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スキャンダルになっちゃった

 俺は街の酒場で一人。

 グイグイとグラスを煽っていた。


「おいおい、領主の旦那。そんな呑んで大丈夫かよ?」


 酒場のマスターは相変わらずつるっぱげの強面だが、こうして俺の身を案じてくれている。

 うん、優しい奴だよ。


「飲みすぎてそこら中に吐かないでくれよ。掃除が大変だからよ」


 ……違った。

 俺の身を案じてたのではなく、店の心配か。

 残念だ……


「で、何があっ……」

「ジェドォォォォォォォ♡」


 と俺の背中にいきなり抱き着いてきた奴がいた!

 この背中に当たる柔らかい感触は間違いない。


「やぁ、アンジェリーナ」

「どうしたのさ? ジェドが一人でお酒飲んでるなんて、珍しい!」


 そう言って、メチャクチャ顔を近づけてくるのだが。

 同時に殺気を含んだ視線を感じる。

 視線だけ動かすと、青筋立てたマスターがそこにいた。


 待て待て!

 これは俺のせいじゃないだろ!

 オタクのワイフのせいだろ!


「あー、アンジェリーナ。近過ぎだぞ?」

「ジェドならいいのよ! 私を救ってくれたんだから! 何なら朝まで一緒でも大丈夫よ! ね、あんた♡」

「あぁ、朝になって目を覚ましたら夢だって思うさ……」


 すいません、マスター。

 その言葉に似つかわしくないくらい恐ろしい形相をされているのですが……


「いいい、いやいや! 帰る! 俺はちゃんと帰るからな!」

「じゃ、ジェドの家まで送ってから朝まで一緒にいて、あ、げ、る♡」

「明日の朝が来る楽しみだなぁ、領主の旦那……!」


 こ、この夫婦どうしたんだ!?

 揃って俺を罠にでもはめたいのか?

 それとも、お互いになんか当てつけとかしてんのか?


 あ、あぁ! よせアンジェリーナ!

 そんなにグイグイと押し付けてくるな!


「ちょ、もう! 酒が飲めないだろうが!」

「じゃ、あたしと飲めばいいじゃない?」

「お前は仕事しろ! いちいち客と飲むなよ!」


 もう何を言っても無駄そうなので、無理やり押し返してやった。

 アンジェリーナは名残惜しそうな視線を向けながら俺の元から離れていった。

 なんなんだ、もう!


「……すまんな、旦那」


 マスターがボソッと呟いた。


「一体何があったんだよ?」

「……夫婦喧嘩中だ」

「はぁ……、そうか、大変だな」

「ああやって、顔見知りにはまとわりつくように絡んでるんだよ。俺への当てつけみたいにな」

「顔見知りって、客は殆ど顔見知りだろ? 来る客全員に絡んでんのかよ?」


 俺がそう言うと、マスターの顔はズーンと暗く沈み込んだ。


「あ、あ……あ、まぁその……。な? お、おお落ち込むなよ! ここはマスターの店だろ! そんな辛気臭ぇ顔すんなよ!」


 俺は戯けた態度でマスターを慰めようとしたが、喧嘩のダメージは相当でかいようだ。

 キュッキュッとグラスの同じ場所を何度も拭いている。

 ていうか拭き過ぎだ。

 そんなに拭いたら、割れるんじゃない?

 俺はチビリとグラスを口にする。


「で、喧嘩の原因は?」

「今度、六人目が生まれた」

「あぁ……そう」

「その名前でな、揉めた」

「揉めるって、どんな名前なんだよ?」

「アンは、ジェドにしたいと」


「ブッフォォォォォォォォ!?」


 言われて盛大に酒を吹き出したぞ!

 何だ、それ!

 何で俺の名前なんだよ!?」


「そ、それって……!」

「そこで俺が、旦那のことが本当は好きなんだろ、そうなんだな! って言い出したことが……」

「原因か。マスターの嫉妬が原因かよ」

「大元はあんただがな」

「勝手に俺を喧嘩に巻き込むなよ……」


 俺は原因を聞いてため息をついた。

 何だかなぁ、この夫婦ほど、平和な二人はいないような気がしてきた。


「で、旦那はどうした?」

「ん? 何が?」

「何か悩みがあったんじゃねぇのか? いつもの元気がねぇ」

「いつもの俺はどんなだよ?」

「元気だな」

「はぁ、そうかよ……」

「で、何があったんだ?」

「バイゼルがな、勝手にお見合い持ってきた……」


「ハァァァァァォ!?」


 マスターの雄叫びと共に、手元のグラスがパリーンと割れた。

 おいおい、血が出てるぞ。

 大丈夫か?


「お、お見合い!?」

「しっ! そんな騒ぐなよ!」

「いや、いやおみ、お見合い! おい! おい、アンジェリーナ!」

「よ、呼ぶな! お前のワイフはことをややこしくするんだよ!」

「うるせぇ、黙ってろこのヘッポコ領主が! アン! 早く来い! 緊急事態だ!」


 すると、遠くの席でアンジェリーナはアカンベーをしている。

 相当喧嘩してんな、この二人。


「バカやろー! 愛してるのサインじゃねぇ! お見合いだ、お見合い!」

「だから、いちいち大声でまくしたてんな! 黙ってろ!」

「これが黙ってられっかよ! アン! お見合いだ! 領主の旦那がお見合いするってよ!」


 こうして俺のお見合い騒動は瞬く間に領内のスキャンダルへ登りつめていく。


 あぁ、なんてこったい……


 この騒動の後。

 まさかのお見合い候補がやって来るのだった……

これからもよろしくお願い致します!

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