星屑の七星
新年早々の更新でございます。
明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願い致します。
「うぉー! すげー! 小早川殿、凄すぎるでござるー!」
望遠鏡でその様子を見ていたが、小早川殿!
相変わらず、剣の腕が立つ! いや、立ち過ぎ!
相手を斬らずに着てる物だけをぶった斬るって、一体なに!?
どんな修行積んだらあんな技が出来るんだよ!?
凄すぎんだろ!!
「どうしたんだよ、兄貴!」
「小早川殿がやっちまったぜぇ! スゲェな、あの剣術!」
「どらどら! 俺にも見せてみろよ!」
「あ、こら、ちょっとトム君! 割り込んでくるなよ! 大体、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだぞ!」
俺が一人興奮して歓声を上げている横から、望遠鏡を横取りしようと手を伸ばしてきたトム君だが、そうはいかない!
鮮やかな身のこなしで俺はそれを……
「あーーー! 俺の望遠鏡!」
あっさり交わすはずが、あっさり取られてしまった……
くっ……! 手癖の悪いヤツめ……!
トム君は颯爽と砦の窓に立ち、望遠鏡を覗き込んだ。
「おー! どこだチャンバラ野郎は!?」
「返せ、トム君!」
「やーだよっ! 兄貴ばかり良い思いすんじゃねぇよ!」
と全く返す気ナッシングのトム君。
良い思いもクソもないだろ、俺は戦況をきちんと見届ける立場にあるんだぞ!
ここは仕方ない……!
「身体強化!」
自分自身に身体強化の魔法を施し、お手軽視力アップだ!
これがなかなか便利でね。
身体の全能力が向上するから視力もグーンと上がる!
宮廷魔導師時代、これを使って下宿の窓から城のメイド部屋をよく覗いてたなぁ。
ジェニファー、意外と着痩せするんだよなぁ。
元気かなぁ……
……
違う違う、今はそんなことを思い出している場合ではない!
小早川殿の勇姿を拝まなければ!
いや、戦況の確認をしなければ!
俺はトム君から窓の向こうへと視線を移した。
それも腕を組んで颯爽と、毅然とした姿勢で、だ。
俺の横では、トム君がキョロキョロと望遠鏡を振り回している。
クックック、しばらくそのままでいるんだなぁ。
お、早速、小早川殿を肉眼で確認だ!
聴力も強化されているからな。
よく聞こえるぞ!
なんか帝国軍の、馬に乗った偉そうな隊長っぽいヤツが顔を真っ赤にしてやがるぜ!
ーー
「き、貴様ァァァァァァァ!」
「死んではおらぬ。この者共を連れてさっさと帰るでござる」
「っざけんな、このござる野郎がぁぁぁぁ! 歩兵共、何してやがる! さっさと前へ出ろ!」
「お待ちを……」
アデロが歯軋りをして悔しそうに吠えているところに、歩兵を指揮する騎士が寄ってきた。
「あれほどの手練れ、歩兵をいくら投入しても斬り伏せてしまうでしょう。ここは弓兵を前に出し、矢を射られせてみれば?」
「ほ、ほう?」
「しょせん、奴は一人です。ここは数で圧倒すればよろしいかと」
騎士の助言を聞き、アデロの顔から、先程までの苦虫を噛み潰したような表情が消えた。
「それは良い! 矢の餌食にしてくれるわぁ!」
そして、勝利を確信した表情に変わる。
「歩兵共は下がれ! 弓隊、前に出ろぉぉぉ!」
アデロが命ずると、騎馬隊の後ろから弓矢を構えた兵士たちの列が現れた。
「さぁ、奴にたーっぷり矢をくれてやれぇぇ! 弓隊、弓を引けぇ!」
アデロの威勢の良い号令で、弓兵たちは一斉にツルを引き……
「放てぇぇぇぇぇ!」
ーー放った!
その数、数多!
五右衛門に向かって放たれた矢たちは、弧を描き、ピュン! という甲高い音と共に押し寄せる。
だが、五右衛門はその場を動くことなく、微動だにしない。
アデロはほくそ笑んだ。
彼奴め、自分の行動がどれだけ無駄なことか、やっと分かったか?
そして、彼の脳裏には、身体中に矢が突き刺さった五右衛門の姿が浮かんでいる。
死ねーー! 死ね死ね死ね死ね死ね!!
アデロは勝利を確信した!
ーー
「うわー! ヤバい! 小早川殿が!」
あいつら! たった一人で立ち塞がってる小早川殿に対して、どんだけ矢を撃ちやがったんだよ!
何かないか?
俺の魔法で食い止められるものは?
時間を止める? もしくは遅くする?
ないない! 補助魔法でそれはない!
あ! 防御力上げれば!
身体強化か!?
いやいや、他にないか?
バイゼルの瞬間移動とかはどうだ!!
何、対象物が動くから無理?
ていうか、それ! 遠隔で使えるんかい!?
初めて知ったわ!
て、呑気に突っ込んでる場合ではなーい!
やっぱりこれだ、身体強化だ!
でも届くのか? 届かなかったらどうしよう?
えぇい、ままよ! やってみなきゃ分かんなぇ!
飛ばしてやるぜ、俺の自慢の魔法ををををををををを!!
と、俺が一人息巻いて魔法を放とうとしたその時!
「ーーバーニングショット!」
どこからともなく声が聞こえ、砦の奥から、燃え盛る炎が放たれた!
それは眼を見張る速さで小早川殿の近くまで飛んでいき、彼の頭上で爆散!
小さくなった炎が彼を守るように覆い、帝国軍の矢を燃やし尽くしていく!
「は? な、なんだ? 何が起きた?」
目の前で突然起こった光景にあんぐり口を開けていると……
「おりゃーーー!」
と図太い雄叫びと共に、図太い人影が砦の塀を飛び越え、棍棒を担いで敵陣に向かって駆け出していくではないか!
「な、なんだ! 誰だあれ!?」
「はぁーーー! てりゃぁぁぁぁ!」
今度は武器を持たず、上半身裸族の細マッチョが飛び跳ねた!
それをきっかけに、次々と人影が飛び出して小早川殿の元へ集結していく。
一体、なんなんだあいつらは?
そうして集まったのは七人。
風吹き荒れる荒野に七人の男たちが、帝国軍の行く手を阻んでいる!
帝国軍の隊長はその光景に驚いているようだ。
「な、なんだ貴様ら……?」
隊長が口を開くと、赤い鎧の男が足を大股に開き、大剣を振りかざして肩に担いだ。
そして名乗りを上げた!
「剛星のバン!」
次に、上半身裸族の細マッチョが何かしらの拳法? の構えを取った。
同じように名乗りを上げていく。
「煌星の、キム!」
軽やかな身のこなしでナイフを両手に持つと、それを弄ぶかのように回してポーズを取る優男。
「疾星の、スナッフ!」
槍をブンブン振り回し、バン同様、肩に担ぎ、キザなポーズを取る青い装甲の男。
「閃星の、レッド!」
大地な跪き、弓を構える狩人のような出で立ちの男。
「翼星のラウルス!」
棍棒を地面にドン! と突き立て、腰に手を当てながらの仁王立ち!
ポッチャリした体型だが、それが一際眼を引く男。
「回星のマーシ!」
そして、最後……
空に向けて人差し指を立てる男ーー
「……天星、小早川五右衛門!!」
小早川殿は、そのまま掲げた手を下ろし、帝国軍の隊長をビタリと指差した。
「七星が降り立つとき、それはお主たちの敗北を意味する」
「なんだとぉぉぉぉ……?」
「このアルブラム領の夜空に瞬く七つの星!」
小早川殿がそう叫び、鞘に収めた剣を自分の体の前に横一文字に突き出すと、彼を中心に七人が並び、それぞれが武器を構えた!
「「「「「「「我ら、星屑の七星!!」」」」」」」
そして、小早川殿はスラリと剣を抜くーー
「いざ尋常にーー。参る!!」
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