子に持っていましたが、なぜかこの高橋一馬くん、松本さんの中でキャラクターとして定着してしまい、大人になってもSF小説の主人公にされたり、大変なことになっています。

そして、高橋一馬くんは、高橋山という山の山頂付近に建っている洋館に住んでいて、いつも羊羮を食べているという設定が松本さんの頭から離れません。

高橋一馬くんには鶴田進一くんという親友がいました。

小学校の卒業アルバムには原爆記念館に修学旅行で行ったときに展示物を見ている二人の写真が載っています。

今ごろどうしてるかなぁといつも松本さんは思うのでした。

高橋一馬くんだけじゃありません。たくさんのクラスメートたちが元気でいればいいなと思うのでした。



「よーかん110号参上」

「よーかん101号参上」

「よーかん・・・」

「もう、ええっちゅうんじゃー」

一馬という人がぷちきれました。

羊羮たちは隊列を組んで一馬という人に従いました。

まつも虫は「へえー」と感心して見てました。



おしまい


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