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(元)宮廷魔導師、舐めんなよ!

ジェドの補助魔法が炸裂?

 改めて街の中を歩いていると……

 なるほど、そこかしこ至る所から視線を感じる。

 それが好奇の目なのか何かしらの目的があって寄せられる目なのかは分かりかねるが……

 だが、雰囲気からして歓迎ムードではないのは明らかだ。


 空を見上げるとまだ太陽は高い。

 昼過ぎに着いたんだ、結構時間が経っているとは思ったが、案外そうではないらしい。

 ふと、『酒場』の看板が目に留まった。

 頭を冷やすのに酒の力を借りるのは何だか違う気もするが致し方ない。

 たまには酒を浴びるように飲むのも悪くないだろう。

 俺はダーン! と扉を勢いよく開けて店内へ入った。

 客の目が一斉に俺に向けられる。

 うぉ……、なんかすげぇ奴らばっかりだ……

 モヒカン、スキン、ムキムキ、革ジャン、トゲトゲ……

 いやいや、そんな視線気にしてちゃいけねぇ!

 俺は気にしないフリをしながら、カウンターへと向かった。

 カウンターの向こうには丁寧な手つきでグラスを磨く男がいる。

 多分、店主だな。

 カウンターに座ると、ジロリと目を向けられた。

 ちょっ……こわ……


「あ? 領主の息子が何の用だ?」

「何か、飲むものを出してくれないか? 酒だ」

「へっ、いちいち注文するのも偉そうだな」


 へっ、いちいち注文するのに皮肉を言うのか、このハゲが!

 ……

 て、ここでいちいち腹立ててるわけにもいかないのか……

 今日は浴びるほど飲むつもりで来たんだもんな。


「いいから」


 俺は店主に向かって手を差し出した。


「いいから何かくれ」

「……ちっ!」


 舌打ちしながらも、店主はカウンターの下でゴソゴソと手を動かし、ドン! とカウンターにグラスを置いた。

 俺はそれを手にすると、グッと勢い付けて煽った。

 喉をガーッと焼けるような感触が通り抜ける!

 胃が痛い! 熱い! 帝都でもここまでアルコールの度数が強い酒はなかったぞ!

 一気に飲み干したせいか、若干頭がクラクラする。

 なるほど、最果ての酒は抜群にきつい!


「ほぅ? いけんじゃねぇか?」


 店主がイタズラっぽく笑い、また酒をグラスに注いだ。

 ジワっと溢れ、いくらかはグラスからこぼれてしまうほどに。

 俺はまた、それをグイッと煽る。

 更に頭がクラクラする。

 目元がしぱしぱし始めてきた。

 相当強いな、これ……

 店主がもう一杯グラスに注いだとき、


 急に肩を掴まれて力任せにカウンターから引き剥がされた。


「領主の息子かぁ、やけに調子が良いじゃねぇか」


 あぁ、なんてこたない。

 チンピラが三人ほど絡んできただけか。

 俺は肩に乗せられた手をペシッと弾き飛ばした。


「悪いな、一人で飲みたいんだ。邪魔しないでくれ」


 俺だってムシャクシャする時だってある。

 現に、今日は想像もしていなかったことばかり起こってるし、そのせいでめちゃくちゃ疲れたし、正直飲まなきゃやってらんねぇ。

 そう思い、カウンターに向き直ってグラスを掴んだその時。





 ベキャァァァァァァァ!





 突然、頬に鋭い痛みが走った!

 同時に俺はその勢いで背中から床に倒れてしまった!

 倒れたことが分からず、しばらくは頬の痛みでうずくまっていた。

 すると今度は腹に痛みが走る!

 思いっきり蹴り上げられたのだろう、俺はゴロゴロと床を転がり、壁に叩きつけられて止まった。

うっ、蹴られたせいで胃の中のものが込み上げてくる……

が、我慢だ我慢……


「おいおい、領主のお坊ちゃんごときが俺たちにナマ言ってんじゃねぇぞ?」


 声のする方を見上げると、先ほどのチンピラたちが目に入った。

 俺がいたカウンターから俺を見下ろしてニヤニヤしている。

 はっ、どいつもこいつも頭悪そうな顔だなぁ……

 それにしても、三人ともリーゼントヘアとは。

 右から、金、金、黒の髪の色、か。

 なかなかオシャンティだな、おい。


「おい、こいつ。何やってんだったか?」

「宮廷……なんだったか? キュウコンか?」

「 何だか知らねぇが、お高く止まってんじゃねぇぞ? 魔法しか能がねぇ、ガリ勉野郎が!」

「それより知ってっか? 魔法使いっちゃぁ、戦争じゃケツの方にいてみんなビビりまくってんだとよぉぉぉぉぉぉ!」

「ケラケラケラ! 何だよ、それは! ただの弱虫集団じゃねぇか! 何とも気にいらねぇなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 センターにいた黒髪リーゼントがそう笑い飛ばしながら近づいて来た。

 俺は痛む腹を手で押さえながら何とか立ち上がった。

 店主は……、おぉ、目を伏せてカウンターの下でグラス磨いてやがる。

 見て見ぬ振りかよ。


 それにしても、魔法使いを弱虫扱いとは……

 ケツの方でみんなビビってるってか。


 ーーははは。





 ……






 上等じゃねぇか……!






 黒髪リーゼントは俺の近くまで来ると、また声を荒げた。


「おぃぃぃぃぃぃ、領主の息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」

「……さい」

「はぁぁぁ? 何だよ、大きな声で言ってみなぁぁぁぁぁぁ?」


 俺は黒髪リーゼントの胸ぐらを掴むと、グイッと自分の顔の近くへ引き寄せてやった!


「……んぉ!? な、ななな!?」

「……聞こえなかったか?」

「へ?」


 自分でも意外だったが……

 どうやら俺は、頭に来ると多少乱暴になるようだ。


「……うるさいって言ったんだよ」

「な、な、何がうるさいだ、このやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 胸ぐらを掴まれたまま、黒髪リーゼントは俺に再度拳を上げた!

 それは見事に俺の額にジャストミートした。


 ーーが!


「っっっいーー!」


 黒髪リーゼントは、自分の拳を握りしめて悲鳴を上げた!


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 当たり前だ。

 お前らみたいなのに好き勝手やられてたまるか。


「おい、お前、宮廷魔導師を……魔法使いをバカにしたな?」


 俺は痛がる黒髪リーゼントをもう一度引き寄せた。

 その顔からは血の気が引いて青くなっている。

その様子からして明らかに怯えていたがそんなのは知らん。

 第一、気に入らないとかいう理由で喧嘩を売ってきたのはお前らだからな。

 売られた喧嘩は買ってやるさ!


「いいい、いや、ち、ちちちち、ちが、ちがうぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーー!!」

「だったら馬鹿にすんな!」


 俺はそう弁解するこいつの顔に、パンチを叩き込んでやった!

 殴られた黒髪リーゼントは、ギュルンギュルンときりもみ回転しながら、反対側の壁へと叩きつけられ、そのまま床に落ちていった。


「あ、あら?」

「……し、死んだ?」


「死んでない!」


 俺の一言に、残りの二人はビクリと肩を震わせる!


「いいか? 宮廷魔導師だからって、攻撃魔法や回復魔法だけだと思ったら大間違いだ! 俺は補助魔法が得意なんだよ!」


 なんて偉そうなこと言ってるが、俺がまともに使えるのは補助魔法だけだ。

 第一、攻撃魔法と回復魔法が苦手なんて恥ずかしくて言えないじゃないか!

 ここは強引に肯定した言い回しをさせてもらうぞ!


「今俺自身に施した魔法は、『全能力向上(ステータスアップ)』の魔法だ。常人の二倍から三倍は身体能力が向上してる。故に殴られても……」

「「こ、このやろーーー!」」


 て、説明してる間に殴ってきやがった!

 ガン! ゴン! と鈍い音がして、二人とも痛そうに自分の腕を抱え込んでいる。

 全く、黒髪リーゼントを見てないのか?

 バカなんじゃない?


「殴られても俺は平気だ。今の俺の硬度は鉄に匹敵する。どうだ、骨が砕けるくらい痛いだろうが」


 俺がそう言うと、二人とも激しく頷いている。

 だろうね、相当痛いと思うよ。


「そして、その脚力は目にも留まらぬ速さで相手の懐に潜り込む!」


 宣言通り、俺は一瞬で二人のところへと移動した。

 おぉ、やっぱビックリしてる!


「さらに付け加えると……、蹴りなんて食らった日にゃ、相当のたうちまわることになるが……」


 俺がバチバチ睨みを効かすと、二人はもはや涙目になっていた。

 でもダメ。許さない。

 俺はニッタァァァァと笑ってみせた。

 

「ーーいいよな?」


 言うが早いか、俺は二人の鳩尾に蹴りを打ち込んでやった!

 二人は絶望に満ちた表情&衝撃で口から汚物を撒き散らしながら、黒髪リーゼントと同じく、壁にギュルンギュルン回りながら衝突、床に崩れ落ちていった。


「(元)宮廷魔導師、舐めんなよ!」


 おし、決まった!

 さすが俺!

 て言うか痛い。頬と腹が痛い!

 お陰で酔いが覚めたわ、コンチクショウが!


 でも、こんな奴らが蔓延(はびこ)ってたら暮らしにくいよなー。

 こりゃ何とかしてやらないとなー。

 少しでも住みやすくすれば、もっと人が増えるんだろうなー……

 そうする為には……






 バイゼルの笑顔が浮かんできた。





 そっか。

 やっぱ、そうなるよなーーー……





「店主、悪かった」


 俺はカウンターにジャリっと小銭を置いた。

 と言っても、退職金で割り当てられた金貨が一枚なんだが。

 それを見て、店主は慌てて手を振った。


「……お、おい、幾ら何でもこりゃ多いぜ」

「いいんだ。他の客にも迷惑を掛けた」


 焦る店主を見ると、どうも帝都とここじゃ物価がだいぶ違うようだな。

 金貨一枚って言ったら、帝都の安宿なら一週間程度の代金になる。

 どうやら、故郷の物価すら俺は理解していなかったらしい。

 俺は客席に目を向けた。

 数人だが、チビチビと酒を飲む人がチラホラと目に入る。

 そこで、俺は店中に響くように声を張った。


「皆、騒がせてすまなかった! 今日は俺の奢りだ! たっぷり飲んでくれ!」


 おぉぉぉぉぉーと歓声が酒場中に響く!


「店主、売られた喧嘩とは言え、ちょっとやり過ぎた。あいつらの勘定もこれで足りるか?」

「足りるも何も、逆に釣りが多すぎて出せねぇぜ」

「いいんだ、取っといてくれ。迷惑料だ」


 俺はそう言って、その酒場を後にした。


「また来いよ! そん時はツケで飲ましてやる!」


 という、店主のよく分からん優しい声を背中に受けながら。


 俺は酒場を出ると、まっすぐ実家へと向かった。

 さっきの酒場でよく分かった!

 親父は何をしていたんだ!

 あんな連中だらけじゃ、この町は、領地は発展しないのも当然だ!

 人が住むには過酷すぎるこの土地を変えなければ、この領地の発展は否めない!

 やるぞ、やってやる!

 俺がこの領地を変えてやる!



 俺が領主になってやる!!


そして、このアルブラム領を繁栄させて、帝国一のリゾート領地に変えてやる!


目指せ、黒字運営だ!!












 あれ?

 ーー何だかバイゼルの言う通りになってないか?


ここまでお読みくださり、ありがとうございます!


これからもどうぞ、よろしくお願い致します!


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