鈍感、もしくはアホね(ユノ談)
鈍感らしいです。
なんともまあ、個性的な人物が揃ったものだ。
俗物アレルギーの困ったお姉様、ハ・マーン。
自らを蚊帳の外に置き傍観。必要時のみしか首を突っ込まない娼館の星、エミー。
父親の教えを一途に守り武芸に嗜む、チェン。
元暗殺者のメイド、ユノ。
これを「個性的」と言わずしてなんと言おう?
そんでもって、皆さん俺の花嫁候補と来たもんだ。
こんだけ癖が強い顔ぶれが揃いも揃ったのだから、俺の人生前途多難、間違いなし。
「バイゼルさん、この人選、説明してもらいましょうか」
「と申しますと?」
「明らかにおかしいじゃん? 綺麗だけど超毒舌女。色気ムンムンの性欲丸出し女。武芸一筋の見た目ロリ女」
「私は?」
「うるさい。黙れ。お前はただのメイドだ、元暗殺者」
「ブーーー!」
可愛く拗ねるな、ユノ!
元よりお前は候補じゃない!
元暗殺者であってメイドなのだ!
メイドはメイドらしく、お茶を持ってきなさい!
「ユノ! 皆さんにお茶を出しなさい!」
「嫌だよ、誰がモラハラ領主の命令なんて聞くんだよ!」
「モ、モラハラ……」
「ユノさん、すぐにお茶を用意して下さい。さもなくば、再度吊るしてその細い首を……」
「バイゼル様! すぐにご用意致します!」
バイゼルが最後まで言おうとするのを遮るかのように、ユノは素早い動作で給仕室に直行!
なんなんだよ、あの態度の変容は……
「バイゼル、あいつの人格ってどうなってんだ?」
「さぁ? しかしながら、ご当主の命を聞かぬとは。いささか、躾が必要のようでございます」
「……お前から躾って言葉が出ると拷問しか思い浮かばないんだが……」
「ご当主、それは偏見でございます」
ホッホッホと笑いながら、バイゼルはその場を去って行った。
取り残された俺と花嫁候補たち。
うん、この空気の後始末を俺にしろっていうのか、バイゼル。
「なんとも賑やかだな、この館は」
ハ・マーンさんはそうつぶやくと、応接間のソファにドカッと座り込んだ。
「ふむ、田舎領主の館にしてはなかなかの座り心地だな」
ご満悦頂けたようで……
「あら、ほーんと。デブ貴族の腹の上より座り心地いいわ!」
お姉様、それはいったいどんなプレイなんですか?
「私はこの場で大丈夫です。座ってしまうと、万が一の対応が遅れてしまいます」
いつでも戦闘モードなのね、少しは緊張感を解いてくれ。チェンさん。
「で、お前が我々の婿候補……ということなのだな?」
と、ハ・マーンさんは俺に鋭い視線を向けた。
すげぇ圧だ……
ちょっと後ずさっちゃいそう……
「は、はい。そうなりますが……」
「なんとも頼りなさそうだな。私たち三人をしっかり相手出来るのか?」
「ん? 三人?」
「あら、聞いてないの?」
俺が聞き返すと、エミーが目を見開いた。
「私たち、みんなユリシーズ殿下から声を掛けられてここに来たのよ?」
「……は?」
ユリシーズが?
いや、確かにあいつが段取りしたとは聞いのていたが……
「全く、ユリシーズ様も人が悪い。こんなもやしっ子みたいな奴に、我ら三人を嫁がせるというのだからな」
「は? 三人?」
「ご存知ありませんか? 私たちはそれぞれユリシーズ様から役割を与えられました。私は武の才を活かし、あなたの身辺警護を。ハ・マーンさんはその知略を活かして領主経営に。あなたの夜のお伽を充実させるために、エミーさんが選ばれたのです」
「ちょちょちょちょ!」
ちょっと待て待て待てぇぇ!
何なの、そこ完璧な布陣は!?
「え? じゃ、あの帰った人も何かあるってこと?」
「奴はただ噂を聞きつけて送られてきた。政略結婚だな、ズル賢いジョゼフ公の考えそうなことだ」
えぇぇぇぇ……
なんか俺の知らないところで話が膨れ上がってませんこと?
「ま、私はあなたの夜を充実させるだけだから楽だけどねぇ」
エミーさん、そんな艶っぽい視線で見るのやめて……
朝っぱらからちょっと……
「エミーでしっかり練習しておけよ。私は処女だが、手荒くしたら問答無用で殺すからな」
すっげー怖くて抱けないっすよ、ハ・マーンさん……
「一応、忍びの長より快楽術の修行は受けてきましたが……、なにぶん、暗殺時の手段なので、ご満足頂けるかどうか……」
その前に俺の命がヤバくない? それってさ……
「何にせよ、我ら三人を娶るのだ。良かったな、ご当主」
「え? 一人じゃないの?」
「「「え?」」」
俺がそう問い返すと、全員、目をパチクリさせた。
「ん? ど、どうした?」
「聞いてないのね、本当に」
エミーは俺を見ながら大きくため息をついた。
「聞いてないって、何を?」
「だから、私たち三人を娶るって話よ」
「三人?」
三人て? え、まさか、それって……
「鈍感だな」
「鈍感」
「ここまで言われて分からないなんて、ほんと鈍感」
なんだか言われたい放題言われてるきがするんだが……
鈍感て、なんのこと?
「あのさ、俺って何か鈍感……」
「「「鈍感!」」」
いやいや、口を揃えて言わなくても……
「ユリシーズ様の目も節穴だったか。ここまでくれば嫌でも分かるはずだろうに」
「ほんと、こんな天然、初めて会うかも」
「ちょっと拍子抜けであります」
いやなんかもう、ディスられ過ぎじゃね?
そこまで言われる必要あんのかよ?
「仕方ないです。ご主人様は、領地のことで頭がいっぱいで、我がことにはミジンコほども興味ないんですから」
と、お盆を両手に持ってユノの再登場だ。
て、ミジンコってなんだよ!
「お前な! いったい何を言ってんだよ!」
「この方達は、全員ご主人様の奥様になる方です!」
「だから、候補だろ候補!」
「ちーがーいーまーす!!」
と応接間に置かれたテーブルの上に乱暴にお盆を置いたユノは、俺の前にふんぞり返るようにして立ちはだかると、
「皆さん、奥様になるんです!」
「だから、候補……」
そこまで言って、俺の顔から血の気が引いてくのがわかった。
そう言えば、彼女達、ユリシーズがどうって言ってたよな……
あぁ、あいつが考えそうなことだ。
鈍感て、そう言うことか!
「おんのれぇ、あのクソ皇子がぁぁぁぁぁ!」
「わぉ、ご主人様が怒ってる……」
「ようやく分かったぜ……君たちは…….」
俺は三人に振り返った。
三人とも、「ようやく理解したか」と言わんばかりの顔をしてる。
悪かったな、鈍感で。
間違いない! 彼女たちは……!
「ユリシーズが手を回した、新たな護衛だな!!」
自信満々に俺がそう言うと、四人ともずっこけちまったぜ。
何故だ?
「……鈍感じゃなくて……」
「ただのアホね……」
「強く同感……」
「バイゼルさん、殺す相手間違ってるし……」
なんだか、いたない空気になってしまった……
どうしよう……(汗)
鈍感でも気付くやろ!
てつっこみ、待ってます笑笑