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言葉使いは丁寧に!

途中で視点がかわります。

「ユリシーズ殿下がうちからの上がりをチョロまかしやがっただとぉ!?」


 ト、トム君、なんて言葉使いを……

 俺たちはことのあらましを掻い摘んで彼に説明したのだが、解釈が掻い摘み過ぎたようだ。

 非常に分かりやすいのだが、非常に言葉が悪い。

 よくそれで経営が出来るな……


「トム君、落ち着け!」

「これが落ち着いていられるか! 殿下の兄貴にゃー、次の取引についても相談してたんだ!」

「ん? 次の取引?」


 俺とバイゼルは顔を見合わせた。


「トム様、その取引の相談とはいつ頃されていらっしゃいましたか?」

「ん? えーと……」


 トム君はスケジュール帳を開いてパラパラとページをめくり出した。

 ふむ、その感じは経営者っぽい感じがするな。


「これだ。ひと月半程前だな。新しい生地がどっかのなんとかって領地で開発されてるから、新商品にどうだって」

「その新商品とは?」

「うちの店、今んとこは野郎モノばっか仕入れて売ってるからな。バリエーシ増やしたくて、そろそろオンナモンも売り出そうと思ってたんだ。その、な。下着用の生地にどうかって……」


 別に悪い考えじゃないんだが、トム君が言うとなぜか卑猥に聞こえる。

 それに、若干照れ気味で話すのはなんでだ?


「ま、まぁ、それは置いといて……」

「話が逸れそうですな」

「アネッサをモデルにしようと思ってるんだ。絶対客が集まるって確信もあるしよ! 何せアネッサだ! あのスタイルで帝都のデザインだぜ! そうすれば……」


「「あぁ、やっぱ逸れてきた……」


 俺とバイゼルは揃って額に手を添えた。


 話は執務室での一件に遡る……


 〜〜〜


 俺とバイゼルはアルベルトの話を聞いて耳を疑った。


「ユリシーズ殿下が上がりをチョロまかせて懐に入れたってぇ!?」


 俺は机の上にドン! と手をついて勢いよく立ち上がった!

 それくらい驚いた!

 あのユリシーズがそんなことする筈ないだろ!


「ご当主!」

「なんだバイゼル! 今聞いたか!?

 ユリシーズ殿下は!」


 俺がそうまくし立てると、バイゼル横から俺に目配せしてくる。

 何のことか分からいままでいると……


「(その言葉使いはマズイです)」


 と小声で言ってきた。

 ふと貴族たちを見ると……


 …………


 みな、眉をひそめながら俺の方を見てる。

 バイゼルが言葉使いと言ってたな。

 マズった……


「ぶっ、チョ、チョロまかした?」


 アルベルトが吹き出した。


「ぶっふふ! ふはははは、ハーッハッハッハ!」


 と思えば腹を抱えて笑い出した。

 なんだ、何のスイッチを押したんだ俺は?


「ちょ、あは、き、聞いたか、みんな! ちょ、チョロ、チョロまかしただとぉぉぉぉぉぉ!」


 終いにゃ腹抱えながら机を叩きだした……

 なんなんだ、こいつ。

 マジで腹立ってきた。

 ていうか、殺意が湧いてきた……

 他の者は、と言うと……

 ほれ、ドン引きだ。

 こんなアルベルトの姿を見たことがなかったのだろう。

 かなり視線が冷たくなってるぞ、お前ら。

 こんな主君を持って哀れだな……


「はぁはぁ、ひぃひぃ、あー、笑った笑った。ぶふ、ププッ!」


 そう言いつつ、皇子はまだ若干吹き出しつつも体を戻して真面目な顔に……


 いや、吹き出してるな。

 緊張感なさすぎだろ、こいつ。

 ぶん殴ってやろうか?


「いやー、しかし、聞き捨てならんよなぁ、その言葉使いは」


 そう言われて、俺の胸が急に締め付けられた感じに陥った。


「一貴族。それも領地を束ねる領主ともあろう者が、そのような言葉使いではな。お前の兄の方がまだ、作法がなっておったわ」


 くは! 痛いところを突きやがって!

 あいにくこちとら、まさかの領地継承だったんだよ!

 悪かったな、クソ皇子が!


「ユリシーズもユリシーズだ。アルブラム領を束ねる者が、このような作法がなっていない半端者と気付きもせんとは。全く、あいつの尻拭いも一苦労だな」

「むっ!?」


 アルベルトのその発言に、バイゼルの細い目と眉間がピリリと光った!


「アルベルト様、かようにそのようなことを? 恐れ多くもユリシーズ様は我らの考えにご賛同下さり、支援を賜っただけのことですが?」

「うん? 何か言ったか、執事」

「どうやら耄碌して碌に話もお出来にならないようですな」


 とバイゼルはかなりヤバイ雰囲気で立ち上がった。

 だって、目が真っ黒になって全身から殺気が溢れまくって、青筋立ってるし!

 問答無用で「殺す」って顔に書いてあるし!


「バイゼル! 待て止まれストップそこまで!!」

「止めるなぁ、ご当主!! このバイゼル、命に代えても……」

「こんなところで命を賭けるな! とにかく待て!」

「ぐぬぅ! う、動かん……!」


 必死の思いで、俺はバイゼルの腕を握って止めた。

 にしても、本当に老体かこのジジイは!

 俺自身に身体強化を施してどうにか止めれたレベルだぞ!

 そんでもってチラッとクソ皇子に目をやれば、涼しげな顔でティーカップ啜ってやがる。

 ちっ、話が本当に進まねぇ!

 って心の中で舌打ちした後に、クソ皇子はカップを置いた。


「とにかく、この領地の管理はこの私。アルベルト・フォン・ナザールが引き継ぐことになった。無論、ユリシーズが持っていた他の領地もだがな」

「……(マジかよ、こいつで大丈夫なのか?)」

「あぁ、そうだ。くれぐれもおかしな真似はしないことだ。こんなちっぽけな領地、捻り潰すのは造作でもないぞ」


 とニタリと笑いながら、クソ皇子は席を立ち、取り巻き共と屋敷を出て行った。


 〜〜〜


「というのが、今回のあらましだ」

「なんだ、兄貴だって口悪いじゃねぇかよ。しかも、帝国の皇子に向かってチョロまかすって…….ププ!」

「トム君、口は慎みたまえ」

「ちゃっかりテメェの棚は持ち上げてるくせによ。ま、なんだな。アルブラム領は兄貴がいりゃー何とかなるし。万が一帝国がチョッカイ出してきても大丈夫じゃね?」

「あんまり買い被り過ぎるなよ、トム君。俺は補助魔法しか使えない、能無し魔導師よ?」


 て、おい。

 トム君、バイゼル。

 なんでそんな悲しそうな視線でオレを見るんだ?


「全く、呑気なものですのぅ」

「本当に……、勘違いにも程があるぜ」


 一体なんのことだ?


「それよりも、気になるのはユリシーズ様の行方ですな」

「そうそう! あのクソ皇子の言い方からして、捕まってるって感じじゃないか?」

「下手すりゃ殺されてますな」

「うそー!? そこまでしないでしょー!?」

「ユリシーズ様は非常に優秀であると同時に人望も非常に多いと言われております。次期皇帝の座は十分にあり得るかと」

「世襲制じゃないのね……」

「基本的には世襲制ではありますが、長子ではなく兄弟姉妹のいずれか、というのがナザール帝国の通例でございますな。因みに当代皇帝は末弟でありながら、全ての勢力を完膚なきまでに叩き潰し、蹴落としながら今の座に登りつめた、超実力派でございます」


 なんか、急に血生臭い話になってきたな……

 あんまり継ぐ継がないの話はききたくないんだが……

 俺なりに少しトラウマなんだよ、そういう話。

 俺だっていきなり領主になったわけだし。


「なんか……スゲェな……」


 トム君も額から汗をダラダラ流しながら話を聞いている。

 そりゃスゲェだろうなぁ、普段はそんなこと考えたりすることだってないし。


「アルベルト様は能無し皇子と揶揄されておりますが、何をしでかすか分かりません。ある種、思い切りが良く、物事を推し進めていく方と耳にします」

「思い切りがいいんじゃなくて、自制が効かねぇんじゃねぇの?」

「ここであれこれ言ってたって仕方ない。とにかく、第三皇子の行方を探さにゃ! 俺たちも帝都へ向かおう! 昔の知り合いに頼めば情報が貰えるかも!」

「ダメです。ご当主は領地を離れてはなりませぬ!」

「じゃぁ、どうしろってんだよ!?」


 俺が声を荒げると、バイゼルは不敵な笑顔を見せた。


「……お任せ下さい。考えがございます」


 ーー


「で、俺の出番で訳か。バイゼル」

「は、リチャード様。申し訳ございません」

「……いや、まぁ、ジェドには無理やり領地を継がせてしまったからなぁ。罪滅ぼしじゃないけど、やっとくわ」

「ありがとうございます」

「はぁ、しかし帝国はなんだかおかしな方向に向かってるねぇ」

「皇帝陛下が倒れられたと聞きましたが?」

「おうよ。だが、ありゃ多分暗殺だな。皇帝がそう簡単に倒れる訳がねぇ。倒れる前の夜に、十人くらい女侍らして朝まで酒池肉林とか聞いたぞ」

「……噂にしては尾ひれが付きすぎていますな……」

「そんだけ元気だった皇帝が病気なんかで倒れるかよ。絶対なんかあるなぁ、その第一皇子は」

「くれぐれもお気を付けを」

「分かってるよ。やっと冒険者の勘が戻って来たんだ。ここらで気合の入った仕事しねぇとな」

「ご武運を……」


 そこで、手の平に乗った水晶の光が消えた。

 リチャードはそれを腰に下げた袋にしまうと、窓から外を眺めた。

 窓の向こうには帝都の街並みが見える。

 リチャードが今いるのは、帝都にある小さな宿屋だ。

 冒険者の時は『コンドル』と名乗っている。

 本名で冒険者をしていると素性がすぐに分かってしまうため、リチャードは偽名を使っていたのだ。

 夕方が過ぎ、夜が来る。

 リチャードは立ち上がり窓を開けた。

 フワリと冷たい風が入ってくる。


「さて、仕事の時間だな」


 そして目の部分だけが細くくり抜かれた仮面をかぶると、夜の帝都へと消えていった。


ここまでお読み下さり、ありがとうございます!


よろしくお願い致します!

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