腹が減ってはなんとやら
ついに上位ランキングからは外れましたが、しぶとく日間には残っておりました。
これからもよろしくお願い致します!
「はぁ……、どうして次から次へとこんな……」
「にしても、暗殺者って……」
「暗殺者かー」
「暗殺者でございますな」
俺が大きくため息をついていると、いつの間にか現れたトム君を入れて、横から数名が彼女を見下ろし、「暗殺者」を連呼していた。
その暗殺者はと言うと、髪の毛は艶があって、深い蒼色で、襟足はうなじが隠れる程度に整えられている。
ふむ、ウルフカットってやつか。
目元はやや目尻が上がっていて、鼻筋はスーッと通ってる。
案外、キリッとした顔だなぁ。
体つきは……、細身だけど女性らしいな。
うん、スタイル良いわ。
いけね、値踏みするみたいにジロジロ見ちまった……
格好が格好だけに、な……
「ムガー、フガフガ」
「ん? なんか言いたそうだな。バイゼル、猿轡を取ってやれ」
「分かりました、ご当主。首を掻っ切ればよろしいのですね」
「……いや、そんなこと言ってないし。第一、物騒だし、血が飛び散るし……やめて」
バイゼルめ、ガチでナイフ取り出したもんだから、暗殺者が青い顔で涙目ぐんでんじゃん。
「これは失礼致しました。では外で……」
「もういいから。そっとしといてやれ……」
「それにしても暗殺者が捕まるなんて、ねぇ」
ユリシーズは流し目で見てチラリとバイゼルを見た。
「ほっほっほ、昔取った杵柄というやつですかな」
いやいや、昔取ったって言うけど、一体どんな杵柄だよそれ?
普通、暗殺者捕まえるなんて、間違ってもしねぇだろ!
「取り敢えず、取ってみようぜ」
怖いもの知らずのトム君は暗殺者の前に座ると、ヒョイと猿轡を外した。
「プハー! 死ぬかと思ったぁ!」
その声を聞いて、俺は呆気にとられてしまった。
開口一番。
それ、お前が言う?
「あー! このジジイ! いきなりあたしの足掴んで引きずり下ろして服脱がしたエロジジイじゃん!」
と、暗殺者はバイゼルを睨み、まくし立てるが……
へい、小娘!
そこでストップだ!
バイゼルが色んな意味で危ない!
俺は慌ててバイゼルの前を塞いだ。
「……ご当主。止めてくださるな。この女狐の息を今すぐ止めて見せますゆえ……」
「バイゼル、止まれ。ストップ。ダメ!」
「……くぅ、ご当主がそう仰るならば……」
バイゼルめ、マジで悔しそうな顔しやがってナイフ引っ込めたな。
「ふーんだ! エロジジイ、悔しかったら掛かって来いってんだ!」
「こらこら! お前も煽るな! つーか、暗殺者のくせによく喋るな!」
「暗殺者の前に女の子だもーん」
なんだこいつ? 本当に暗殺者なのか?
しかもいきなり女の子宣言て……
掴み所のない奴……
「まぁ、バイゼル翁には負けるよね。昔はそれこそ名の通った殺し屋だったらしいし」
「「「嘘だろ!?」」」
ユリシーズの突然の発言に、俺、トム君、暗殺者が口を揃えて驚いてしまった!
バイゼルが殺し屋なんて、初耳なんですけど!
「バイゼル!?」
「いや、兄貴……、バイゼルの爺さん呼び捨てはダメだろ?」
「じゃ、バイゼル…….さん?」
「いやいや、さんもダメだろ」
「じゃなんて呼べばいいんだ?」
「……普段通りで結構でございます……」
俺とトム君が、バイゼルの今後(の呼び方)についた相談していると、バイゼル本人からそんな提案がなされた。
そして暗殺者はと言うと……
「バ、バイゼルって……もしかして、あの『路地裏のバイゼル』? 依頼されれば、涼しい顔で老若男女問わず殺すって言う……、泣く子も黙るほどの恐ろしい殺し屋って師匠が……」
とガタガタ震えていた。
亀甲縛りだからな、それで震えられるともうプレイにしか見えない。
しかし、バイゼルの評価がえらく恐ろしくないか?
どういうこと?
「バイゼル……、泣く子も黙るって本当か?」
「ふむ? あなたのお師匠とは?」
「あ、あたしの師匠? 名前? ミショー……だけど?」
「ほう?」
名前を聞いた途端に、バイゼルの目付きが変わった。
「氷のミショーですか? まさか彼女が弟子を取っていたとは」
「あ、ああ、あたしがその、昔色々あって……その」
「昔、よく手合わせしましたよ。彼女とは相性が良くて。仕事も鍛錬も、もちろんベッドでも」
「「「べべべ、ベッドォォォォォォォ!?」
まただ、バイゼルの発言にまたもやシンクロしちまった!
「いちいち煩いですな」
「いや、だって、ベッドって……、敵同士がベッドって……」
「おかしな話ではありますまい。彼女とは一時、夫婦関係にありましたからな」
「「「「夫婦!?」」」」
「……ユリシーズ様まで」
いや、誰だってビックリするでしょうよ!?
過去を一切語らないバイゼルにそんなことがあったとは……
人生とはつくづく分からんもんだねぇ。
俺もまさか領主やるなんて思ってなかったしねぇ。
しかしまぁ、バイゼルが殺し屋で暗殺者の師匠と夫婦だったとは。
想像できないです。
「それにしても、彼女が弟子を取っていたとは」
「氷のミショーね。とんでもなく美人だったと聞いているよ」
「えぇ、そしてとんでもなく床上手でございました。まぁ、私もそこそこでしたが」
「いや待て。あまり聞きたくないわ、その話……」
誰もお前のベッド事情なんて知りたくないっての!
それよりも……
「問題はお前だな」
俺は暗殺者に目を向けた。
「何の目的でここに来たんだ? 話してもらうぞ」
「……」
て、簡単に話さないわな。
さて、どうしたもんか。
「ご当主。そんなことでは暗殺者の口は割れませんぞ」
「じゃ、どうするんだ?」
「色々方法がございますが、一般的には拷問ですな。指を一本一本折っていって、生爪を剥がし、それでも耐えるならば、指を切り落とし、それでもダメならば手足を切り落としてダルマにして……」
いや、それダメじゃん?
話す前に死んじゃうじゃん?
つーか暗殺者。
お前もいちいち「ヒィ!」とか言うなよ。
「あと、女性ならば快楽に溺れさせるという手もあります。媚薬、麻薬で感度を上げ、快感を常に与え続けるのです。次第に感覚は麻痺し始め、こちらの言うことを聞く傀儡と成り果てましょう。最も、暗殺者ですからその辺りの訓練は当然しております。生半可な手は通用しませんが」
生半可って……
じゃどんな手なら通用するんだよ……
聞いてるだけで気分悪くなってきた……
「もう少しスマートな方法はないのかよ……」
「ご当主。少しでも甘さが出れば、それはご自分に返ってきます。手を抜かずにじっくり嬲るように痛め付けながら情報を聞き出せば……」
「もういい……。とにかく」
俺は暗殺者に目を向けた。
彼女も俺に目を向け、ジッと睨み付けてくる。
そして、グゥ……
と彼女の腹が鳴った……
睨みつつも顔が赤くなっているのは気のせいか?
あ、プイってした!
緊張感なくない?
て言うか……
ちょっと可愛くね?
そう言えば……と時計を見ると、もうじき昼に差しかかろうとしていた。
もうこんな時間だったんだ。
そりゃ、腹の虫も鳴くわな。
ていうか、マジで緊張感ねぇなこいつ。
じゃー、仕方ない。
俺は大声で叫んだ。
「飯だ。飯にしよう!」
腹が減ってはなんとやら……ってね。
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