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悩めるジェド

すぐ書きあがったので、連投します。

「いやー、ジェドってば。ホント、やっちゃったんだなぁ。引きこもり」

「あんまり他人事のように言わないでくれますか、皇子様」


 一仕事終えて屋敷に戻ってくれば。

 例のお騒がせ皇子ユリシーズ様が、片手に女はべらせて。

 片手には酒瓶握って俺たちをお出迎えときたもんだ。

 全く……

 誰のおかげでこんなことになってると思ってんだよ?

 この際だから、俺は思いっきり冷たい視線を送ってやった。


「朝から酒とは、大層なご身分ですね」

「そりゃそうさ、私は皇族だからねぇ」


 さもあっけらかんと答えるユリシーズ。

 あぁ、そうですか、そうでしょうとも。

 皇族だからねぇ、あんた。

 それにしても、渦中にいるはずなのに、どうしてこんなに余裕かませるんだろうか?

 いい加減うんざりして来たなぁ。

 サッサと追い出して、いつもの生活に戻りたい……


(この際だからアルベルトの前に突き出してやろうかな……)

「ん〜? 何か言ったかい、ジェド?」


 ……う!

 聞こえないようにわざと小さく言ったのに聞こえたのか!?

 この地獄耳め……


「いや、何も。何もありません。何も」

「兄貴、スゲー気持ちこもってなさすぎだぞ?」

「……当たり前だろ……」


 俺は玄関でトム君とバイゼルと別れると、能天気皇子の脇をすり抜けて、一人執務室に入ってから頭を抱えた。

 俺の脳みそは今後のことで頭がいっぱいだ。

 と言うよりも、今後をどうしていくかで頭の中がグチャグチャだ……


「あー! こうして引きこもったはいいけど、この先どうすっかなー!」

「このままこうしておけばいいじゃないか。いずれ、状況は打開出来るさ」


 った、マジか、ユリシーズ!

 シレーッと執務室に入ってくるなよー!

 入って来たかと思えば、これまた他人行儀なこと言ってさぁ……


「打開って、いつになるか分からないじゃないですか! それに、撃って出ようにも我々には……」

「碌な戦力もないし、戦ったところでどうせ負けは見えてる。だから引きこもったんだろう?」


 うぐ……、確かにそうだけど……


「君の選択は正しいよ、ジェド。何も武力だけが戦う術じゃない。会談という、話し合いの場を設けてお互いの利潤について追求しあうことも、また戦いだ。だけどね」


 そう言いながら、ユリシーズは執務室のソファに腰を下ろした。


「兄は……、アルベルトにそれは通用しない。兄は皇族としての自分の立場を履き違えている。力で制すれば、下の者は従うと思っているんだ。実際は違うのにね」


 と、急に寂しそうな顔になった。

 ユリシーズのそんな顔は、初めて見た。

 だけど、それもすぐに消え、彼はいつものようにはにかみつつ、続けた。


「皇族はこの国の象徴さ。象徴であるがゆえのプライドや誇りだってある。けど、兄にあるのは、傲慢や驕慢、驕りだ。皇族という立場が兄の目を曇らせている。兄が皇帝になったところで、この国の未来に光などあるはずがない」

「そこまで仰るなら、どうして身を隠すなど……。あなたがどうにかできなかったのですか?」

「事態はすでに動き出していた。正直、兄の追っ手を振り切るので精一杯だったのさ。暗殺者を数人向けられたおかげで、私の部下が何人もやられてしまった。カレンが生きていたのは、本当に幸いだったよ」


 そこまで言って、ユリシーズは視線を床に落とし、ため息をついた。


「信頼の置ける部下の多くを亡くした。私のせいだ」


 そして、膝の上で組んだ両手はブルブルと震えている。

 そうか、考えてみればこの人も今回の被害者だったんだよな。

 それも自分の身内から敵視されることになって。

 挙句に殺されかけたなんて、俺ならトラウマになるぞ。

 皇族ってのは、つくづく大変な家柄だってことか。

 それは分かるんだけど。





 どんちゃん騒ぎしてる理由にはならねぇよな。




 なんて考えていると、どっか家の中でドタバタと何かが暴れる音がした。

 音からして天井裏とかか?

 それもすぐに止んだ。


 止んだんだけど……


「ご当主。失礼致します」


 と、バイゼルがいきなり執務室に入って来た。


「どうした、バイゼル……ん?」


 入って来たのだが、一人じゃない。

 片手で何かをズルズルと……


「モガモガ! モガガガガガーー!」


 ジタバタと身をくねらせながら暴れる何かを連れて来た。

 白い布で包まれてるから何かは分からんが……


「バ、バイゼル? これは?」

「どうやら暗殺者のようでございます。天井裏に潜んでおりましたので、捕まえてまいりました。

「あああ、暗殺者ぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺は慌てて立ち上がると、急ぎ執務室を出ようとしたのだが……


「ジェド。こいつは既に捕らえられている。逃げ出す必要はない」


 とユリシーズは立ち上がり、モゴモゴ言ってる何かに近付いた。


「ちょっと、危なくないすか?」


 と俺が忠告するのも聞き入れず、ユリシーズは暴れる何かを隠している白い布を掴んで取り払った。


 すると……


「フガフガー! フガー!」


 何とまぁ……

 白い肌に下着のみ。そして口には猿轡。

 何ともいたいけな女性が姿を現したではないか。

 それにしても下着姿って……

 一体何のプレイだ?


 俺はもう一度バイゼルに尋ねた。


「……暗殺者?」

「左様でございます。捕まえた際に、身につけていた装備を引っぺがしたら服も一緒に引っぺがしてしまいました」

「……それは何とも……。で、なんで縛り方が亀甲縛りなんだ?」

「ご当主。暗殺者で女となれば、亀甲縛り(これ)はセオリーでございます」


「モガー! モガガガガガ!」


 ……俺はまた、ため息をついた。


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