俺のサムズアップ
ようやくインフルエンザから解放されてきました。
駄文ですが、よろしくお願いします。
また、多くのアクセスを頂き、心より感謝申し上げます。
小早川殿たちは、それぞれ分かれて帝国軍と会敵していた。
彼ら「星屑の七星」は文字通り七人。
対する帝国軍の軍勢は、それを圧倒的に上回る数だ。
にも関わらず、七人はバッタバッタと帝国軍の兵士をねじ伏せていく。
小早川殿も凄ぇが、他のメンツもかなり凄ぇ……
あの赤い奴なんか、大剣振るだけで地割れ起きてるし。
拳法野郎は飛び跳ねたかと思えば、
「ほゎたぁぁぁぁぁ!」
て甲高い奇声上げて取り囲んだ兵士を蹴りで薙ぎ倒すし。
棍棒デブはブンブン振り回してるかと思ったら、スパパパーン! て兵士を吹っ飛ばしてるし。
ナイフ使いは素早い動きで敵の懐に入ると、身体中を斬り刻んでいくし。
槍のお兄さんは、突いて突いて突きまくって、騎馬隊を後方へ押しやってるし。
狩人マンは、弓を目にも留まらぬ速さでピュンピュン引いて、兵士の頭上から、それこそ雨のように矢が降り注いでいる!
ありゃダメだな、下にいる奴はまず逃げられんわ。
でも、急所は避けてるなぁ。
見て見て! 矢が足や腕に刺さるのに、頭とかには刺さらねーんだよ!?
何つーテクニック!
あんな奴らに自警団任せてたのかよ!
いつかマジで死人が出るかもな……
「おぉー! チャンバラ野郎たち、スゲェなぁ!」
トム君も感嘆の声を上げていた。
ようやく望遠鏡で彼らの姿を捉えることができたか。
「小早川殿たちは足止めをしてくれてるみたいだな」
「は? 兄貴、どういうこった?」
「彼らはあくまでも時間稼ぎのつもりなんだろ。こっちの体勢が整うまでのなー。現に怪我人はいても死者はいない。あの乱戦の中で誰も殺さないって、かなりの高等技術だぞ」
「へぇ、そうなのかぁ」
「へぇって……」
分かってるのか分かってないのか。
トム君からの返事からは、そんな感じが伝わってきた。
トム君らしい返事の仕方だよ。
ま、戦闘に関してはど素人のトム君からすれば、そんな反応なんだろう。
かく言う俺も、戦闘の経験はあまりないけど。
「バイゼル。彼らは領地の境界線付近で戦ってるんだよな?」
「はい、その通りでございます」
「例の作戦でいくとして、領地の食料事情その他もろもろはどうなる?」
「全く問題ございません。我が領地のGDPはほぼ一〇〇パーセントでございます」
「じ、……」
よく分からん言葉を使われたが……
まぁ、大丈夫ってことだろうな。
ーーん?
俺はバイゼルから視線を逸らし、小早川殿たちの方を見た。
何かを感じたんだ。
何かヤバい感じのやつ……
と、俺が視線を変えたその時。
帝国軍の遥か後方から、凄まじい勢いの爆炎が降り注いできた!
「あ! あれは……!」
俺は急ぎ、胸の前で指を組み、詠唱をした。
珍しいこともあると思うだろうが、詠唱をした!
『集え、光の源よ。集え、数多に散らばる光の声よ……」
詠唱と共に組んだ指の中で魔力が練られていく。
その様子は手の中で光がボンヤリと見える程度なんだが、それを見ていたトム君が、
「おおー……!」
と声を上げた。
けど、今は無視だ!
「小早川殿たちを護れ! 守護防壁!」
俺が手を前方に差し出すと、指先から魔力が飛んでいき、帝国軍と戦っている小早川殿たちを包み込んだ。
同時に彼らの頭上から爆炎が降り注ぐ!
俺は目を見張った。
間違いない、あの魔法は……
「連携魔法『グランドエクスプロージョン』?」
集団で行う高等な攻撃魔法だ。
あれを使うってことは……
「宮廷魔導師団が、後ろにいる!」
俺は奥歯をギリッと噛み締めた。
なんてこった!
あの魔法を使うってことは、上位の魔導師たちが来てるに違いない!
奴らがいる限り、小早川殿たちは劣勢になるだけだ!
何とかしなければ!
「バイゼル! 最悪、連中はどこで止めとけばいいんだ?」
「理想は彼らのいる境界線ですが…….」
「分かった。みんなは今すぐここから避難してくれ!」
「は? お、おい兄貴! 兄貴はどうするんだよ!?」
「俺か?」
心配するトム君に、俺は振り返った。
「ちょっと野暮用を済ましてくる」
そう言って俺は見張り小屋の窓から颯爽と外へ飛び出し……
「何が野暮用だ! 兄貴も逃げんだよ!」
とトム君が華麗に飛び越えた俺の足を掴みやがった!
お陰で俺は地面に真っ逆さまにダイブだ!
鼻っ面を地面に打ったのは言うまでもない……
ちょっと鼻血出たぞ……
「ちょっ! ト、トム君! 何するんだ!?」
「そりゃこっちのセリフだぜ! 生きるか死ぬかって時に、真っ先に逃げなきゃなんねぇ野郎が、『ちょっと野暮用だ』ってカッコつけてんじゃねぇよ! 兄貴は領主だろ! ここで死んでどうすんだよ!」
ト、トム君……
そこまで俺のことを考えてくれてたのか?
ちょっと僕、感動して目頭が……
「兄貴が死んだら、儲け話がパーになんだろが!」
不思議だな、さっきまでの感動が一瞬で消え失せた。
はいはい、所詮俺は君にとっちゃビジネスパートナーの一人だよ。
あー、感動して損したわ。
俺はちゃっちゃと立ち上がると、パンパンと身に付いた誇りを払った。
「ほら! あいつらが止めてる間にとっとと逃げ……よ……う……ーー」
「トム様、ちょっとうるさいですよ」
トム君の姿が揺らめき、消え、その向こうからはバイゼルが現れた。
「飛ばしたか?」
「今頃トム様は街のどこかでございます」
「そうか、助かった。バイゼル! 後は頼むぞ!」
「ご当主」
「なんだ?」
踵を返した俺に、バイゼルは声を掛けてきた。
「ーーご武運を」
そう言うバイゼルに、俺は振り返り、
「任しとけ」
そして、サムズアップ!
「元宮廷魔導師、舐めんなよ!」
ここまでお読み下さり、ありがとうございます!
これからもよろしくお願い致します!




